東京首都防衛戦①

 ガンシップに衛士達が乗り込み、飛翔していく。そして空から空挺して、デストロイヤーと戦い始める。先程までの議論は棚上げして衛士達は一致団結して東京に出現したデストロイヤーと対決していた。


「ほら、行くわよ。金色一葉」

「あ、はい」


 松村優珂は金色一葉を連れてガンシップから身を躍らせる。

 一葉は正確な射撃でデストロイヤーを狙撃しながら降りていく。反対に優珂は大量の魔力に物を合わせたビームマグナムでデストロイヤーを薙ぎ払う。魔力ビームが近くを通った建物は融解してしまう。しかし優珂は気にせず魔力ビームを撃ち続けてデストロイヤーを駆逐する。


 着地点のデストロイヤーを掃討した二人は息を吐く。そして一葉に優珂はストライクイーグル・バンシィを見せつけながら言う。


「どう? 私の力は。これがXM3の力よ。貴方より素早く、確実にデストロイヤーを倒したわ」


 優珂の顔には加虐的な笑みが浮かんでいる。


「優珂さん。貴方の戦法は荒っぽすぎる。もっと建物の被害に配慮した戦いはできないないんですか?」

「はぁ? 建物の被害を気にして人が死んだら意味ないでしょうが。私がアンタについてきたのはね、教える為よ」

「教える? 何をですか?」

「イェーガーの生徒総会で言った青臭い理念がいかに非現実かってね。確か」


 優珂は馬鹿にしたような声真似で言う。


『人に犠牲を強いる戦い方では、本当に大切なものは守れない。私は、この世界の全ての人を守りたい。そして共に戦う仲間を守りたい。そこにある想いを守りたい。私は何一つ諦めずに戦いたい』だっけ。綺麗事の理想論がいかに無価値か教えてあげる!!」


 優珂はデストロイヤーの群れに向かって特攻する。


「デストロイモード発動!!」


 ストライクイーグル・バンシィが変化して、黄金の光が噴出する。そして銃と剣がパージされる。優珂は数十はいるデストロイヤーの群れに向かってビームマグナムのトリガーを引き絞る。


 ドゥン!! と衝撃波が放たれて黄金の光がデストロイヤーを焼き尽くす。道路が一瞬で焼け焦げて、黒い跡が残る。無数のラージ級さえ一撃で粉砕して爆散させた。残ったスモール級を黄金の刃で切り裂いていく。


「見たかしら!? これが力! 力がなければ貴方は無力なの!!」

「民間人がいたらどうするんですか!」

「いないわよ。いや、正確にはいたけど食われてた」


 優珂の言葉に一葉は首を捻る。


「どういう事ですか?」

「違和感感じなかった? ここら辺、あまりにも綺麗すぎるって。東京の市街地よ? デストロイヤー襲われて血なり、死体なりが転がっていてもおかしくない」

「確かに……」

「で、調べてみたら、デストロイヤーが人を食っていたわ。あのラージ級のやつ。防衛構想前に情報が出たばかりの特型デストロイヤー『アンジェラス』、『ジェミノス』『クリオン』の3種ね」

「人を食うデストロイヤー! すぐに本部に連絡を!」

「もうしたわ。すぐに指令が」


 その時だった。二人の端末に連絡が入る。そして東京の地図が表示されて自分と他の衛士、そしてデストロイヤーの分布が現れる。


『こちら司令部より各衛士へ。三種類の特型デストロイヤーが確認され、三箇所に砦を築いている。そのデストロイヤーは人や味方のデストロイヤーを捕食して進化する個体であり、早急な対処が求められる。そこでXM3型強化衛士である一ノ瀬真昼、宮川高城!松村優珂の場所に集合して、それぞれの衛士は砦に攻撃を開始せよ』


 司令部からの説明に一葉は驚く。指揮能力や戦闘能力が高いとされるお台場だけではなく、XM3強化衛士だから勝てると見込まれている状況に驚いた。


(司令部は既に強化衛士の性能を知っている?)


 企業連盟並びに一柳梨璃の最終目的はXM3型強化衛士の七割以上の配備だ。当然、その情報は衛士だけでなく大人の間でも共有され、その強さは示されている。むしろ防衛構想まで衛士には秘匿されていたことが異常なのだ。


 衛士という少女を戦わせることに罪悪感を覚える。死んでほしくない。だけど強化衛士になってくれ、なんて頼めない。そんな大人の葛藤で通達が遅れた結果、首都防衛構想でのお披露目となった。


『また一定時間内に殲滅できず、デストロイヤーが進化する兆しを見せれば人造量産型衛士を投入して撃破する。その場は総員、戦闘区域から退避してほしい』

「人造量産衛士……あの自爆兵器扱いの!? そんな非人道的な」

「誰かがやらなくてはいけないことを、誰かがやってくれたのよ。その恩恵を受ける私たちが非難できる立場じゃないわ」

「しかし、これはあまりにも」

「これが現実よ。金色一葉」


 二人は地面を突き破って現れたデストロイヤーに対応する。斬撃でデストロイヤーを切り刻む。マギリフレクターを使ったゴリ押しでデストロイヤーを真っ二つにする。


「これが最善の方法。理想を語る貴方と真昼様の違い」

「そうやって妥協して、良い世界が作れるますか?」

「なに?」

「理想を語らず! 目指さず! 最善だと思い込んで努力を放棄する! それが本当に最善といえるんですか!」


 その言葉に優珂は頭に血が昇る。


「理想を語って犬死するのが正しいって言うの!? 理想を想いながらも現実的なプランを遂行する! それが……! それが……人間の限界よ」

「だとしても理想は掲げるべきです」

「このクソ頭でっかちめ、それが出来たら苦労しないのよ。出来ない理想を掲げて失敗すれば、それこそ士気はガタ落ちでおしまいよ。だからこそできることを一つづつやっていく」

「確かにその通りです。だから私は理想を掲げる盾の乙女となります。最善の道は貴方達が切り開いてくれる。私は理想に縋る者の受け皿になる。器になります」


 その言葉に優珂は目を見開く。


「アンタ、全部受け止めるつもりなの? 真昼様と反対する意見、そのどちらも」

「はい。真昼様が提唱した強化は受けません。しかし特攻爆弾は許されない。たとえクローンたとしても」

「そういう反対意見の纏め役になるわけだ。随分と茨の道が好きなのね」

「理想を実現するためには安いものかと」

「ちっ、色々考えてるじゃない。確かに反対意見を黙殺すれば爆発する。そうならないように一つに纏めるわけか。でもそれの最後は」

「わかっています。もし戦況が悪化した場合、私たちの存在は邪魔だと思う人が多くなるでしょう。そして人類の反逆者として処分される。でも私は理想を掲げると決めたんです。人間性を保ったままデストロイヤーに勝利すると」


 優珂は相澤一葉の言葉に目を細める。そしてため息をつく。


「そういうところが嫌いなのよ。ガキみたいに自分を失わず突き進む姿が。絶対に苦難の道だとわかっているのに進む姿が見ていて気分が悪くなる。まぁいいわ、アンタは好きにやりなさい。どうなろうが知ったこっちゃないわ。今はこの東京のデストロイヤーを片づけましょう」

「ですが、私たちに合流するはずの衛士が来ませんね。反応は近くまであるのに」


 その時、マップ上に表示されていた衛士のマーカーが消えた。


「え?」

「消えたってことは死んだか。金色一葉、準備しなさない。強い敵がいるわよ」

「了解です」


 ドシン、ドシン、と音を立てて、ビルの間から巨大な影が姿がを現した。これは例の特型デストロイヤーの一体だ。そして相澤一葉と松村優珂が倒すように命令されていた相手でもある。


「砦を築いているはずじゃ」

「外に出てきたか、もしくは二体いるか。どちらでも良いわ! 行くわよ!」

「はい! イェーガー代表相澤一葉、戦闘行動に移ります!!」

 

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