サイバーパンク桃太郎

ム月 北斗

全身の約90%をサイボーグ化させた桃太郎とミュータントドッグ&キジドローン&ゲル化モンキーVS工場長マツオカ(64) 定年前の聖戦(ラグナロク) #1

 むかしむかし……じゃなくて未来の話

 一人のおばあさんが山のふもとで静かに過ごしていました


 原子力洗濯機が故障してしまい、おばあさんはやむなく川へ洗濯に行きました


 山頂から流れてくるその川は、酷く汚れておりました

 油のようなものが浮き、灰色に染まっています

 それもこれも、山頂にある植物遺伝子改造量産工場が原因でした

 そこから川へと工業廃水が直接流されていたのです

 川の周りで育つ植物は見る見るうちに変異していきました

 小さくカワイイたんぽぽは、茎に薔薇のようなトゲが生え、シロツメクサは黒光り

 木々はそのすべてが枯れ果ててしまい、代わりに地域環境維持センターの係員が埋めたホログラム投射器によって映し出された樹木ばかりです


 おばあさんが川へ着き洗濯をしている時の事でした

 川上から、どんぶらこ、どんぶらこと"危険物質"を知らせるマークの描かれた大きな桃が流れてきました

(こんなものが川下、町の方に流れたら大変じゃ)

 そう思ったおばあさんは灰色の川へ飛び込みました

 流されないように慎重に歩みを進め、桃の流れて来るであろう軌道上に立ち、桃を待ち構えました

 おばあさんは流れてきた桃を自身のバイオアームで持ち上げると、メジャーリーグのピッチャーの如く振りかぶり放り投げました

 放られた桃は川の水面を撫でるように飛び、生じる衝撃波が川をきました

 やがて川岸へ着くと今度は大地を抉りました。轟音を響かせ辺り一面に土塊つちくれと砂利を撒き散らしました


 おばあさんが肩と首を鳴らしながら川から上がり桃を見ると、桃には一切のキズが付いていませんでした

(ほぅ、川上から流れてきたということは工場で育ったものじゃろう、これでもキズ一つ付かぬとわな……ならば次は300%の出力で―――)

 バイオアームのモーターが鋭く駆動音を鳴らしたその時でした


『CAUTION,CAUTION.Yellow line made sagatteya abunaide.』

 桃から自動音声による警告音が流れた、すると桃がゆっくりと開きだしました

 おばあさんが桃の中を恐る恐る覗くと、そこには一人の青年が眠っていました

(なんじゃこの子は……なぜ工場から流れてきた桃の中に……まさかヤツめ、遂に生命を生み出す植物を作ったとでもいうのか……⁉)

 おばあさんがそう考えている時でした、青年の瞼がゆっくりと開きだしました

 透き通るような青い瞳でおばあさんを見つめる青年、今度は口を開くとおばあさんに言いました

「ラグナロクの時が迫っている」

(⁉……この子、なぜそれを知っている?まさか、この子は……)

 おばあさんは驚きました。続けて青年は言いました

「今のこの身体では神には勝てない、おばあさん、私に力を貸していただけませんか?」

「いいじゃろう。しかし、お主が現れたということはあまり時間が無いということでもある。少々荒療治にもなるがそれでも良いといえる覚悟はあるか?」

「構わない、私の信じる正義の為ならば…!」

(こやつ……良い目をしている)

「お主、名をなんと申す」

「私に名は無い、個体識別番号なら保有している」

「分かった、ならばお主は今後こう名乗るがいい……」


 MOMO☆TAROUと――――――

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