第37話 災厄ダイグ

空を駆けるように飛ぶベクト。その姿はパンクと戦った時と同じものであり、今出せる全力を使える形態だった。


ただ歩き続けるダイグへと高速で近づくも、迎撃といった攻撃は飛んでこなかった。目に入れる必要すらない者だと思われているのが少しだけベクトを苛立たせる。


「敵と認識すらしてないのか」

〈ならば好機でしょう〉


ふぅと一息つき、ダイグの十数メートル上の空で動きを止める。地面そのものが動くような巨体、向かってきたであろう方角に目を向けると、黒い地面が一面に広がっていた。視界の全てがダイグ、存在そのものが災厄だというのも納得のものだった。


〈まずは今の最大威力を試してみてください〉

「いいのか?効かないんだろう?」


三日の休みのお陰でパンクとの戦いより今の方が魔力が充実している。あの時降らせた隕石よりも強力になっているのは分かっていた。それでも届かないとアースが口にしたから試さなかったが、自分の力がどこまで届くのか試してはみたかった。


〈試さないとベクトは納得しないでしょう?〉

「流石。試さないでお前を失ってたまるか」


パンクと戦った時同様、意志を魔力に込めて上空へと魔力を伸ばしていく。アースをうしなってたまるか、怒り、憤怒の感情が一段上の力へと引き上げていく。両手を天へと掲げ、思い切り振り下ろし魔法名をとなえる。


隕石群メテオレイン


天に形成された石群が黒い地面へと降り注ぐ、無差別に落ちていく石だが、的は当たる当たらないを心配する必要が無い。面積で言えばそこらの山より大きいのだから。


「降れ……っ!降り注げぇっ!」


パンクの蜘蛛津波を破壊した時よりの倍はある隕石の雨が降り注ぐ。下手な災害獣なら死に至る威力の隕石は、明確にダイグへと傷を与えていた。


「死ねよっ……!」


隕石の雨は止まない。殺意も込められた隕石の威力は尋常ではなく、数発が集中した箇所は地面が見えるだった。脂汗すら浮かぶ中、それでもベクトは隕石を降らせ続ける。


だが、そこまでだった。


〈効果はありますが、あの速度ではガウトリアが滅ぶ方が早いですね〉

「っ!」


ダイグの傷は数発以上集中した箇所以外、再生を始めていた。さらに進行速度に変わりはなく、ガウトリアへと姿が見える距離になっていた。しかも問題はそれだけではなかった。


〈それに、分かっているでしょう?魔力が既に限界を迎えていることを〉


既にベクトが扱える魔力は限界だった。パンクの時に振らせた隕石の数を優に超えているのだ。アースが専用武装となっていても、ベクトの力をベースに、アースの力を乗せているのだ。ベクトが限界であれば戦えはしない。


「やらないと……いけないのか……」


泣きそうな顔を浮かべ、ベクトは歯を食いしばる。決意が出来ているとはいえ、実行されるとなると心が揺れるものがあった。


〈ベクト、もし決められないのなら〉

「決めたさ!」


決意はもうしていた。ただ……一歩踏み出せば大切な者を失ってしまう、怖くて仕方がなかった。


恐怖に怯えるのは何度もあった。ドカタで人の死を見てきた時も、戦いの最中も、アースを失う可能性を知った時も。


「お前に決めさせなんかしない。これは僕が決めたことなんだ」


その度に迷い傷つき、進んできた。自らの決めた意志に従って前に歩いてきた。今回も、似たことだ。違いがあるとするなら──


「──決めたから、こんなにも悲しいんだ」


心を抉り、跡を残して引き裂くような痛み。自らの意思で明確に大切な者がいなくなる、それこそが違いだった。まるで魂が直接爪で切り裂かれたような感覚に、ベクトの目から一筋の涙が落ちる。



『搭乗者ベクトより預けられる魂増加。規定値を超えたため最終武装を解禁します』

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