ビッグ・ブラザー②

 ガンシップの着陸音で目を覚ます。

 真昼達は案内されるままホテルの会議室まで着いて行く。そこには今流星と宮川高城、金色一葉と松村優珂が先に先に席についていた。


「遅くなっちゃってごめんね」

「まだ時間には余裕があるわ。大丈夫よ」

「はい。真昼様が気になさるほどではありません」


 真昼達が席に着いて、お茶を飲むと時間となった。会議を仕切るのは真昼だ。この中で一番戦闘経験が豊富で、またこういう会議に慣れている。真昼は資料を取り出して配布する。


「まずは今日の会議に参加してくれてありがとう。この会議は近く東京で行われる首都防衛構想の前段階として用意された意見の一致を目的とした会議です。議題はGE.HE.NA.および企業連盟に対してどのような立場を取るか、です」


 その言葉にピリッとした雰囲気が流れる。


「皆さんも知っての通り、GE.HE.NA.は内部粛清によって大きく変わりました。これによって反GE.HE.NA.衛士育成訓練校も意見を変える事あるでしょうし、親GE.HE.NA.衛士育成訓練校はもっと深く関わりを持つ事になるでしょう」


 そして。と真昼は続ける。


「私達、三校は去年の教導から始まり関係が深いです。意見を揃えて首都防衛構想に臨み、建設的な意見が出せるようにしましょう」

「元々は横浜衛士訓練校が反GE.HE.NA.、神凪が中立、後が親GE.HE.NA.だけど変更はあるのかしら?」

「横浜衛士訓練校は反GE.HE.NA.の姿勢は崩さないものの監視の名目で衛士を送り込み、それが非道な実験でなければ黙認する方針です」

「神凪は正直混乱しているわ。デストロイヤーの襲撃があったばかりだから統制が取れていないのが現状。だけどGE.HE.NA.からの支援で立て直しができるから、親GE.HE.NA.になるのも時間の問題だと思う」

「うちは変わらず親GE.HE.NA.ですね。しかし戦略変更があったのか、無理な外征が減り、守備範囲内をしっかりと守る方針に切り替わりました」


 GE.HE.NA.の内部粛清は様々なところで影響をもたらしているようだ。どれも良い方向に転がっている。多くの被害が出たが、その分、GE.HE.NA.の方向性を統一できた事で、素早い対応と規範に乗っ取った活動ができている。


「私は首都防衛構想会議で親GE.HE.NA.派として活動したいと思っているの。GE.HE.NA.の技術は高い。それを惜しみなく投入できれば戦死者も減り、デストロイヤー相手に攻勢に出ることもできる」


 それに今流星は疑問を呈する。


「でも、そうした場合、反感を買うわ。会場はリコピコ女学院。GE.HE.NA.過激派によって崩壊させられた場所よ。正直、アウェー感はあるでしょう」

「うん。そこは大人の人も混ぜて説得する。GE.HE.NA.と協力関係にあるクレスト社とその企業連盟が、GE.HE.NA.と協力していくことを表明する。防衛軍も参加する」


 そう言うと金色一葉が驚いたように言う。


「そこまでGE.HE.NA.の力はあるんですか」

「うん。今まで秘匿していた技術を全部公開しているから、色々な分野で役立っているんだよ。お金は取らないけど技術者はGE.HE.NA.にしかいないから、GE.HE.NA.と協力せざる得ないんだよね」

「なるほど。もう多国籍企業としては死んでいるものかと思っていましたが、案外、生き残っていますね」

「GE.HE.NA.はしぶといよ。元々強い企業だったのが過激派のせいで弱体化してたって言うのが正しいかな。それを取り除いたらそりゃあ強くなるよ」

「非人道的な研究をやめたのはとても良いことだと思います。しかし本当に過激派は殲滅できたのでしょうか? やはりまだ隠れて人体実験しているのでは?」


 真昼は資料のページを進めて全員に見せる。


「過激派の大きな研究所は制圧した。研究員も射殺した。けど逃れた研究員はいる。それを始末する為に防衛隊と親GE.HE.NA.衛士訓練校の衛士で構成された粛清部隊が探しているみたいだけど、報告は少ない。もうほぼ殲滅し終えたか、上手く隠れているか。わからないけど二度と企業の腐敗を許さないように監視体制を厳重にして、実験をオープンにする事で対策してるから、前よりは格段に安全だよ」

「徹底的ですね。問答無用で射殺ですか」


 一葉は真昼の方を見る。


「真昼様はこの作戦についてどこまでご存知だったんですか?」

「全てだよ。GE.HE.NA.に協力して、味方を増やして、敵を明確して、大義名分と共に作戦を実行した。いうなれば私がGE.HE.NA.を乗っ取ったと言っても良いかな。世界と人類のために、必要だと思ったことをやった」

「それは……」


 一葉は言葉を失っているようだ。衛士は誰かを守るためにある。だがそれは相手がデストロイヤーであり、人類同士の戦いの道具になることは想定されていない。いや、想定することを避けている。どの衛士訓練校でも人類同士の戦いに触れていない。

 代わりに、言葉を発したのは松村優珂だった。


「素晴らしいです、真昼様。金色一葉の口だけの理想家と違って確かな行動力と力を持っている。目的を達成する為にはどんな手段も視野に入れる。流石です」


 高城も、それに同意を示す。


「そうね。確かにGE.HE.NA.の蛮行は目に余るわ。それの大部分を削ったのは大きい」

「でも高城ちゃん。多くの人が死んでしまっているのよ? いくら過激派だからといって許される事じゃないわ」

「扇動者」

「え?」

「真昼さんの二つ名。味方を死地へ駆り立てる扇動者。それが相応しいと思わない? 人類のために人類を殺す。思想を一つに纏めて総力戦に移行させる。机上の空論なら誰でも思いつくけど、実際にやるなんて恐ろしい手腕ね」


 今流星と金色一葉は大勢の死者を出したGE.HE.NA.クリーン作戦に不満を持っているようだ。逆に真昼と繋がっている二人は当然とばかりに受け入れている。


「過去はどうあれ、今のGE.HE.NA.は高い技術力を持ったクリーンな組織です。そしてその力を借りない手はありません。それをどうにか他の人達に認めさせる。その手伝いをしてほしいんです」

「具体的には?」

「GE.HE.NA.との協力に反論があがった場合、それを打ち消すメリットを提示して、GE.HE.NA.に与するのも悪い選択肢じゃないと思わせる。そういう誘導をお願いします」

「了解」


 真昼は心の中で唸る。

 GE.HE.NA.のイメージが悪すぎる。もう違法実験や強化衛士関連、デストロイヤーを暴れさせる狂人の印象が強すぎてどうあがいても不信感を持たれてしまっている。

 直接的な被害を受けていない今流星と金色一葉ですらかの有り様だ。

 GE.HE.NA.によって酷い目に遭わされた衛士の人達を説得するのは時間がかかりそうだ。そもそも説得が可能なのか怪しい。


 協力している私達まとめて敵認定されてしまいそうだ。だがどうやってもGE.HE.NA.の支援は必要だ。全ての衛士と人類の力を結集しなければデストロイヤーには勝てない。


「少し、良いですか?」

「どうしたの、愛花ちゃん」

「GE.HE.NA.が綺麗かどうかは置いておいて、GE.HE.NA.の持っている技術で即戦力になるものはどのくらいあるんですか? それを明かさないと協力するしない以前の話だと思うのですが」

「CHARM強化、XM3型衛士強化、通常兵器、保有する量産型衛士、新型特殊弾道、この辺かな。全部ハイスペックだから、防衛構想会議の時にいくつか見せるつもり」

「そうでしたか、なら大丈夫ですね。失礼しました」


 そこで時計を見ると、会議を始めてから結構な時間経っていた。


「今日は取り敢えずここまでにしよう。解散」

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