変わりゆく世界③

 真昼達が前線で戦っている頃。

 赤い警報が鳴った。そしてコードは991――――デストロイヤーを示すものだった。しかし夢結も、そし手横浜衛士訓練校の人員で驚いている者は皆無だった。


 つい先日のこと、人類が撤退した半島の近くに展開している監視の艦隊、そこから報告が入ったからだ。規模は定かではないが、少なくないデストロイヤー群が入水したということ。それを、基地の人間は前もって聞かされていた。そして、海の向こうで海に入ったあいつらは一体何処に向かうというのか。軍に所属する人間で、その答えが分からない者はいなかった。



そしてシノア達の混成レギオンは海岸部より少し後方で待機していた。ここは防人の街。過去、同じく半島の向こうより侵略しようとする人間より日本を守ろうとした兵士たちが集った街だ。時代が変わっても、この街の役割は変わらない。


 


 ただ、敵は変わった。支配域は、人類史におけるどの英雄よりも広大な。そしてかつての元寇を彷彿とさせる大型の台風、それを逆に利にしてしまえる怪物だった。とはいえ、ここにきて逃げ出すような兵士はいなかった。


 


 必然的に、戦闘が始まるということ。


 真昼達がラージ級を撃破した報告を受けて、また砲撃要請の受諾共にシノア達のレギオンは接敵していないが、前方で戦闘音が響きはじめた。

 それと同時に地下よりデストロイヤーが、現れた。それに加えて通信が途絶。近距離通信しかできなくなった。


 また戦術データリンクも途絶して、敵の量もわからない。更に空の向こうより飛行型のミディアム級が多数接近してきていた。

 砲撃の音は、嵐の中でも聞こえうる。シノアと愛花はその音から状況を分析していた。



「かなり、良くないな」

「うん、撃ち過ぎだね。不安に思うのは分かるけど………上手くないね、これ」


 デストロイヤー先陣であるミドル級とミディアム級、そのどちらも大きな意味での対処方法は同じだ。それは点射による、急所への攻撃である。しかし聞こえる音からは、その戦術が上手く使われている様子は伺えなかった。暗雲と暴風、視界不良と雑音が混じる中、かすかにだが見えるマズルフラッシュの光と発砲の音。それは断続的ではなく、いくらか冗長さを感じさせる具合だった。

 


(………防衛戦の初戦、そして悪環境での戦闘。弾薬の消費速度が格段に高くなるということは、基地司令部も把握しているはず)



 愛花は知っている。気が高まるから、引き金が軽くなる。そして風に流されて命中率が悪くなるから、斉射時間は長くなる。それは必然というもの。そして事前にそれが把握できないほど、防衛軍の横浜衛士訓練校の指揮官は馬鹿ではないだろうことは風間や愛花にも分かっていた。大陸での戦闘でそれを学んだ軍人は多い事を。


 

 戦況は最悪に近い。外は大型台風の猛威が。波は高く、艦隊の援護射撃はほとんどと言っていいぐらいに期待できない。そんな中での、後背すぐに市街地を背負っての迎撃戦だ。市民のほぼ全ての避難が完了しているとはいえ、衛士と防衛隊にかかる重圧は大陸での戦闘の比ではないだろう。


「真昼お姉様がラージ級を殲滅してくれたのが良かったわ。この嵐の中で、通信をズタズタにされてレーザー網まであればかなり被害が出ていてもおかしくない」


 九州にきてから今まで、長くはないが防衛隊と衛士の練度はシノアも把握していた。西部方面の防衛軍の総力は低くなく、衛士以外の戦闘員の士気は高い。練度も、東南アジア方面軍の精鋭部隊と同じか、それ以上だ。

 その時だ。

 空より戦術輸送機がやってきて短距離通信が入る。


『こちら、混成ヴァルキリーズの現場指揮官を任された横浜衛士訓練校訓練教導官、神宮寺まりもだ』

「神宮寺教官!?」


 神宮寺まりもは既に衛士としては戦力にならない。だから後方にいると思っていたのだが。


『詳しく説明している暇はない。端的に言う。一ノ瀬真昼特務小隊の救出任務とジャミングデストロイヤーの破壊任務をこの混成レギオンで行う。編成は各自で確認。全員この戦術輸送機ヘリに乗って、各地点で投下する』

「了解」

 

 全員が戦術輸送機ヘリに乗り込む。そして神宮寺まりもの装備に驚く。


「神宮寺教官、その装備は?」

「ネクスト……そのプロトタイプらしい」 


 ネクストステージ計画

 25歳以上の適性ある者を対象に行う強化改造プラン。またそれが扱う兵器について。

 魔力はまだ解析できた部分が少なく、信用できない技術。戦術機も発展途上でしかない。ならば正当な科学の発展ツリーでのアプローチではどうなのか。少なくとも既存の爆弾でヒュージを倒せることは確認されている以上、規模や威力を大きくしていけばミドルの進化系であるギガントやアストラも射程範囲に入ってくる。


 そもそも銃や爆弾より衛士が採用されたのはコストパフォーマンスが良いからだ。ならばそれを度外視した、ただ一度の決戦のための兵器を実験的に作ってみても良いのではないか。ついでに用済みになった25歳以上の衛士達の職業斡旋にもなる。

 そうして始まったネクストステージ計画。

アーマードコアを基本骨子に据えて、実験的に開発されたのが『00』とそのシリーズ。


 順調に混成レギオンが配属された戦場へ投下されていく。


「一ノ瀬真昼特務小隊の救助には私も入る。メンバーはここに残っているシノア、愛花、一葉、芹香だ! 各員投下!」


 隊長である神宮寺まりもの号令の瞬間、一秒の光が戦術輸送へリを貫いた。視界が真っ白に染まり、体が焼ける。

 戦術輸送ヘリは回転して各部を爆散させながら地面に墜落した。


「総員、無事か!」

『はい』


 神宮寺まりもの掛け声に全員が返答する。

 燃えている機体の中から這い出してくる。衛士達は全員無事だった。しかしパイロットの救出に回った一葉と芹香は顔を青ざめさせた。


「お腹に破片が」

「意識はありますか?」

「俺達の……ことは良い、任務を」

「そんなわけにはいきません! 今すぐ助けます!」

「燃料モーターの減りが早い。いつ、引火するか分からん。ぐっ」


 自分達を見捨てさせようとするパイロットたちとは反対に、一葉と千香留は機体を持ち上げ、一人づつ救助しようとする。だが、あまりに危険な状況過ぎた。一人の救助も大変なのに、二人の救助もなるとそれは不可能に近かった。更にヘリから助けたところで何処かに届けるすべがない。

 持っていくか、置いていくか。


「シノア! 愛花! 二人をどけろ」


 まりもは拳銃に弾丸を装填して二人に向ける。

 何をするのかを察した芹香と一葉は止めようと動くがシノアと愛花に阻まれて何もできない。夢結はその光景を受け入れながらも見ないように顔を背けた。


「二人とも、名前を」

「防衛隊所属航空ヘリパイロット、佐々木優少尉です」

「同じく、パイロットの九十九奈々少尉です」

「重傷により作戦続行不可能、また救命の見込みもないとしてここに慈悲の一撃を与える」

「待ってください! まだ助かる見込みは!!」


 叫ぶ一葉に組み敷く愛花は優しく言う。


「あるかもしれません。ですが、任務よりは軽い。そして彼らを運ぶすべも失われています。ならここで痛みを長引かせてデストロイヤーに食われるより」

「駄目よ、駄目駄目駄目!! そんなまだ生きているのに!! あきらめるなんて!!」

「ごめんなさい、霧ヶ谷さん。こうするしかないの」


 泣き叫ぶ霧ヶ谷をシノアが止める。それを背後に神宮寺まりもは言う。


「諸君達の勇敢さは必ず仲間に伝える」

「健闘を祈ります」

「あり、が、ざいます」


 神宮寺まりは敬礼の後、2回トリガーを引いた。それは彼らを痛みなく息を止めるに至った。そして叫ぶ。


「これより索敵を開始する。オーブンチャンネルで一ノ瀬真昼特務隊に呼びかけを続けろ! デストロイヤーとの戦闘は極力避けるように」

「貴方はそれでも人間ですか!? まだ助かる可能性は大いにあった!!」

「貴様の個人的感情に時間を割いている余裕はない。動け! 動け! 生きて動ける人間が最優先だ!!」


 内陸部からデストロイヤーが出てきてまだ数分、デストロイヤーの総数は当然多くなく、ラージ級の数は更に少ないだろう。それでも、一体いるだけで空中での危険度は桁違いに跳ね上がるのだ。その脅威の程度が確認できない内から、高度を上げるのは自殺行為に等しい。本来ならば、特別に注意する必要もない、衛士としては基本中の基本だ。自殺志願者でもいなければ、そんな事をする者はいない。


「まさか内陸浸透がここまで酷いなんて! ヘリでの作戦が遅いか早ければ!!」


 そうなればまだ対処の仕様があった。

 神宮寺まりもは愚痴をこぼす。遠く、やや前方でレーザーの光が煌めき、直後に爆音が聞こえた。急ぎすぎた遊撃部隊の一部が、撃墜されたのだろう。


 それも、もしかしたらここ数週間で模擬戦を行ったかもしれない誰かが。シノアは歯ぎしりをしながら、それでも拾うべき情報を拾っていった。


『神宮寺まりもより各機へ、ラージ級の数は少ないだろうが、絶対に飛ぶなよ! あと、身体間の距離と間合いのマージンはいつもの2倍は取れ!』


 光ったのは一度きり。他の部隊も慌てて高度を下げているようだが、追撃はない。となればラージ級の数は多くない。それでも、ラージ級は用意されている群れらしいから、高く飛ぶことはできない。そして高度ごとに異なる風のきつさと、身体のコントロールのブレがいかほどであるか。


さっきまでの匍匐飛行と現在形で行なっている短距離跳躍からその感触をつかみ、全機へ通達する。


『まだ地上の方が風は弱い! ただ、間合いによっては弾も流される強さだ、外れても冷静に対処しろ!」

『当たらないからと言って、焦るないで―――悪環境だからこそ地道に仕事をこなしましょう!』



 まりもの言葉に、愛花が補足を。

 まりもこのあとに起こるであろう問題の解決に奔った。やや薄くなった防衛線の中、近場で入り乱れるレーダーの動きと入り乱れる通信を把握しながら、進路を誘導する。

 到着した先には、多くのミドル級が。向うには、さらなる大群が見えた。


 シノアは足元に感じる。小刻みに、大地に伝う震動―――デストロイヤーの軍靴が九州の大地を揺らしているのだ。

 それを噛み締めながら、神宮寺まりもは深呼吸をした。


 口の中に血の味が広がっていく。そして小刻みに揺れる足元を押さえながら、思う。感情に震えているのか、それともこの震動に揺らされているのか。どちらであるか、その判断もつかないまま歯を食いしばり、叫ぶ。



『行くぞ!!』


 自分に、誰かに、あるいはどちらにも向けて。出来る限りの大声で戦意を絞り出し、迅速に。

 神宮寺まりものネクストの機体はするりと障害物を抜けていった。

 そして戦闘域に入ってシノアが最初に見たものは、大量のミドル級と、相対する衛士だった。

 恐らくはまだ後退できていない新人だろう、その機体は狂ったようにシューティングモードで弾丸を撃ち続けていた。


『死ねっ、死ねっ、死ねっ、死ねよっ、化物どもっ!!!』

『やめろ来るなくるなくるなよくるなぁぁ―――っ!?』



 新人らしき衛士が、パニックに陥っているようだ。ベテランの衛士が制止しているようだが、聞き入れられる状態ではない。後催眠の悪影響か、それともまた別の理由か。シノアはその先に起きることを何度も見た光景のように感じた。


まずは弾が切れて。


『っ?!』


混乱の内に弾をリロードしようとするが、パニックになっているから遅くて。


『ヒイッ!?』


ミドル級に取りつかれる―――――所に、神宮寺まりもは割り込んだ。


 


『思い出した。この感覚、この匂い!! この化物共ォォォオオ!!』


 数ヶ月ぶりの再会に、シノアは吠えた。そしてシューティングモードで衛士の足元にいるミドル級の絨毯に斉射しながら突進、しかる後にブレードモードを。衛士に飛びつこうとまだ宙空に在ったミドル級を、体当たりと刃で弾き飛ばした。   


 シノアに追随していた愛花のフォローが入り、遅れて辿り着いた残りも援護に入った。あとはいつも通りの掃討だ。取り敢えずは近くにいたミドル級と、後に続くミディアム級のいくらかを撃退しながらまりもは怒鳴りつけた。


 


『一端下がれ! ここは大丈夫だから、任せて!』



 出せる限りの大声での、命令口調。新人らしき衛士はそれを聞いて、やや正気を取り戻したかのようだった。ベテランの指示に従い、辿々しい動きで後方へと避難していく。


 そしてまりもはまた、乱れたレーダーを見ながら別の地点へと移動し、下がり切れない新人達をフォローする。


『シノア………なんというか、慣れているな』

『思い出した、言ってました』

『思い出した。記憶に障害があったのか?』 

『はい。何度か暴走するたびに記憶が欠落して戻ってきました。練度は少しづつですが維持されているのですが』

『そうか』

『しかし最初の勢いがなくなってきましたね』

 

 愛花は毒づく。


『本来ならば、機甲師団か艦隊からの砲撃を挟むべきなんですが』

『ああ………この視界と荒波では、そうもいかんが』


艦隊は波に足を取られているからだろう、艦砲射撃は一向に行われなかった。一方の、機甲師団からの砲撃も同様だった。豪雨、暴風、荒波の悪影響がこれでもかというほどに出てしまっている。


 かといって、無いものをいつまでも待っていることはできない。神宮寺まりも達は防衛線の一番薄いポイントに移動し、遊撃ではなくそこを基点としてデストロイヤーを迎撃しはじめた。


『総員、ミドル級の撃破を優先しろ』

『ラージ級は!?』

『いちいち聞き返すことじゃないだろう!』


と言いつつも、まりもは射程距離ぎりぎりの所に巨大な影を確認すると――ラージ級を発見するなり、脊椎反射の如き反応速度で引き金を引いた。

 上陸して数分だろう、間もなく巨大な体は、北九州の土になっていく。


『すごい』


 一葉は思わず呟いていた。点射はたったの2回。その程度で、この暴風の中、あの距離で当てるとは。

 それに2発でラージ級沈む威力とは。


『一葉! 前に集中しろ!』

『り、了解!』


 一葉は、まりもの叱咤の声にはっとなった。そこには、想定以上に距離をつめてきたミドル級の姿が。一葉はとっさにシューティングモードで引き金を引く―――が、放たれた砲弾はミドル級の硬い前腕部を掠めただけ。


その程度では、ミドル級は止まらない。一葉は焦り迎撃しようとするが、焦りに加えられた別の要因が影響して、弾道が著しく乱れた。


弾が当たってはいるのだが、致命傷には程遠い場所にしか当たってくれない。そしていよいよもって不味い距離に近づかれて―――だが次の瞬間、その特徴的な頭部は横殴りの射撃で四散した。


『焦るな! 弾はいつもの倍は使っていいから! 地道に、距離を確保することを優先!』

『すみません! ………当たるはずなんです! なのに………残弾も、こんなに使ってちゃ』

『その時は私がフォローする!』


 いつもならば当たる距離、当たるタイミングなのに、と一葉は泣きそうになる。しかし、現実は当たらないのだ。一葉自身も、何度も繰り返してきたシチュエーションである、なのにいつもとは違っている。体か弾道か、あるいは悪視界のせいだろうか、弾は衛士の思っていた通りの場所に飛んでくれない。


『見える、思い出す、この光景、この動き!』

『くっ、この悪影響の中でよくやる』


 神宮寺まりもは台風の想定以上の悪影響を痛感していた。愛花などはファンバオ戦で戦っていた時よりデストロイヤーの耐久力が倍程度に跳ね上がっているのではないかと、錯覚していた。


 命中率も悪く、当たっても大した痛手を与えられず。そのまま、弾薬の消費は激しくなっていった。


 だがここに来てシノアの動きのキレが増していく。それはまるでラプラスの英雄の如き力だった。

 

 愛花が各機のフォローに入っているので、致命的な事態には陥っていないが、それでもシミュレーションとは感触が違いすぎる。減っていくのは弾薬だけで、デストロイヤーの総数が減った様子はない。倒せてはいるが、それと同じぐらいに次々に海からやってくるのだ。


 それは、途方も無い徒労を感じる作業に似ていた。その慣れていない3人は、このままいけば戦況はどうなってしまうのかと、考えた後、背中に冷や汗が流れていくのを感じた。


 事実、防衛軍側の損害の報が飛び交うことは、少なくなかった。主に砲撃甲師団の損耗だが、戦闘開始より被害を受ける速度は徐々に上がっているようだった。誰もがジリ貧を感じはじめた―――その時に、HQより通信が入った。


『通信ジャマーを行うデストロイヤーを撃破!!』


 更にそれは、後方の機甲師団からの援護射撃が入るという報である。沿岸部に張っていた衛士を後方に退かせた後、戦車部隊による大口径の砲弾による集中的な攻撃を行おうというのだ。そして、効果はあった。沿岸部は今や敷き詰められていると表現できるほどに赤い光点がある。


 細部の調整は不可能だろうが、撃てば当たるというもの。当たる角度によってはミドル級の前面装甲をも破る砲弾は、確実にデストロイヤーの総数を減らしていったししかし、砲撃の間を抜けてきたデストロイヤーもいる。


そうなれば、一端は退いていたレギオン部隊の出番だった。


 数ヶ月までは畑だった広地に展開し、十分に戦術機やアーマードコアのスペースを確保しながら抜けてきたミドル級や、ミディアム級を確実に仕留めていった。そのまま、沿岸部周辺は機甲師団の砲撃が続き、漏れでたデストロイヤーは戦いやすい場所で迎撃が続けられた。


 戦術機のシューティングモードも弾薬の消耗が激しく、その補給のタイミングを見誤った部隊が損害を受けていくが、その総数は多くない。苦戦はしているが、十二分に防衛線は確保できていた。

 やがて、戦車の砲撃が止み。それを訝しんだ衛士達の間に、通信が飛んだ。


『沿岸部のデストロイヤーの総数が激減した。どうやら異形の観光者さんの数は、尽きたようだ』


 上陸してくるデストロイヤーの、その勢いが減った。それはすなわち―――


『各機に告げる。慎重に確実に、だが全力で“残敵の掃討に当たれ”!』


 それは、勝利を告げる報。

 通信の中に、喜色が満面に詰まった了解の返事が飛び交う。


 そうして、戦闘が終わったのは一時間後だった。衛士達から、そしてHQから聞こえる通信には隠し切れないはしゃぎっぷりが感じ取れる。


 喜ぶのもつかの間、巨大な水柱と共に、島とも呼ぶべきアストラ級未満の超大型デストロイヤーが海面から顔を出した。


 驚愕。

 識別コード・デストロイヤー

 準アストラ級の登場である。

 現場は大混乱に陥った。

 そんな中で戦況を見守っていた時雨は笑う。


「コアユニット起動」

『コード認証・コアユニットを起動します』

「位相時空転移装置、全工程ロック解除」

『AからZまでのロックを解除。エネルギー充填』

「対象を準アストラ級デストロイヤー並びに半径十キロの全ての生命体に設定」

『警告。位相空間転移に起こる因果律重力場によってXM3並びに対策装置に対応していない生命体はすべて死滅します』

「構わない。真昼以外は全員死んでも、彼女がいればそれで良い。一ノ瀬真昼に帰還コードを入力」

『一ノ瀬真昼にコードを入力完了』

「では、位相時空転移『【Oの聖文字】The Overkill ― 大量虐殺 ―』発動。さようならデストロイヤーと旧人類の皆さん。並行世界で精々殺し合うと良い。この僕と真昼の地球にはもう君たちの席はないのさ。これからどんな強いデストロイヤーが来ようとも、秦祀の集めたラプラス因子を集めたように、逆にデストロイヤーをそのまま別世界へ放逐し続ければ平和は訪れる。この戦い、僕の勝利だよ」


 戦場は光がすべてを包み込んだ。

 時雨は椅子に深く座り、紅茶を飲んだ。己の外へ向けた憎悪と破壊と狂気の衝動の達成。そして眞晝と愛しあうだけの世界の誕生に、時雨は珍しく満面の笑みを浮かべた

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