首都防衛戦②
特型デストロイヤーに向けて突撃する。
戦いながら、金色一葉と一ノ瀬真昼についての記憶が松村優珂の中で蘇ってきた。
松村優珂は最初は補欠衛士だった。しかし強化手術を受けて衛士となった。だから元々戦う才能があった一ノ瀬真昼の情報を見た時、『恵まれたやつ』だと思った。
家族がいて、才能があって、大切なお姉様がいて、お姉様が死んだ後も仲間ができて、これを恵まれていると言わず何というのだろう。
松村優珂は一ノ瀬真昼に嫉妬の感情を覚えた。そして不幸な事に、GE.HE.NA.から一ノ瀬真昼とイェーガーの仲介役に選ばれてしまった。なので、嫌々ながら彼女の過去のデータを見た。
それは地獄のような戦いだった。戦術機に残った映像データを復元したもので、体の一部を失った者達が必死の形相でデストロイヤーに立ち向かうまるでゾンビ映画でも見ているような気分だった。
衛士も、防衛軍も、民間人も関係ない。致命傷を受けた者は死ぬ前に少しでも戦果を残して死ねるようにラプラスで操っているのだ。
これでどうやら一ノ瀬真昼は精神がおかしくなっているらしい。幻覚とか色々と症状があるようだ。まぁ、そうだろうな、と思った。こんな戦場に居続けたら頭がおかしくなるのは当たり前だ。
実際に合って、話をした。
あれは化物だ。
正気を保ったまま狂気を行える化物だ。
非道だと、倫理に反すると理解している。だが現実的に見て必要だからと選択を選べる非情な存在だ。
本人は『私も理想家だよ。最善を常に尽くせ、なんて理想でしかないよ。それが、できれば苦労しないって』って言っているが、そもそも最善を選べないと知っている時点で理想かではない。
本当の理想家は破滅を容認する。
理想か破滅か。その二極化した思考をしている。
相澤一葉が良い例だ。現実が見えていながら、リスクが高い破滅的な理想を選び続けている。真昼だったらそこは折れて、リターンを回収する方向に動くだろう。
それが理想家であることを諦めた現実主義の一ノ瀬真昼。
あれが理想家であることを選んだ理想主義の金色一葉。
松村優珂は一ノ瀬真昼を選んだ。理想家でありたいと願いながら現実に押し潰さらて、犠牲を払って最善を選ぶ姿に尊敬をした。
彼女は二度、精神的変化を迎えている。
一度目は夕立時雨を失った時、二度目はGE.HE.NA.と取引した時。
夕立時雨を失い、狂気に走った一ノ瀬真昼は最初の朗らかで穏やかな性格から苛烈で強烈な性格に変化した。
二度目はGE.HE.NA.と取引して自分の理想を現実に落とし込む術を知ったリアリストの性格になった。
今の彼女は身近な仲間でさえ最善の前には切り捨てるだろう。私は元補欠衛士で、使い潰すしかない無能だった。それが今や最前線で戦う重要な衛士だ。
ここまで私を導いたのは一ノ瀬真昼の理想と最善の間で苦しんで選んだ選択の結果に他ならない。だから松村優珂は一ノ瀬真昼を信奉する。たとえ捨て駒にされたとしても受け入れる覚悟がある。
「せえぇぇえい!!」
金色一葉も一ノ瀬真昼の性質に気付いている。一ノ瀬真昼につく者は多いだろう。しかし反発する者は必ずいる。だからその反発するものを集めて管理する。
人の想いの器になるとはそういう意味だろう。
「スモール級、多数接近!!」
「こんな時に!?」
マップを見るとスモール級がわらわらと集まってきていた。
二人のところだけではない。東京全土にスモール級で構成された群れが押し寄せていた。
「この数は流石に」
無理だ、そう言いかけた時、通信が入る。
『こちらXM3型強化補欠衛士部隊、アーマードコアⅡにて支援を開始します。衛士の皆さんはラージ級以上の相手をお願いします』
空がガンシップの翼の音で埋まり、漆黒で統一された機械が落ちてくる。腕にはガトリング砲を装着して、目はセンサーが赤く光る。背中には有線のファンネル防御シールドがマウントされている。
地面に着地した機体の瞳が赤く光る。
『闇より静けき氷海に眠る―其は、科学の音色に凍てつく影』
《翡翠・降臨》
『闇より深き深淵より出でし―其は、科学の
《白銀・降臨》
『闇より永き悠遠より覚めし―其は、科学の鎖が縛る刻』
《
『闇より
《水晶・降臨》
《闇より深き融炉より出でし―其は、科学の鎚が鍛えし玉鋼》
《鋼・降臨》
アーマードコア部隊のリーダーと思われる人通信が入る。
『黒十字補欠衛士・アーマードコア部隊、道川深顯です。これより戦闘を開始します。忌々しいイェーガーの衛士達だけど今は東京を守る為に背中を合わせる仲間です! 過去の遺恨を飲み込んで全力で援護する!!』
『了解』
『隊長! 建物への被害は?』
『気にしない! ここで衛士が消耗すれば東京が陥落する! 全部纏めて叩き潰して!』
『了解』
『攻撃、開始!! イェーガーの衛士! ここは私達が持ち堪える! 二人は早くあの特型デストロイヤーを倒してください!』
金色一葉は遺恨がある相手でもちゃんと援護する精神性に感銘を受けて、笑う。
「よし! あの補欠衛士部隊の為にもやりましょう!」
「……金色一葉、アンタ囮になりなさい。その間に私が魔力を溜めて高出力ビーム砲で吹き飛ばす」
「それ私、巻き込まれませんよね?」
「ちゃんと警告するわよ。あとは知らない」
「ならよし、です! 行きます!」
金色一葉は特型デストロイヤーに向けて攻撃を仕掛ける。
松村優珂はエネルギーをチャージしてビームマグナムの威力を上昇させていく。
黒十字補欠衛士部隊のアーマードコアⅡは二人と特型デストロイヤーを中心に円型に展開して、迫り来るスモール級デストロイヤーに弾丸を食らわせている。
空からはデストロイヤーの砦を作っていると思われる場所に向けて爆撃が開始されていた。爆弾が空から降って巨大な赤い花火が見える。東京は以外と頑丈で、対デストロイヤー建築になっている。
多少の攻撃で壊れることはない。爆撃程度なら大丈夫だろう。
その時、巨大な光が爆撃機を貫いた。そして四つの巨大な目玉をつけたギガント級が姿を表す。それは百合ヶ丘にやってきたあのデストロイヤーだ。
仮称・特型ギガント級。
長く突き出た九つの分厚い瞳。
左右それぞれ50以上の小型衝角触腕(最大伸長約1200m)を収める前部副節。後部に中型衝角触腕(最大伸長約1000m)
中央の主体節下部に大型衝角触腕(最大伸長約800m)を持つ。
レーザーを発射する目を防護する保護皮膜も完備しているようである。
主体節には準ネスト器官が仕込まれており、青白く輝いている。
戦闘機が特型ギガント級に攻撃するが、防御膜によって無効化されてしまう。そして反撃とばかりにレーザーが瞬き戦闘機が破壊される。
『こちら司令部より各衛士へ。今出現した特型ギガント級デストロイヤーを「
「撤退よ」
「ですね」
『黒十字補欠衛士部隊! 戦線を維持しつつ衛士と共にポイント0854まで撤退する』
そうして撤退を始めた。
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