わたしは、ここには居られない。

噂話程度でもいいから莉子りこたちの手がかりを求め、沼津港に向かった。


沼津の漁師さんに管理事務所を聞くと沼津漁協事務所を教えてもらった。


「———あの9歳くらいの男の子なんです。もう一人はわたしと同い年の女の子なんですが、どなたか海の近くで見かけた人はいませんでしたか? 」


「いや~、ちょっとわからないな。もしかして事故かい? それなら下田海上保安部に連絡したほうがいいよ。連絡してあげようか? 」

「いえ.. あの....もういいです」


大事にするわけにはいかなかった。

わたしはこの時代の人間ではないのだから。


「やっぱり.. ダメだ.... 」

「まだあきらめるなよ。明日、俺も内浦の漁師さんに聞いて回ってやるよ」

「おねえちゃん、私も友達に聞いてあげるよ」


「ありがとう」



その日、家に帰ると由希子ちゃんが『ねぇねだけパフェ食べてずるい! 』と泣いて駄々をこねて大変だった。



翌日からわたしは直哉なおや君の自転車の後ろに乗せてもらい、漁師さんの家や農家を一軒一軒調べて見る事にした。

しかし、堂々と「2人を知りませんか? 」などと質問すれば、変な噂になりかねない。


そこで偽の夏休みの宿題、自由研究「家庭における喫煙の実態と禁煙の意識調査」をすることにした。

これなら堂々と一軒一軒訪問できるし、家の中の様子を知ることが出来る。

そして、それとなく地元以外の子供の目撃情報を集める事にした。


また、玄関の靴のチェックも怠らなかった。

わたしは莉子の靴を覚えているから、玄関にあれば莉子がその家にいるかもしれない。

もしかしたら寝込んでいるかも?


次の日も、また次の日もわたしは直哉君の自転車の後ろに乗せてもらい、たくさんの家々を周った。


だがそれを3日続けても何の情報も得る事は出来なかった。


「やっぱり.. 見つからないね.... 」

「うん」


「 ..もう、ここにはいないのかも.... 」


半ばあきらめの気持ちから淡々と言葉が出てきてしまった。


そして今まで、何も聞かずに手助けしてくれた直哉君。

もうこんな事に付き合わせてはダメだ。


「直哉君、もうやめよう。わたし、ここを出て行くよ」

「何言ってんだよ。記憶戻らないのに出て行くなよ。病院にも行けないんだろ? だったらここに居ればいいじゃんか。そのうち記憶も戻るかもしれないじゃんか」


「でも他人のわたしが、これ以上迷惑かけるわけにはいかないよ」

「他人なんかじゃない。だって俺と智夏ちなつは出会ったじゃないか。出会ったらもう他人なんかじゃないよ」


「 ....  ァ ....ガトウ」


「え..えっと.. あの? 泣いてる? ごめん。俺、なんか変な事言ったかな? 」


「 ..違うの。あのね、うれしかった。なんか心強かった」

「そ、そっか。まぁ、あれだよ。少し様子見ようよ。そうだ、智夏はずっと悩んでたじゃんか。だからさ、明日は三津みとの水族館に遊びにいかないか? お、俺とさ。リフレッシュだよ! リフレッシュ! 」


「うん。いいよ.. でも、直哉君、泣いてる女の子に『泣いてるの? 』って聞いたらダメだよ」

「あ、そっか。ははは」


明日、三津の水族館に行って、その後、何も情報がつかめなければ、もうここに居られない。


直哉君....

わたし.. どこへ行けばいいのかな?

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