22 アーセナルという存在⑤
映像が終わった。
「さてさて、以上が第二世代が試験導入された初期の、私のお気に入りのエピソードなんだけど」
「うわぁ、懐かしいなぁ。動きも拙くてモヤモヤする」
「いやいや、時雨様を援護した時なんかはいまの真昼様を彷彿させたわい」
明るくなる資料室。映像の途中で百由がたびたび映像を止めて解説してくるので、本来の時間の倍以上の時間がかかっていた。
「でしょ? 戦時雪は一日にしてならず、なんだよ?」
「まぁ第一世代の長所はわかったの。安価で、量産できて、硬い」
「そうそう! 何も威力や可変速度だけが戦術機を優秀と決定づける要因じゃないわけよ!」
「しかしな、今目の前に第一世代と第二世代があって、どちらを使いますか? と言われたら第二世代じゃろう? 第一世代は局所的に有用なのであって、やはり優れているのは第二世代じゃ」
「確かに第二世代は優れた性能を持っているわ。人類がデストロイヤーに立ち向かうために時間と技術と資金を費やして作られたものだもの。だけど、その過程で要らないものとして切り捨てられた性能が、必要になる場面もある。第一世代はまだまだ現役だわ」
「まぁ、事実第二世代は折れたらポンポン交換するなんて真似できるものじゃないからのぅ。その点で言えば確かに第一世代も現役か」
「わかってくれたようで嬉しいわ」
真昼は二人が分かり合えたようで、ほっと一息ついた。
「良かった。これで仲直りだね」
「別に喧嘩してたわけじゃないけどね。じゃあ改めてエミリーリアちゃんも工房作り手伝うとしましょうか」
「おお、それはありがたい」
エミーリアの工房に向かう二人。
二人ともさっぱりとした性格らしく、先ほどの意見の対立は真剣だから熱くなってしまったのだろう。
そんな二人を微笑ましく思いながら真昼も二人に続く。百由の部屋からエミーリアの部屋に持っていくのに有用そうなものを探している時、真昼は百由の部屋を通った時にある資料を見てしまった。
『第四世代・精神直結型戦術機について』
真昼はGE.HE.NA.でその戦術機を使っている。使用者の負荷が重く、投薬と強化で耐えてあるが、実戦投入にはまだまだ長い時間がかかると言われている戦術機だ。
それを百由は一人で作ろうとしている。一人の廃人を作ってもなお、まだ諦めきれずに研究を続けている。それは廃人にしてしまった親友への償いなのか、それともアーセナルとしての性なのか。
それはわからない。
だが、真昼は少し胸が痛むのを感じた。
強化衛士となって、第四世代戦術機の負荷に耐えているが、それをなしで運用できるようにするのには、かなりの時間が必要だろう。
強化衛士と、先程見た光景で思い出したが、そういえば時雨様も強化衛士だったな、と思い返した。
強化衛士は『刻印』が刻まれる。肌に刻むのだ。それを隠す為にお風呂に入る時や、肌を晒すのを避けていたことを思い出した。
時雨は強化衛士になった経緯や、その心情は語らなかったが、誰にも知られないように立ち回っていたのは事実だ。
夕立時雨はレアスキルがユーバーザインという気配遮断と気配付与に加え、カリスマの戦意向上と攻撃防御強化を持っていた。また、彼女は強化衛士特有の後付けスキルとしてスキル強化があった。カリスマを強化することでラプラス並みの強度に高めて使用していたのだ。
本人はラプラスと説明していたが、真昼はそれが本来のラプラスではないと知っている。ラプラスと同じ効果がある、という話だった。そんな大きな力を持って、孤独だった時雨の心を少しでも癒せたと真昼は信じている。
「真昼ー! これ運ぶの手伝って!」
「うん! わかった!」
真昼は思考を振り切って二人を手伝った。
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