教導官への転向③

 五人はこれから真昼のサポート任務があるので校長室へ向かっていた。歩きながら瑠衣は少し不満げな表情で呟く。


「一ノ瀬さんの言いたい事はわかりますけど、私達に言ってもしょうがないっていうか、最前線訓練校とは違う衛士がしたくて神凪にきたのにああ言うのは違うと思いませんか?」

「そうね。私達は神凪は再起の訓練校と呼ばれているわ。一度何かしらの疲弊した衛士が、神凪の日常と衛士の役目を並行して行う事で調子を取り戻して行く。それが真昼さんもわかってない筈はないんだけど」


 高城も不可解なものがあるように流星の言葉に同調する。


「真昼さんは神凪の特性を理解している筈。それを敢えて最前線訓練校の理念や意識を持ち出してきたのには疑問が残るわ。ここはあくまで後方の訓練校。デストロイヤー討伐を重きに置いていない」

「も、もしかしてここも戦場になるってことなんじゃ」


 みぞれの言葉に流星は首を傾げる。


「どいうこと? みぞれちゃん」

「私は色々な衛士の情報を集めています。ですが、そうしていると同時に衛士の死亡率や負傷率も集まってくるんです。どこで誰がどんな関係性で、誰が何故死亡したのか、それによって変わる人間関係を調べているので、副次効果でデストロイヤーの出現ルート量や場所もそういうのがわかるんです。そうすると主戦場が段々東京に近づいてきているんです」

「それは本当?」

「はい。ケイブのワープ距離と大きさが過去と比べて伸びています。横浜基地は管理されているから違うと思いますが、別のネストからケイブが送られてきているんです」

「だから私達に警告したって事なのかしら? ここもいつまでも後方訓練校として呑気に普通の学校みたいな事はできないぞ、って」


 それに瑠衣は不安げな表情をする。


「そんなに人類は切羽詰まっているんですか? ネストを一つ落としたばかりじゃないですか。陥落地域は多くありますが、そこでまだ戦っている衛士もいます。東京が主戦場になるなんて」

「それだけデストロイヤーが進化してきているのかもね」

「そんな」

「南極戦役から三十年、普通の生物なら進化なんてしないけどデストロイヤーは最初はスモール級だけだったのがミディアム、ギガント、そしてアストラと増えていった。それは地球の物質に魔力が混ざり暴走した結果だと公表されているけど、そうなればいつか人間がデストロイヤーになる可能性もある。もしくはデストロイヤーが人間を学習する事もあり得る」

「衛士も一部ではデストロイヤー化した人間と言われているわね。それが衛士脅威論に繋がるのだけれど」


 みぞれは小声で呟く。


「これは不確定情報なのですが、真昼さんの姉妹誓約をした夕立時雨はデストロイヤーに捕食され、捕食したデストロイヤーは夕立時雨に成り代わろうとしたと情報があります。過去にも捕食された衛士が存在して、人間に紛れている可能性も」

「もしこれが公になればパニックは避けられないわね。今までは突然現れる自然災害的な扱いだったデストロイヤーを、知能ある存在と認めるには相当荒れるでしょう。そして疑心暗鬼になった人類は同士討ちを始めて世界は滅亡」


 最悪の状況を想像して五人は暗い気持ちになった。


「だからこそ、瑠衣さんは言ったのかもね。伝えたい言葉は言える時に言うべきだって」

「それが最前線で戦ってきた衛士の考えなんですね。私とは全く違います」


 瑠衣をフォローするように流星は言った。


「私と高城ちゃんはお台場にいたからわかるけど最前線は訓練と休みと実戦しかないわ。本当に軍人の生活ね。防衛隊も在中して連携訓練などもしてたわ。神凪みたいな衛士の人生を尊重する訓練校は異端であり、少数派って事は覚えていた方がいいかもしれないわ」

「そんな生活で精神は持つんですか? デストロイヤーの討伐と訓練だけの生活なんて精神的に参っちゃいそうですけど」

「適応できない者は死ぬか、退学ね。でも訓練校の娯楽施設や慰安施設は充実しているから、休みの日はゆっくりできたわ。デストロイヤーは世界の命運を握る大切な存在だからお金のかけ方も桁違いなのよ。最新のゲームや技術が導入されていたわ」

「お二人は前線帰りだけあって、一ノ瀬さんの言葉を受け入れられるんですね」

「そうね。彼女の言いたい事は、確かに私達みたいに最前線を知っている者からしたら当然の言葉よ。でも神凪の生徒相手にはどれだけ届いているかしらね」


 そこで校長室に着いた。

 ノックして、中にはいる。そこにはピンクの髪を緑色のクローバーのアクセサリーで纏めた少女がいた。左腕は無く、袖が靡いている。横浜衛士訓練校の教導官制服を着ている。

 横浜の英雄、一ノ瀬真昼だ。


「よくきてくれた。皆さん。さぁ、中へ入ってくれ」

「はい」


 校長先生の言葉で五人は部屋の中は入り並ぶ。

 真昼がそれぞれ5人の顔を全員分確認し終えたことを確認したのか、校長先生が姿勢を正したまま挨拶を始める。

 

 

「これより、一ノ瀬臨時教導官殿にメンバーの紹介を始めさせてもらいます。よろしいでしょうか」

「大丈夫です。それと、必要以上に硬くなる必要もありません。いくら私が大層な二つ名があろうと今はただの臨時教導官です」

「はっ、しかし」

「私はただの臨時教導官に過ぎません。クレスト社のカウンセラーとしてきたわけではありませんから」


(クレスト社のカウンセラー? 確かクレスト社は戦術機開発会社のはずだけど)


 流星は心の中で疑問に思う。

 真昼が改めて言い直すと、校長先生は困ったように眉を顰め、しかし真昼の言い分には逆らえないと悟ったのか、肩の力を若干緩め、しかし口調だけはきっちりとしたもので説明を続けた。真昼もそれ以上は無理かと察すると、それ以上は何も言わず既に必要のない紹介を受けることにした。

 

「右から今流星、宮川高城、綾波みぞれ、五条フレデリカ。君達、各自臨時教導官殿に挨拶したまえ」

「はい。ご紹介に預かりました、レギオン:フォーフロントのリーダーを勤めております、今流星です! よろしくお願い致します、一柳臨時教導官殿」

「宮川高城です。よろしくお願い致します」

「と、綾波みぞれです。横浜の英雄、幸運のクローバーにお会いできて光栄です! よろしくお願い致します!」

「赤火瑠衣です。アイドル衛士を目指しています! よろしくお願い致します、一柳教導官殿」

「五条フレデリカだよ! よろしくね! 一柳臨時教導官!」

「紹介に預かった、一ノ瀬真昼臨時教導官です。皆さんのサポートを受けて活動させてもらいます。その点からこれから行動を共にすることが増えると思うから、よろしくね」

 

 真昼が最後に締めくくり敬礼をすると、他の5人もそれに倣って返礼した。


「まずはフォーミュラフロントにこの世界情勢とそれに合わせた衛士の立ち位置、世界標準となる戦術から教えようかな。嫌な子はいると思うけど、座学から始めようか」

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