2つのランチ

〈ユキナ視点〉









青城君は8時には出社しなくてはいけないみたいで

8時少し前になると階段を登って行き

私も誰も来ていない経理課のドアを開けて

自分の席の横にある窓を全開にした






「・・・・・・」






自分の顔が熱を持っているのが分かり

顔に朝の涼しい風を当てながら

自分の手もパタパタと顔に向かって動かしている…







アスカ「じゃあ、またお昼にね」







( ・・・・・・ )







週末は私の部屋で…ああなり…

仕事の始まる前に階段でキスをして…

お昼休みもまた一緒に過ごして…





世間一般的に言えば

仲の良いカップルのようだけれど…







( ・・・・・・ )







やっぱり違う…

彼は、私にそんな感情は持っていない…

そして…私も…





青城君が私の目や髪を褒めてくれて…

安心するし…嬉しいけれど…





彼を好きかと問われたら

眉を寄せて口を閉じてしまう気がした…








アスカ「眼鏡もコンタクトも…

   俺の前以外じゃ外しちゃダメだよ?」








優しく笑って口にしていたけれど

目は…笑ってない気がして…





昔の姿の私に好意を抱いていた青城君が

あの姿の私を見て「気持ち悪い」と言わないのは…

当たり前というか…

そんなに驚く事ではない気がするし…






アスカ「髪も…このままでいいよ…」






結んである髪の毛先を

パラパラと彼の手から落としながら

呟いた顔はヤッパリ怖くて…







( ・・・独占欲なのかな… )







他人とオモチャを共有する事が出来なくて…

遊ぶわけでもなく…

一人でずっと部屋の角でただオモチャを抱きしめている

そんな子供の姿が連想出来た…







青城君から言われなくても

私は…眼鏡もコンタクトも外せない…







彼は…たまたまの人だから…

あの姿の私をたまたま気に入っただけの人だし

そうじゃない人の方が多いから…







( ・・・特に…同姓には知られたくない… )







きっかけは…

あの飲み会が原因で…






「・・・・・・・」






数年前の事を考えながら

顔を窓の下へと向けているとガチャッと

入り口のドアの開く音が聞こえ





まだ皆んなが出社してくるには早すぎると

驚いて振り向くと…








トオル「おはよう…白石さん早いんだね?笑」






「・・・ぁっ……オハ…おはようございます…」







青城君との事で頭が一杯で…

金曜日に高島さん達と食事をして

失礼な態度で帰ってしまった事を

スッカリ忘れてしまっていた…







「あの…金曜日は……失礼を…」







そう頭を下げて謝ろうとすると

「いやいやいや!」と笑いながら近づいて来て…








トオル「騙す様な事をしたのはコッチだから

   あとコレ!白石さん全然食べてないし…

   そもそも、ああ言う場は男が出すものだよ?笑」








「え?」と顔を少し上げると

溝口さんが五千円札を差し出しているのが見え

あの日私がテーブルに置いてきた物を

返しに来たんだと分かったけれど…







「いっ…いえ…

 私もあの場にいましたし…

 むしろ…雰囲気を悪くして……あの…」







「大丈夫ですので」と一歩下がって

受け取れないと態度で表した…







トオル「うーん…それじゃ…俺がカッコ悪いよ?笑」







「・・・へ…」







トオル「部署は違っても

   白石さんは同じ会社なわけだし…

   後輩に奢る技量もない

   ケチな先輩みたいじゃない?笑」







「そんな…事は…」







そんな風には思っていないし

誰にも話す気もない…





気にしなくていいのにと思いながらも

「全然いいですよ!」とラフな会話が

出来ない自分にどうしようと顔を下げると…







トオル「じゃあ…半分ずつにしよう!笑」






「??」






トオル「コレで…一緒にお昼を食べてくれるかな?」







溝口さんの言葉が理解出来ず

顔をパッと上げると

「今日は無理だから…」と言って

高島さんのデスク上にある

カレンダーを見ながら

「木曜日は?」と

あのキレイな目でといかけてきたから

パッと顔を背けた…






トオル「今のは傷ついたね…笑」







目を見られて

顔を背けたり…笑われたり…

変な反応をされて不快に感じるのは

よく知っている筈なのに…






「す…すみません…」と

スカートをギュッと掴むと

「いや、許せないね」と言いながら

膝を曲げて私の顔を見上げている溝口さんに

目を逸らしたいけれど…出来なくて…







トオル「金曜日は帰っちゃうし…

   今は傷つけられたし…

   木曜日にしっかり付き合ってもらうよ?笑」







「・・・でも…」








社食に行く勇気も

溝口トオルの横を歩く勇気もない…







トオル「白石さんは和食派かな?」







「・・・いえ…あの……社食は…」







私の言葉に目をパチパチとさせた後

プッと吹き出して

「社食には行かないよ」と言い

どこかのテイクアウトを持って

此処に来るつもりらしい…






社食じゃないと分かって

ホッと胸を撫で下ろしていると

「じゃあ、決まりだね」と立ち上がり







トオル「木曜日は…

   俺の話を聞いてもらおうかな」







「話…」






社食に行かなくていいのは

嬉しいけれど

溝口さんと一緒にいる所を

別のスタッフに見られでもすれば

また…色々と騒がられる気がして嫌だった…







トオル「うん…何がいいかな…笑

   とりあえず、俺の事何も知らないでしょ?」







「・・・・・・」







トオル「知ってほしいし…

   もし、そんなに悪い奴じゃないなと思ったら

   連絡先を教えてほしいんだ」







「・・・・・・」









   

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