セピア色に輝く笑顔のひと

悠馬君のおじいさんの静かながらも言い知れない迫力に、わたしは言葉をどのように返せばよいのか一瞬戸惑った。


「あ、あの、これは莉子りこが買ったのをもらったんです。 ..悠馬君のに似ていますよね?」


「あぁ、ご存じでしたか? 」

「はい。見せてもらいました」


おじいさんは自分を鎮めるために一呼吸置くと背後にある仏壇のほうを振り向きながら静かに話し始めた。

そこには2枚の写真が飾ってあった。

1枚は25歳くらいの若い女性、もう一枚は少しセピア色になってしまった若い青年の写真だ。


「実は悠馬が持っているのは私の兄・『直哉なおや』の形見なんです。私には4つ上の兄がいまして18の時、事故で亡くなりまして.. その兄が海から引き揚げられた時、大切そうに手に持っていたんです。両親は「縁起が悪いから捨てろ! 」と言っていたのですが、私には捨てられなかった。兄の大切な想いが入っているようでね。それから私は海釣りするときはお守りとして持っていたんです。私から息子の正人、そして今は悠馬に持たせています」


「そうだったんですか。受け継いでるなんて凄いですね。でも私が持っているのは最近の新商品なんです。昔にも似たようなマスコットが売っていたんですね? 」

「ほ~....そうですか。でも私が子供の時に持っていたのとそっくりなんだよなぁ」



もう一枚の写真の若い女性は悠馬君のお母さん・瞳さんの写真だった

台風が接近した真夜中、瞳さんは予定日よりもかなり早く破水してしまった。

ますます荒れ狂う台風、沿岸沿いは通行止めとなり、病院への救急搬送はかなり遅れてしまった。

瞳さんの弱りきった体力は悠馬君をこの世に送り出すだけで精いっぱいだった。

もう少し適切な処置さえできていれば助かったかもしれない。とおじいさんはお線香を上げながら語っていた。



「ギャーッ!! 悠馬君! もう一回だ!! 」


テレビの前で、莉子と悠真君は釣りゲーム対戦をしていた。

ここに来てまで釣り対戦するなんて....


..と、いつの間にかわたしも参戦して、そのうちおじいちゃんまで巻き込んで『智夏ちなつ・莉子VS悠馬君・おじいちゃん』のチーム対戦となった。


ゲームが得意な莉子が優位に勝負を進める中、悠馬君チームはおじいちゃんが足を引っ張り対戦結果は、僅差でわたし達の勝利となった!!


「悠馬君、今日はとっても楽しかったよ。お父さんによろしく言っておいてね」

「お姉ちゃん、今度は本当の釣りで勝負だ! 明日、堤防で待ってるよ! 絶対来てね! 」


「わかった! 受けて立つ! 」


わたし、莉子、悠馬君はグータッチの約束をした。


「おじいさま、今宵はこれで失礼いたします」


莉子がちょっと気取りながらあいさつをしている。


「やだなぁ。『おじいさま』なんて私も若い子には名前で呼ばれたいもんだ。ちなみに和樹かずきというんですよ」


「和樹さん!ありがとうございました」


おじいさんがグーを突き出したのでタッチした。


「いやだわ、この人、年甲斐もなく.. 若い頃みたいに! 」

「俺はまだまだ若いぞ! 」


おばあさんの言葉にワントーン高い声になる和樹さん。


大きな笑いが起きる中、わたし達は『佐野家』を後にした。




「智夏、仏壇のほうで何を話してたの? 」

「ん~.. この『かえるのピクルス』の事。何でも和樹おじいちゃんには若くして亡くなったお兄さんがいたんだって。そのお兄さんの形見らしいよ」


「へー、そうなんだ。昔からあの人形ってあったのかな? ま、カエルなんてマスコットにしちゃえば似たようなもんか」


そんなもんかなぁ....


わたしはあのお兄さんのセピア色の笑顔を見たとき、どこか懐かしいような気持ちになっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る