第26話 新学期

 9月X日


 いろいろあった夏休みも終わり、学校が始まる。通学も久しぶりだ。先日購入したブルーライトカットメガネをつけてきたら、心なしか電車で避けられるようなこともなかったように思う。


 手応えを感じつつ駅から徒歩で学校へ、誰にも怖がられることなく教室までたどり着くことに成功する。教室の扉をくぐると速水と柿崎がこちらを見て軽く手を上げて挨拶してくる。同じ手を軽く上げて返す。


「八上、久しぶり。メガネどうしたん?」

「黒縁でいいメガネだ。でもちょっと色が濃くないか?」


 想定内の質問だ。僕はそっとメガネを外し、2人を見つめるとすぐにまたかけ直す。


「久しぶり。これな、、(スッ)どうよ?(スチャ)マイルドになるだろ」

「「こっわ!!あぁ、、マイルドだな」」


 納得してくれたようだ。


 〜〜〜


 担任の教師がきてホームルームを行う。現代国語担当秋山美津子先生(30代・既婚)だ。行事ごとの説明を受け、各授業で課題を提出すこと、残暑に気をつけて過ごすことなどを伝えて先生は一度出て行ったが、ドアの向こうからこちらをそっと見つめて手招きをしている。


 教室の外に出て先生に近寄ると、小声で話しかけてくる。


「仕事の件で話を通さないといけないので放課後にでも職員室に寄ってほしい。あと、そのメガネどうした?」

「わかりました。メガネは、僕は目が怖いみたいで、その。友達がほしくて」


 そう言うと先生は一瞬目頭を押さえ、胸に飛び込んでこい!というジェスチャーをしてきたのでサッと避ける。なぜ?といった表情をしているが女性教師に抱きしめられるわけにはいかない。


「すいませんそういうのはちょっと、僕は大丈夫ですので」

「す、すまん。我々が至らないばかりに。あと急にすまなかった、うん。頑張ってたくさん友達を作るんだぞ!他の教師にも私から伝えておこう」

「ありがとうございます」


 その後の授業では秋山先生が説明してくれたおかげかメガネに言及されることもなかったが、代わりに毎回授業の初めに暖かい目で見られて頷かれてちょっと恥ずかしかった。


 〜〜〜


 放課後、職員室へいくと秋山先生と教頭先生が待ち構えていた。応接室に通されて対面で座る。事務所と学校である程度話を詰めてくれていたそうで、基本的には学業優先と聞いているが仕事で出席できない際も課題を提出すれば出席扱いにできること。芸能活動をしていることをことさら強調したり特別扱いはしないが、仕事で欠席する際など必要に応じて開示することもあること。など学校側の対応を説明され、こんな感じでよいかの確認と、要望を聞かれた。


 特に問題なさそうだったので了承すると、この学校で在籍中に芸能活動をする生徒は初めてなので、至らないところもあるだろうが何かあれば都度つど相談してほしい。喜ばしいことであり、教職員一同応援しているので学業と両立して頑張ってほしい!と激励の言葉をいただいた。


 〜〜〜


 職員室を退出し、帰路につく。今日は仕事もないのでこのまま直帰できる。そう思っていたのだが、下駄箱で靴を履き替えていると話しかけられる。


「おーい、八上〜」

「速水、柿崎、どうした?」

「一緒に帰ろう」


 思わぬ2人に声をかけられ連れ立って駅へと歩く。


「八上さ、なんか職員室呼ばれてなかったか?」

「夏休みに何かあったのか?冤罪なら力になるぞ。そんなことするやつじゃないって証言してやる」

「いや、、うーん」


 なんか、心配をかけていたらしい。まぁ、2人ならいいか、友達だし。隠すようなことでもないし深夜にテレビをつけたら偶然見ることもあるだろう。


「心配いらないよ。仕事始めたんだ」

「「仕事?」」


 2人に夏休みにタレントになったこと、それでさっきまで担任と教頭先生と話していたこと、放送中の深夜ドラマに出演していること、それと彼女ができたことを話す。


「か、彼女だと!?うらやましい!!」

「そっちか?僕はスカウトされてタレントになった話が驚きなんだが」

「まぁ、驚くよな。僕もいまだにあんまり実感ないし」

「なんだよぉ、オレと柿崎と八上で打線組んで合コン行こうかと思ってたのに」

「オイ、初耳だぞ」

「同じく」

「だって話してねーもん」


 合コン、、沙希がいる僕には無用のイベントだがなぜ僕を誘ってくれようとしたのかは興味がある。


「どうしてこの3人なの?」

「えっ、気心知れててみんなタイプが違うし。向こうも選びやすいだろ。真面目系の柿崎、チョイワルの八上、そしてチャラついたオレ」

「チョイワル、、、」

「まぁわからんでもない。ちなみに僕はむっちり系が好きだから機会がある際はその辺相手側に伝えてほしい」

「お前デブ専かよぉ!?」

「デブではない!!!ぽっちゃりまたはむっちりと言え!」


 あれこれ話しながら歩いていたらすぐに駅に着いた。


「合コンは流れたとして、ちょっと予行演習していかないか?」

「というと?」

「メシ食ってアラウンドワンいこうぜ」

「家に連絡しないと」

「それな」

「是非連絡してくれ!それくらい待つから」


 というわけで母に電話をする。友達とごはん食べて遊んでくると伝えると、嬉しそうに是非行ってきなさいと言われる。言葉の端々から喜色が伝わってくる。


「オッケー」

「僕もOKだ」

「じゃあそうだな、ファミレスにいこう!」

「合コンってファミレスなのか?」

「ファストフードじゃないんだ?」

「ドリンクバーがある、これが重要なんだ」

「「へえー」」


 何はともあれ腹が減ったからと、1番近くにあったファミレスへ。とりあえず各々食事とドリンクバーを注文しドリンクをとってくる。


 速水はコーラ、柿崎はアイスティー、僕はメロンソーダ。


「八上お前、絶対アイスコーヒー飲みそうなのにメロンソーダとか、それはポイント高いぞ?」

「わかる」

「それで?ここからどうすんのよ?」

「まずは乾杯だよ乾杯!はい、かんぱーい!」

「「かんぱーい」」


 喉が渇いていた僕らは一杯目を早々に飲み干しておかわりをつぎにいく。そして再度の着席。


「はい、今合コンにおけるNG行動をした人が3人いましたー」

「それはもう全員だろ」

「わかるよ。飲み干すなっていうんだろ?」

「わかってんのかよ!オレも未経験だけど実際みんなで咳立つのはちょっとなぁ?」

「たしかに。乾杯って盛り上がるからな。直後に女子全員いなくなったら萎えるな」


 食事が届く。速水はチキン南蛮定食、柿崎がカルボナーラ、僕が唐揚げ定食だ。おのおのうまそうといいつつさっそく食事に取り掛かる。


「あっ、オレたち誰一人写真撮らなかったけど撮りたい子もいるかもしんないからその辺注意な」

「いや、合コンの時我先にメシ食いにいかないだろ」

「そういや取り分けとかどうすんだろ」

「兄貴いわく、『そういうのはメンツによる』だそうだ」

「相手をよく見ろってことだな。てか速水、お兄さんいたんだ。モテそうだよな」

「あー、兄貴はモテるよ。でもそんな兄貴いわく『本当に付き合いたい子は寄ってこない、だから自分から探しに行くんだ。合コンにな!』とのことだ」

「途中までいい感じだったのに、探すのは合コンなのかぁ」

「でも実際問題社会人とかだと出会いなんてないっていうしな」

「いや兄貴大学生だぞ?」

「「それはただ合コンが好きなだけだろ」」


 そんなこんなでおのおの頼んだ食事を食べ終えた僕らは山盛りポテトを追加注文し、合コンリハーサルと称して会話を楽しむ。


「よし!夏休み明けに久しぶりに再開したのもあるし、自己紹介からしていくぜ!じゃあまずはオレから!速水順一はやみず・じゅんいいち、高一の15歳です!よくサッカー部?って聞かれるけど帰宅部です!得意科目は体育と英語、好きな食べ物はハンバーグ!趣味はカラオケでーす」


 チャラい。抑揚の付け方が絶妙にチャラい。これは勉強になるな。


「2番、柿崎裕介かきざき・ゆうすけ。クラス委員をしてます。部活は入ってないけど生徒会は狙ってます。勉強は得意な方で苦手科目はないかな。趣味はテレビを見ること、好物は洋食です」


 さすが柿崎、そつがない。


「八上恭介です。同じく部活は入ってません。最近の趣味は映画やドラマの鑑賞。好物は手の込んだ料理です」


 こんな感じか?やや短いかな?


「悪くないな。これはいけるぞ」

「ついに合コンかー」

「僕はいけないけどな」


 男3人、ポテトをつまみつつ合コン談義に花をさかせた。

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