呪い…

〈ユキナ視点〉










コップを置いて

口元についた水をタオルで拭き取りながら

鏡に映る自分に目を向けて

青城君の事を考えた…







( ・・・・・・ )







明け方前の…

日が昇り出す前にベッドから体を起こして

洋服を着だした背中をぼーっと見つめていると

「鍵はポストに入れておくよ」と背中越しに言われ…

少しだけホッとしている自分がいた…






ずっとあった身体の疼きも熱りも

スッカリ冷めてしまっていて…





一晩だけでも…

何の声も聞こえずに…

怯える事もなく眠りにつけて幸せだった…






今日と明日ゆっくりと過ごして…

また…月曜日から頑張ればいい…






そう思って毛布を鼻の高さまで引っ張り

彼が出て行った後に

もう一度瞼を閉じようと思っていると

腕時計をカチッと付け終えた彼が

体をコッチ向けて歩いてきて…






どうしたんだろうと

彼をベッドの中から見上げていると

ホテルの時と同じ様に

目尻の横を優しく撫でながら

「綺麗な色だよ」と私の瞳を見て

そう…言ってきた…






ずっと嫌いだった

鏡の中の自分を見つめ

青城君がくれたあの言葉を

自分でも口にしてみたけれど…







( ・・・・・・ )







土曜日の夜…

一人で眠りにつく時には

また、皆んなの声が聞こえきて

中々…眠れなくて…




今日もまた眠れないのかなと

顔を俯かせながら

パチンッと洗面台の電気を消して

ベッドに入ろうとすると…






「・・・あっ!」






枕元に置いてあったスマホが

明るく光っているのが見えて

小走りでベッドに近づくと

画面にはLINEの通知が表示されていて

口の端がムズムズとするの感じながら

届いているLINEをひらいて見た








【 明日の朝7時40分に階段に来て 】







土曜日の朝に帰ってから

一度も連絡がなくて…





あの行為後の…

初めての連絡だった…





いつもなら「はい」か「分かった」としか

返事を返していなかったけれど…





なんて返していいのか…

自分が何て返したいのかが分からなくて

毛布の中に潜った後も

ジッとその画面を見続けていると

【分かったの?】と催促のLINEが届き…






( ・・・・・・ )







結局…

どんなに悩んでも【分かった】としか

返事を返せなかった…






彼は…青城君は…

私に特別な感情を向けているけど…






( あれは…恋じゃない… )






「・・・・・・」







身体を重ねて

このベッドの上で抱かれながら

そう…感じていて

その考えは…多分合っている…






学生時代の実らなかった

淡い片想いの記憶にこだわっていて…





一度私を抱いてしまえば

その記憶も消えてなくなるのかと思っていたけれど…







アスカ「まだだよ…

  こんなんじゃ全然足りないよ…」







情事中に彼がこぼした言葉に

顔を向けて少し驚いた…






( ・・・あの目は… )






青城君の目は冷たくて…

とても淡い記憶の私を

抱いている様には見えなくて…







「・・・まるで…嫌ってるみたいだった…」







そう口にしてから

瞼をゆっくりと閉じ…





翌朝、彼から言われた通りに

7時40分に階段通路へと行くと

「おはよう」と優しく笑う青城君の姿があり

あの夜見た顔は見間違えだったのかなと

不思議に感じていると







アスカ「ふふ…コンタクトするとやっぱり嫌だな…」







両手を私の頬へと添えて

残念そうに笑いながらそう言うと

結んでいる髪に手を伸ばして

「綺麗だよ」と…

またあの言葉をくれた…






「・・・・・・」






アスカ「綺麗だよ……先生…」







顔を近づけてくる青城君に

スッと瞼を閉じて

彼のキスに応えている自分がいて

まるで…呪いみたいだなと思った…





皆んなの声も…

重い呪いの言葉だったけれど…







アスカ「キレイだ…」







青城君の口にする

この言葉も…怖い位に私を変えてしまう…










   

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