シュベスターには黒百合を
ユリィ・フォニー
プロローグ (ユンとルカ)
中学校生活も終わってあと一週間を切った春休みに私は内心高校生活にドキドキしながら自室で毎日くる先輩…今年から同じ学年になる生徒を待っていた。
「おっはよ〜」
「げ、今日も来たんですか…」
インターホンも押さずに入ってきた表面上は先輩に嫌な顔をしながら対応する。
先輩はカーペットに適当に座って、私が飲んでいた紅茶を少し飲んだ。
「流石生徒会長の紅茶美味しい…」
「ちょっ、それ私が貰ったやつですよ」
「私にもちょうだい」
「しょうがないですね…」
しぶしぶ貴重な高級な紅茶の葉をポットに出してお湯を注ぐ。
「香りいいじゃん」
「高級品ですからね」
ティーカップに紅茶を注いで先輩に出す。
「ありがとう」
「これ飲んだら帰ってください」
「来た意味ないじゃん」
笑う先輩に私は内心用があるのかと少しがっかりした。
紅茶の入ったティーカップを持ち上げる。
「・・・な、なんですか?」
顔面のいい人に見つめられると緊張して自分がしたいことをうまく出来ない。
「・・・ユン飲んでもいいんだけど、間接キスだね」
「はぁ!?」
私は思わず立ち上がる。
「せ、先輩何言ってるんですか!か、間接キスなんて…べ、別に気にしませんし…!」
「めっちゃ気にしてるじゃん。いいよ私がそっち飲む」
「だ、大丈夫です!先輩はそちらの温かい方を…」
「そう?あ、別に隠さなくていいからね、この可愛い後輩め」
「そんなんじゃないです!ていうか、今年から同じ学年です」
「やった」
「何がやったですか…。まさか先輩が留年するなんて…」
中高一貫のこの学園は基本的に留年はないらしい。
噂でしか聞いたことがないけど、留年する生徒は一年間赤点を全教科で取り続けた人、又は叶えたい夢がある人だけだとか。
先輩は中等部の頃から学業は学年一位の出来だったから後者なんだろう。
「先輩聞いてもいいですか?」
「うん?私に答えられることならなんでもいいよ」
「そ、それじゃあ。留年した理由を教えてください。先輩の頭ならこの学園で赤点を取るはずないですし。それなら何か願いがあってのことだと思ったので…」
「・・・聞きたい?」
「き、聞きたいです…」
「それは…。・・・秘密」
「ええーーー!!」
勿体ぶったわりに期待を裏切られた…。
「ま、いつか教えてあげる」
「いつかっていつですか?」
「いつかだよ。私がユンになら話してもいいかなって思った時。大丈夫、ユンより先に話すつもりの人はいないから」
「そういう問題じゃないです」
せっかく聞けると思った先輩の謎がまだ先にあることを思い知らされた私は間接キスなんて気にすることなく紅茶を飲み干した。
「それで、先輩は今日来た理由はなんですか?」
特に話す話題も無くなったから聞いてみる。
「勉強しようと思って」
「ええ…春休みの課題なら自室でやってくださいよ…」
「いやだー。今私の部屋引っ越しの作業で忙しいから」
「留年も面倒ですね」
「こればかりはしょうがないか」
生徒たちが普段生活する自室は2人1組で与えられている。
私の部屋はちょうど人数が足りなくて私1人が使ってるけど…。
先輩は本来なら二年生に進級して部屋の位置もそのままのはずだが、留年したことで一年生棟の部屋にお引っ越しらしい。
「もしかしたらここに越してくるかもね」
「可能性大ですね…。その時はよろしくお願いします」
「うん。・・・と、話が脱線した。一緒に勉強しよ。わからないところあったら言ってね。教えてあげる」
「はい」
私たちはそれぞれ違うワークを開いて解き始める。
先輩は変わった気がする。
中等部の頃からの知り合いの先輩は中等部での生活に不安があった私に話しかけてくれた。
最初は義務だったのかもしれないけど、私はその日から先輩の後ろを歩くようになっていた。
放課後も一緒に時を過ごして休日も今のように勉強会も行った。
そして…、姉妹の契りを交わした。
学園も伝統であるシュベスターの契りを私と先輩は結んだ。
学園には同性カップルも沢山いたから恥ずかしくはなかった。
契りを交わした夏。
先輩は中等部の生徒会長に就任して私は役員だった。
先輩は会長としての務めを果たす上に私の雑用事なんかのサポートにも回ってくれた。
そんな完璧の先輩…お姉様に私は恋していた。
いつの間にか先輩を目で追って、思いを馳せて、でも伝える勇気はなかった。
私の勇気がなかったせいで姉妹という形で中等部での先輩との生活を終わらせてしまった。
もちろん先輩は高等部に上がっても私を気にかけてくれたし、何も代わることなく接してくれた。
でも、事件が起きた。
中等部が春休みになる直前。
先輩が私の言ったのは留年すると言うこと。
その時理解が出来なかった。
でも、先輩が望んでしたことだったのはわかった。
先輩は泣いてなかったから。
だから何か理由があったんだろうと。
その日から先輩は変わった。
同学年になってしまったからには姉妹の契りは撤廃された。
私は最優秀新入生として現生徒会長の先輩と次に契りを交わすのを義務付けられている。
先輩にそれを伝えると一瞬嫌な顔をしただけだった。
先輩は私に何をして欲しかったのかがわからなかった。
「先輩…私のこと好きですか?」
「えっ?」
「あ」
思わず出てきた恥ずかしいフレーズに顔を赤くする。
「わ、忘れてください…」
「好きだよ」
「へ?」
先輩が距離を詰める…唇が重なる。
「!!」
わ、私今先輩とキスしてる?
理解した頃にはもう遅くて先輩は唇を離す。
「は、初めてだったよね?」
「は、はい…え、えと…すみません変なことさせてしまって…」
「ううん…。私が悪い。なんだか不安になちゃって。ユンが私のこと好きじゃないのかなって思っちゃって」
「な、何言ってるんですか…。その言い方はずるいです。でも先輩が留年した理由を教えてくれないなら私も答えません」
「あはは。ユンのいじっぱり」
始業式まで残された、私と先輩の姉妹の日を大切にしようと私は心に誓った。
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