教導官への転向②
大興奮するのは綾波みぞれだ。
「ど、どどど言うことですか!? 流星様! 高城様!?」
「言葉通りよ。横浜衛士訓練校で教導官になる為の研修先としてうちが選ばれたの。元々、精神が不安定な子のメンタルケアとしてラプラスの力を借りてたから」
「それで交流があり、GE.HE.NA.とも薄いことも手伝ったわね」
「そう言うことよ。因みに真昼さんの教導官の時間以外は私達がサポートすることになってるから。戦闘時のオペレーターも彼女がやってくれるわ」
「そ、そそんな恐れ多いです! あの一ノ瀬真昼様にオペレーターなんて!」
喜びで震えるしぐれとは反対に、瑠衣とフレデリカの反応は淡白なものだった。どちらかといえば不安の方が強いようだ。
「でも本当に大丈夫なんですか? 衛士としての力と教導官やオペレーターの役割は全然違うじゃないですか」
「それも問題ないと思うわ。前に訓練校合同訓練があったのだけど、それは凄い教導官っぷりだったから」
「アレは地獄だったわね」
流星と高城は一年前の訓練を思い出して顔を顰める。
「あの流星先輩が地獄だっていうなんて!?」
「フレデリカちゃんも体験すればわかるわ」
「でもそのお陰で去年は無事生き残れたのだし、効果的だったわね」
「そうね。ああまで言われて本気にならない衛士はいないもの」
流星と高城は横浜衛士訓練校迎撃戦に参戦してスモール級群れと対峙している。その参戦理由は真昼の教導が身に染みて理解できたからというのがある。もしあの特訓がなければ心が折れていたかもしれない戦いがあったのは事実だからだ。
「アイドル衛士として英雄に負けないようにアピールしなきゃ。いや、むしろご本人にどうしたらそうなれるのか聞くのも良いかも?」
一人で考える始めるに瑠衣は、じっと黙って写真を見ているフレデリカに、みぞれは声をかける。
「その写真がどうかしたんですか?」
「うーんとね。ボロボロだなって思って」
「ボロボロ?」
「ツギハギでも良いかな。砕けた心をかき集めて、必死に固めて、なんとか維持してる。きっと本人は脳が蕩けていると思う」
「あははは……フレデリカちゃんの言い回しは独特ですね」
写真には綺麗映った真昼や愛花の写真が写っている。二人とも笑顔で、映えている写真だ。とてもフレデリカの言うような表情には見えない。
「それで流星先輩、一ノ瀬先輩はいつ学校へ来るんですか?」
「明日よ。明日の朝礼で臨時教導官として挨拶するみたい」
「なるほどー。確かに急に教導官が変わるのは稀な事ですもんね」
流星と高城は苦々しくも尊敬する戦友として。
瑠衣にとってはフィルター越しの英雄に期待を募らせ。
フレデリカは真昼の有り様に興味を示し。
みぞれは光に当てられて狂った信者となり。
彼女達はそれぞれに不安と期待を抱きながら一ノ瀬真昼の来校を待つのだった。
翌日、神凪に一ノ瀬真昼が現れた。
横浜衛士訓練校の教導官制服に袖を通して、戦術機を持って歩いていく。片腕がない見慣れない制服姿の彼女に奇異の視線が集まる。そして横浜の英雄だとわかるとわざつき始める。
校門前で待っていた流星と高城、そして先生達は頭を下げる。
「ようこそいらっしゃいました。一ノ瀬真昼さん。こちらは今回貴方をサポートするフォーミュラフロントの二人です。今流星と宮川高城です」
「よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
「では職員室にご案内します」
流星達に真昼はついていく。
「一年前より美しくなったね、高城ちゃんは」
「そういう真昼さんこそ、可愛くなったわ。良い仲間ができたからね」
「うん、あの子達は私の支えだよ」
「神凪に来るのはいつぶりかしら?」
「ちょくちょく来てたよ。私のラプラスは負の魔力の浄化作用もあるから、精神が安定しない子を癒しに来てたんだ」
その実態はトラウマや恐怖をラプラスの効果という実際は美鈴のスキルで記憶から抹消して戦えるようにしていたわけだが。
「そうなの、ならお世話になってる子は多そうね」
「うん、色々な学校でやってたから、数だけなら多いよ。覚えていてくれているかは別だけど」
「貴方を忘れる子はいないわよ」
「そんなにインパクトあるかな?」
「テレビや雑誌で見ない日は無いわ。英雄になる前から外征任務で東京には来ていたじゃ無い。幸運のクローバーだってその時についたものでしょう?」
「そうだったね。幸運のクローバーが今や横浜の英雄か。ああ、そういえばギガント級の時に増援に来てくれてありがとう。おかげで助かったよ」
「貴方のお役に立てたのなら幸いだわ」
職員室について、真昼と二人は別れる事になった。流星と高城はこれから行われる朝礼に備えて体育館へ向かうのだった。道すがら叶星はため息を吐くように言う。
「普通に話している時は良い子なんだけどね」
「ふふ、教導官モードになると罵詈雑言が飛んでくるわね。きっと」
「私達はともかく、他の三人が落ち込まないか心配だわ。英雄って思ってるから鬼教官って印象は多分無いわよね」
「訓練を受けたものしか知らない姿だものね。そう考えると真昼さんのレギオンは凄いわね。たぶん毎日訓練してるんでしょう? どれだけメンタル強い子達が集まってるのよ」
「それか心酔しているかのどっちかね」
そして集会の時間になった。校長先生の話と特筆事項が挙げられて、最後は一ノ瀬真昼が臨時教導官として赴任したことを告げる。そしてスピーチを披露する。
「初めまして。一ノ瀬真昼です。今から私は皆さんに認知しておいて欲しいことをお伝えします」
上からの言葉にピリッとした雰囲気なる。
「この神凪女子藝術高校では、衛士の自主性を重んじていますね。衛士ひとりひとりの人生を大切にしており、デストロイヤー討伐の活動も最低限しか強制しないという理念を持ちます。そして出撃する衛士は志が高く高水準で纏まっています」
しかし、と真昼は首を振る。
「私は非常に危ういと考えています。何故なら皆さんは軍人である自覚に乏しいと思っているからです。デストロイヤー退治はあくまで片手間で出来ることの一つであり、軍人としてデストロイヤーと殲滅するのが使命という意識に乏しいのでは無いでしょうか? 衛士は戦術機を持ちます。その時点でどの訓練校も例外なく軍需系学校に分類されます」
真剣な瞳で生徒達に語りかける。
「神凪も例外ではありません。我々は軍人であり、軍人がデストロイヤーと戦うことは死人がでます。そして死ぬのが自分なら問題ありません。自分で戦うという道を選んだのなら、それは仕方のないことです。しかし仲間が死んだ時、民間人が死んだ時、頭を切り替えられますか? 仲間の死体を放置して戦線に参加できますか?」
真昼は自分の手を見る。
「横浜やお台場などデストロイヤー戦争の最前線では当たり前にそういうことが起こります。私自身、英雄と呼ばれていますが両手から溢れた命の数は測りきれません。もしくは命の選抜をしなくてはなりません」
思い返すのは時雨が死んだ戦場だ。一人でも多くの衛士を生かす為に……自分が生きる為に支配して突撃させて肉壁にした光景。それは間違いなかった。
自分は活躍して英雄となった。だからあそこで死んだ人たちは決して犬死では無いのだ。
「防衛軍数十名の命と、衛士一人の命なら後者の方が重いです。何故なら衛士以外は基本的にデストロイヤーを倒せる力は備わっていないからです。仲間を見捨てる判断を迫られることがあります。私は何百人デストロイヤーに食わせて英雄の評価を得ました」
真昼は拳を握る。
「仲間が死んだ時、民間人を目の前で吹き飛ばされた時、後悔していけません。動揺する前に行動してください。敵を殺してください。後悔の記憶は次の決断を鈍らせます。そして決断を人に委ねようとするでしょう。そうなれば後は死ぬだけです。結果など誰にもわかりません。その時の最善を全力でやった結果が最悪な場合もあります。一つの決断は、次の決断の判断材料にして初めて意味を持つのです」
仲間が傷ついた。助けなきゃ、自分が抜けた穴から敵が侵入してきた。陣形が崩れて大きな被害が出た。そんな光景を何度も見てきた。その度にラプラスで意思統一させて反撃して勝利してきた。
仲間が死んでも気にするな。後悔や哀悼は後で良い。
仲間が傷ついてもまず敵を殺せ。助ける間、敵はまだ動いているんだ。
「友達がいつ死んでもいいように、伝えたい言葉はその時ちゃんと伝えてください。私達はいつ死ぬかわからない。それを踏まえての行動をするように」
そして静寂の中、真昼は一礼をして壇上から去った。
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