ビッグブラザー①
久しぶりに横浜衛士訓練校に帰ってきた真昼は、ロスヴァイセなどの対人を想定したレギオンに取り囲まれて、戦術機を没収された上、拘束具をつけられて理事長室へ連れてかれた。
シノアや愛花とも離されて、個別に尋問されるらしい。
周りをロスヴァイセのメンバーに囲まれて理事長代理は厳しい顔で、真昼を見つめていた。
「久しぶりだね、真昼くん」
「お久しぶりです。皆さんも」
「何故、ここに呼ばれたかわかるかね?」
「GE.HE.NA.への関与について、ですよね」
「その通りだ。横浜衛士訓練校は反GE.HE.NA.を標榜している。それを知らない君ではないだろう。何故GE.HE.NA.と関係を持った。いつからだ?」
真昼は極めて冷静に言う。
「発端は人造衛士の件で、クレスト社から連絡が来た時でした。その際に今の情勢の話をして、クレスト社ないしGE.HE.NA.に協力するべきだと考えました」
「貴方は、人造衛士の話を聞いて嫌悪感を抱かなかったの?」
背後からそう声をかけられ、真昼は淡々と答える。
「人造衛士は確かに道徳から外れた存在でしょう。しかしそれに手を出さないといけないほど人類は追い詰められていると私は思っています。それに横浜衛士訓練校は良い人が多過ぎます。少し悪いこともしないと負けますよ」
「GE.HE.NA.のやる事に賛同しているの? 強化衛士がどんな目にあっているか知ってる?」
「それについては悲しい事だと思っています。だから内部粛清に参加してクリーンにしたんです。もう誰も辛い目に遭わないようにする為に」
「GE.HE.NA.と関係を持ちつつも、衛士を守るために活動していた、ということか」
真昼は頷いた。
「そうですね。私は常に最善を選んでいます。その過程で衛士が悲しい目に遭うことも否定はしません。しかしそれに見合った利益が得られる目算があることが前提であると考えます。ただ自分の目的のために衛士を苦しめるようなやり方には賛同していませんました」
「利益が得られるならどんなことをしても良いと?」
「それだけ人類は危機的状況にある、という事です」
真昼はクレスト社の社長と話した人類の滅亡までのカウントダウンの話をした。世界は防衛に戦力を注ぎ、攻勢に出ることなく、衛士不足と物資不足でやがて滅びる。その前に逆転の行動をしなければいけないと説いた。
「そして生まれたのが人造衛士の量産や戦術機の強化です。非人道的なのは自覚してます。だけど、それで傷つくのは今生きている人ではない。私が守りたいのは今生きている人たちです」
「デストロイヤーを制御するなど危険な試みだ」
「危険でも、何もしないで負けるのは嫌なんです。戦って、最後まで戦う力が必要なんです。だからこそ、GE.HE.NA.クリーン作戦に参加しました」
GE.HE.NA.グリーン作戦。
世界同時に行われたGE.HE.NA.過激派への攻撃行動の事だ。それによって秘匿されていた技術はが公開され、世界全体の技術が大きく向上した。方向性は正しい、けれど方法が正しくなかった。
もし過激派が自分の利益ではなく、世界のために実験をしていたなら、真昼達はむしろ守っただろう。だが貴重な衛士を使い潰すような実験は無駄であり、論外であった。
「GE.HE.NA.は技術を全て公開しました。企業が無償でです。これには誠意が込められています。そして皆さんに提案します。皆さんもGE.HE.NA.に入りませんか?」
「どういう事だね」
「皆さんがGE.HE.NA.を嫌っているのは衛士達を道具のように扱い、使い捨てるからですよね。ならそれが行われないように見張れば良いんです。もしそんな事が行われていたなら粛清部隊が動きます」
「つまりスパイや内部捜査官になれと?」
「はい。強化衛士である皆さんは生きることも不安定な筈です。GE.HE.NA.の技術で再調整すれば、更に強く、そして安定することも可能です」
それに理事長代理は髭を触る。
「なるほど。筋は通っている」
「理事長代理!?」
「しかし真昼君、君がやってきた事に対する落とし前はどうつける。君は多くの人命を犠牲にした。それは悪いから殺しても良いと言うわけではない。また横浜衛士訓練校の衛士達を騙していた事にどう責任を取る?」
「ネストの攻略。大磯海底ネストの攻略。これを持って責任を取ります」
「随分と自信家ね。それだけの戦力を用意できると?」
「横浜基地とGE.HE.NA.、そして横浜衛士訓練校の戦力を結集すれば可能だと予測しています」
「……確かに大磯海底ネストが攻略できれば大きな進歩だ。わかった。この件は保留とする」
「ありがとうございます」
「だが期限は決めさせてもらう。いつまでに攻略できる?」
「少なくとも東京で行われる首都防衛構想が終わった後になります」
「なら一年だ。君が卒業する前にネストを攻略したまえ」
「わかりました」
「これは恩赦ではない。もしネストと攻略に失敗すれば別の形で責任を取ってもらう事になる。それを忘れないように」
「はい、わかりました」
真昼は拘束具を外され、戦術機を返還される。部屋を出ると心配そうな顔をしたシノアと愛花と会う。
「大丈夫でしたか?」
「うん。大丈夫。そっちは?」
「私達は全部話しました。何を隠せば良いかもわからなかったので」
「それで良いよ。下手に隠すよりずっと良い。二人にはこのまま東京まで来て欲しいんだ。イェーガー、神凪、横浜の3レギオントップの会議があるから」
「わかりました」
「じゃあ用意ができたらガンシップに集合してね」
真昼は二人と別れて部屋に戻った。そしてキャリーケースに服や化粧品などを詰め込んで、出発の準備をする。ガンシップまで歩いて行き、座席に座って移動開始時間を待つ。
このレギオン会議は無意味だ。
恐らく首都防衛構想会議の前に顔合わせをする必要があるから、集まる話なのだが、顔合わせして何を話すのだ。それぞれのレギオンの特徴でも話すのだろうか。
「交流会……か」
真昼は戦場外での衛士同士の交流に疎かった。常に戦ってばかりだった真昼は普通の人がやる息抜きの方法を忘れてしまっていたのだ。だから顔を合わせても戦術の話や新装備の話しかできない。
一般的に好きな人が多いとされる食べ物、スイーツなどの話も味覚がないから興味が湧かず盛り上がらない。
アクセサリーなどは基本的に戦いの邪魔になるからつけないし、誰かへのプレゼントも時雨が死んでからそういうことをするのは無かった。
(私は、戦ってばかりだなぁ)
ぼんやりとそう思う。別にそれを後悔しているわけではない。自分で選んだ道だ。誰かが傷つくのが嫌だから、そうならないために生きてきた。
人との協力。意思の統一。そういったものが大切かは戦術の話なら理解できる。しかし普通の人間同士の交流の中で対話が必要と言われても、理解できなかった。
「気が重いなぁ」
仮面を被って仲良くする。
それはいつもやっていることだ。英雄として相応しい姿を身につけて人々を鼓舞する。だが、話をする内容さえ不透明な中で、どう対応すれば良いか分からないのはストレスだった。
真昼は自分の対人関係構成能力が衰えているのを感じてナーバスになっていると、愛花とシノアがガンシップに乗り込んできた。扉が閉められて、ガンシップが飛翔する。
『これより東京に向かいます』
スピーカーから流れる言葉に反応せず、真昼はゆっくり目を瞑って休息を取った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます