技術研究①

 真昼は横浜基地で、真昼専用の最新技術が使われた義手と脚部補助のパワーアシストアタッチメントの運用テストをしていた。

 次々に現れるデストロイヤーを切り刻み、弾丸で風穴を開けていく。攻撃を回避して建物を飛び移ってデストロイヤーを叩き切る。背後からの攻撃を魔力リフレクターで防御して射撃して破壊、そのまま加速してデストロイヤーを粉砕していく。


『目標数超過、リミットオーバー。テスト終了。お疲れ様でした』


 シュミレート空間が消えてただの部屋に戻る。真昼はUC型マニュピレーターと名付けられた純白の義手を見る。それは真昼の思い通りに動いて、反応速度も強度も問題ない。

 脚部のパワーアシストアタッチメントも歩行の補助に加えて、魔力の噴射によるブースターとして機能するので戦闘能力が向上している。


 問題なし。


 それを研究員に伝えて、真昼は休憩室で休む。すると端末に連絡が届く。横浜基地にシノアと愛花が到着したようだ。真昼は深呼吸を一度して、外へ出た。


 ヘリから降りて、真昼達を待っていたシノアと愛花は、約一ヶ月ぶりに姿を見る真昼に驚いたようだった。腕には純白の義手、脚部にはパワーアシストアタッチメントがあるのだ。


「久しぶりだね、二人とも」

「真昼お姉様、お久しぶりです」

「真昼様、お久しぶりです」

「悪いね、ここまで来てもらって。横浜衛士訓練校は反GE.HE.NA.だからこの基地を快く思ってないでしょう?」


 その言葉にシノアと愛花は苦笑いする。


「気をつけて、と忠告は受けました」

「だよね。じゃあ中に入ろうか」


 真昼は二人を白い部屋に案内する。部屋にはお茶菓子と飲み物があった。三人は一息ついて、緊張がほぐれたのを見計らって真昼は口を開いた。


「二人をここに呼んだ理由を話そうかな。シノアちゃんは私を慕ってくれて頑張ってくれたから、私も信頼して話しで良いと判断したから。愛花ちゃんは正義感と利害の一致かな」

「利害の一致、とは?」

「これから発動する大規模作戦の利害一致。この作戦はとても過酷だけど、衛士の為にやらなければいけない作戦なの」

「具体的な作戦内容どんな内容なんですか?」

「GE.HE.NA.内部の過激派の粛清、および第五計画有力者の殺害」


 それにシノアと愛花の顔色が変わる。


「真昼様、正気ですか?」

「GE.HE.NA.は色々と黒い噂の絶えない組織ですが、それでも人です。その殺害というのは」

「うん。私はクレスト社から支援を受けてるんだけど、そこからGE.HE.NA.の内情を知らされて依頼があったの。自分の研究の為に衛士や一般市民を犠牲にする人達が沢山いる。その人達を一掃してクリーンな組織にしたいから手伝って欲しいと」


 真昼は嘘と真実を混ぜながら口にする。


「手伝ってほしい。二人には私と一緒に手を汚して、衛士を救って欲しい」

「……わかりました。私は真昼様に従います! 苦しんでる人を放置しておけません」

「愛花さんはどう?」


 愛花は正義感が強い人間だ。GE.HE.NA.の非道さに怒りを覚えるが、かといって殺害して処分してしまうのはやり過ぎだと感じている。それに真昼の言っていた言葉が気になる。


「私の利害の一致ってなんですか?」

「台北の奪還と、家族を殺した仇のデストロイヤーの破壊。それが二年以内に叶う可能性が高くなる。正確には台北への大規模遠征が二年以内に行える」

「この粛清をすると、そこまで話が進むと?」

「GE.HE.NA.は世界中にある巨大多国籍企業だ。その企業が全てのしがらみや個人利益を無視して人類のための研究に力を注げばそれくらいできると予測している。それに現時点で、ネストの一つならば破壊できる戦力が既に揃っている」


 その言葉に愛花の目が細められる。


「そこまで力があるのですか? 本当に」

「うん。間違いないよ。この横浜基地にいる戦力があるだけでネストが攻略可能だ。けどできない。何故なら」

「一部の過激派が、足を引っ張っているから、と?」

「そう。これは正義の行いだ。被験体になっている衛士を救って、その技術を人類を救う為に運用する。自分の欲求を満たす為に他者を食い物にする人達を打倒する。その手段が暴力によるものだとしても」

「それをすれば、故郷奪還に近づく」

「確実に」


 愛花は瞳を閉じた。

 考えているのだろう。故郷奪還、そして人類の守護、衛士の保護。その為に過激派を殺害することが許されることなのかどうか。衛士による人命の殺害は許されない行為だ。しかしそれは無抵抗で実験台なる為に使われる言葉ではない。


 衛士の人権を無視しているのは過激派の方だ。ならばそれは正当防衛であり、正義の行いではないのか? しかし人命の簒奪はどんな理由があっても許されない。


「私達衛士は過激派が開発した変異デストロイヤーを倒すことで、直接手を汚すのは防衛軍の特殊部隊がやってくれる。特殊部隊の防衛が主な任務だから、自分が殺す必要はないよ」

「……でも人殺しには違いありません」

「愛花ちゃん。貴方が正義感のある道徳のある人間だというのは知っている。けど、今回はそれを曲げてでも手伝って欲しい。貴方が必要なんだ」


 そう真昼が言うと愛花は不可解げに眉を顰めた。


「何故、私なんですか? 普通に考えれば、その作戦を止めるかもしれない性格をしているのに」

「故郷奪還を諦めていないからだよ。貴方が横浜衛士訓練校の幼稚舎に入って約10年。その間、復讐心と故郷奪還の夢を叶える為に努力し続けてきたのは並の精神力じゃない。強さや努力だけなら貴方に匹敵する人はいくらでもいる。でも10年という月日が経っても志を変えない意志の強さは愛花ちゃんだけの特別だ。だから私は貴方に提案するの。一緒に戦わないかって」


 愛花は黙ってそれを聞いていた。


「強いだけでもない。努力だけでもない。自分の夢と怒りを忘れず原動力にしてきた愛花ちゃんと、私は共に戦いたい。一緒に台北市を解放するんだ」


 愛花は悩んだ末に、梨璃の手を取った。


「私はこの作戦に反対の意見です。どんな理由があろうと、人を殺して良い理由にはならない。だけど、でも、罰を受けるとしても、私は故郷を奪還したい。せめて生きている間に、兄さん達のお墓を故郷に建ててあげたい」

「当たり前だよ。家族を殺した相手を許さない。奪われた故郷を取り戻すんだ。貴方の罪は私が背負う。シノアちゃんも私がやれと言ったからやったに過ぎない。全ての罪は私にある。だから、想いを全部デストロイヤーにぶつけて」


 そこでシノアが立ち上がって梨璃の手を掴んだ。


「真昼様が背負うなら、私も背負います。真昼様は特別で凄い人ですが、けど特別なことをする必要はないんです。罪は自分で背負います。そして私は私の意思で真昼様についていきます」


 愛花も二人の手を重ねる。


「これは私達が自分で背負う罪です。真昼様は自分分だけ背負って生きてください。ただでさえその背中には重い荷物が乗っているじゃないですか。だから自分で背負えるものは自分で背負います」

「ありがとう、二人とも」


 真昼は端末を操作して二人に情報を送る。


「今送ったのが作戦決行日時と場所。三人とも同じ場所で特殊部隊の護衛をする事になる」

「これで、衛士の待遇は良くなるんでしょうか?」

「コピ女って知ってる?」

「コピリコ女学院ですか? 今は崩壊して独立レギオン・アイアンメイデンと外征レギオンでデストロイヤーを討伐している」

「そう。そのコピリコ。そこが崩壊した理由は過激派の暴走によるものなんだ。過激派は己の利益のためにデストロイヤーに直接的な被害をもたらし、市民の安全を脅かしている」

「そうなんですね」

「これは誰かがやらなきゃ行けないことなんだ。たとえ泥を被るとしても、それを覚悟して特殊部隊の人達や部隊防衛に参加する衛士はやる。全ては人類と衛士の為に」


 知っている人だけでも理不尽に怯えなくて良い世界を作るために、戦うのだ。

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