影…

〈トオル視点〉










白石さんとの電話の途中…

「…だよ…」と…

確かに誰かの声が聞こえた…







一瞬テレビかとも思ったけれど…

その前後にそう言った声も音も一切聞こえていなかったし







彼女の事はまだよく知らないが…

会社の先輩である俺と電話をする時に

テレビをつけっぱなしにする様には思えない…







( ・・・・あの声… )







頭の中に

ある影が浮かぶけれど

曖昧な記憶なのか

ハッキリと姿が見えないでいた…






( 気のせい…か… )






自分のデスクに腰を降ろして

数人が残ってカチカチとキーボードを叩いている

音が聞こえる中そっと瞼を閉じて

怪我をさせてしまった白石さんに

何かお詫びをしなくちゃなと考え…







( ・・・・・・ )







まだ数える程度しか接していない

白石さんとの記憶を辿っていると

ある人物の姿も出てきてパッと目を開けた







トオル「・・・・・・」








アスカ「病院は俺が付き添います」







白石さんに怪我をさせて

気が動転していたから

気にも留めていなかったが…







( なんで1番に駆けつけた… )







俺は営業課に直接電話をかけ

たまたまとったのが甲斐で…



甲斐の隣りに指導中の青城がいたって

全然不思議ではないし…

S社からの連絡もあったから

あの階段まで来てくれて

仕事のある俺に気を遣って

自分が病院にと言っているんだと…




そう思っていたから

全く不思議に思わなった…



 



( ・・・だけど… )







アスカ「・・・この人は…入社5年目の26歳ですよ」







彼女の記憶を辿ると…








アスカ「お疲れ様です

  里中課長から取って来る様に頼まれたんですよ」








会いに行った昼休みの経理課に

たまたま居た青城に驚いて

福谷に用があって来た様に装ったが…







( 本当に…たまたまか… )







アスカ「彼女っていうか…

   ずっと欲しい人がいるんですよ」







( ・・・ずっと? )







新入社員で入って来たばかりの青城と

白石さんでは4学年も離れているし…

接点なんて…ない筈だ…







アスカ「先生?」







4月頭に営業課を案内していた時に

青城が誰かを呼び止めていた事を思い出し

口にしていた「先生」と言う言葉に

「せん…せい?」と呟きながら首を小さく傾けた…






あの時誰を呼び止めたのか

ハッキリとした記憶には残っていなく

白石さんなのかも定かじゃない…






白石さんだとしても

なんの先生だと疑問は膨れ上がるばかりで

違う人物なのかと思っていると






「お疲れです」と甲斐の声が聞こえて来て

パッと顔を向けると

手にコンビニ袋を下げた甲斐が俺に近づいて来た







トオル「お前…帰ったんじゃ…」






カイ「いや、夕飯買って来たんですよ

  溝口さんもなんか要ります?」







そう言ってビニール袋の中を見せてくる甲斐に

「悪いな」と言ってコロッケパンを手に取り

「青城は帰ったのか?」と問いかけると…








カイ「今日は眼科に行きたいって言って

  定時にあがりましたよ

  コンタクトが破けたとかなんとか?笑」








甲斐の口にした「コンタクト」に

また反応している自分がいて

パンの袋を破ろうとしたまま固まっている…






あの日…

白石さんの本当の目を見た日…






請求書を出さずに帰って来た俺の手から

パッと請求書の束を取って

自分が行くと半ば強引に

経理課に行った青城の事を思い出したからだ…







トオル「・・・・甲斐…」






カイ「おにぎりも要ります?」






トオル「4歳しか離れていない

   先生と生徒って…いると思うか?」







甲斐は「え?」と驚いた顔を浮かべたが

「えー」と言いながら考えるそぶりをし…

「家庭教師とか?」と顔を傾けている







トオル「家庭教師!確かにそうだな…」








カイ「あとは…大学生と教授の助手?

  卒業生で残ってる人とかいましたよね?」








トオル「いや…それじゃ計算が合わない…」







彼女は大学卒業後直ぐに

うちに入っているし…







カイ「計算??

  なんかよく分かんないすけど…

  あっ!教育実習生!」






「あっ!」と声を上げた

甲斐の顔はさっきまでとは違って

何故か嬉しそうに笑っていて

不思議に思いながら「教育実習生?」と問いかけた







カイ「うちの高校に

  大学生の実習生が来てた事があるんですよ!

  タメの子達とは違って綺麗で…

  なんか…憧れてたんですよね…笑」







トオル「・・・・・・」







何となく…

甲斐の表現は分かりやすかった…





あまり年上でもないが

高校生の男子学生から見た女子大学生は

キラキラとした憧れのお姉さんだろう…







( それに…本当の彼女は… )







顔を俯かせて

コンタクトやメガネで顔を隠しているし…

髪型だって地味だけど…





もしも…俺の様に

たまたま…彼女の本当の目を見てしまったら…





ときめくかは別として…

一瞬でも心は奪われるだろう…

綺麗な目だなって…






家庭教師なのか実習生なのか…

彼女と青城の関係が何かは分からないけれど…







トオル「・・・二人は……知り合いだ…」






カイ「・・・はい?」

















   

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る