◆9 飛び出したカベチョロ野郎──“運命”変えられねえ?

【13日目】1975年(昭和50年)12月15日月曜日


 朱鷺はメジロ石油からバイクを飛ばして、一旦アパートに戻り、コウスケがくすねてくれた例の青いツナギに着替えた。

 コウスケからバイクを取り上げてまずは一安心だ。

 脳裏に三回目のデートの光景が蘇った。と言ってもデートは中止だった。それで今はこれから起こるであろうコウスケとトキの三回目を想像してみる。

 朱鷺は楽しみだった。遊園地に誘われた時、目の前に様々な楽しそうな出来事が浮かんだ。観覧車、コーヒーカップ、ジェットコースター……。何せ初めての経験だったから。それまで一度もそんな極楽を味わったことなどなかった。子供の頃の唯一の楽しみといえば、町内の盆踊り大会ぐらいだ。町の祭りといえば、男が主役のものばかりで、ちっとも面白くもない。

 ──じじいの締め込みからはみ出した、たるみ切った尻っぺた……

 朱鷺の目に祭りの光景が映った。

 ──そんなもん、なして、好き好んで拝みてえものか!

 ──ピチピチの若え衆のものならともかく……

 都会に出た若者は里帰りも滅多にしない。住み着いたら最後、都会で巣作りに勤しむのがおちである。まあ、田舎なんてどこも似たり寄ったりだろうが、朱鷺の里は、昭和40年代になると、既に過疎化が深刻な問題になりつつあった。

 てな具合で、朱鷺も町を早く出たかった。兄嫁が実家の政権を奪取し、独裁者として君臨したのを契機に、追い出されるようにして隣接するこの街にやってきた。

 ──そんで、ジイさんと出会い、愛を育んできた、というわけでねえかや。

 朱鷺はメットに頭を潜らせると、ナナハンにまたがってキーを差し込んだ。

「危ねえ、危ねえ」

 大きく溜息をつく。

 あの日、爺さんは、待ち合わせ場所にこなかった。事故でも起こしたか、と心配して街じゅうを捜しに行くと、案の定歩道のど真ん中でのた打ち回る爺さんを見つけた。どこかの薄汚い婆さんをけようとし、転倒して足を痛め、腰をアスファルトに強打した、と当の本人から聞いた。病院に運んだのは朱鷺だった。

「全く、どこのクソババアだ! オラの楽しみ奪いやがって、ああ、今考えても腹が立つ、チクショウめ!」

 怒りをスピードにぶつけ、追い越し際に悪態をつく。「トロトロ走るんでねえ、このウスノロ!」

 猛スピードで前を走る車と車の間を蛇行しながら、先方にバイクを認めると、ここぞとばかりに、あおって勝負を挑む。雄叫びを上げながらバックミラーで負けた相手を嘲笑する。またバイクを見つけるとスピードを上げ追いついて並走しながら、もう一度勝負を挑もうとした。が、相手を見てやめた。

「ああ、ご苦労さん。大変だねえ」

「ありがとうございます」

 相手は片手をハンドルから放し敬礼をした。

「お巡りさんも気をつけて任務を遂行してください」

 朱鷺も敬礼を返す。

「安全運転でおねがいしまーす!」

「はい、はーい!」

 素直に頷いた。「お巡りさん、後方で事故のようです!」

 白バイ警官はバックミラーをチラリと覗くと、振り返って確認する。と、朱鷺も後方を振り向く。トラックが見えるだけだ。

「ありがとう。気をつけて!」

「はいはい、どうもどうも」

 白バイ警官はもう一度敬礼してからスピードを落とし、朱鷺の後方でUターンしてバックミラーから消えて行った。

 その直後、朱鷺はアクセルを吹かし、スピードメーターの針が振り切れんばかりに県道を直進して、白バイを振り切って見せた。

「オラの勝ちだ! ざまあ見みろい! イェーイッ!」


   *


 喫茶店『龍』のドアを開けると、視線が一斉に降り注いだ。店内は相変わらず、族のたまり場で、8、9人いた。そのうち4人ほどがこの前と同じ顔ぶれで、奥のテーブル席からこちらに鋭い目つきを向けた。

 朱鷺はカウンター席の丸椅子をまたぐと、手を組んでメット越しにお春の兄貴に視線を送った。

「よお、あんたか、今日はなんだ? お春のヤツは……」

 鷹城譲たかしろ ゆずるはすぐに朱鷺の前に移動した。

「兄さんに用があってな……」

「オレに?」

「お春どうしてる?」

「落ち込んでたな」

「そうか……」

 朱鷺は視線を手元に落とした。「訊いてもいいかい?」

「なんだ?」

「あんたら兄妹きょうだい、うまくいってんのか?」

「あいつに、なんか頼まれたか?」

「いや、ちょっと気になっただけだ」

「オレ達、ケンカは絶えねえな」

「血のつながりはないことは知ってる」

「そうか、水と油っていうか……突っかかってくるからな、受け止めてやるしかねえだろう? 兄貴としてはな」

 譲は笑った。

「仲はどうなんだ?」

「心配してくれてんのか、お春を?」

「ま、そうだ」

 朱鷺は深く頷く。

「お春にも、あんたみたいなダチがいたんだな」

 譲はコップを拭く手を止めて真顔になった。「よろしく頼むぜ。ツッパッてるけど、なーに今だけさ。根は優しいヤツなんだ。オレは血など気にしてねえ。だってそうだろう? ガキの頃から兄妹だぜ。オレにとっちゃ、可愛い妹よ。これでもな、アイツの事、心配してんだぜ」

「そうかい。それを聞いて安心したよ。てっきり……」

「オレがいじめてるとでも?」

 譲は笑いながらカウンターに両手をついて身を乗り出した。

「そういうわけじゃねえよ」

「アイツ、失恋したみてえだ。なんか知ってるのか?」

「いや、うん、まあ……」

「どんなヤツだ、お春を振った男って?」

「そうだな、それは……ほとぼりが冷めてからお春に聞いてくれ。ま、いいヤツだけどな」

「お春の片思いか……」

 譲は何度も小さく頷く。「オレな、言ってやったよ。大人への階段だと思えばメッケもんよ、女の勲章だと思えばいい、女っぷりが上がるってもんよ、ってな」

「お春はなんて?」

「お兄ちゃん、ありがとう……って、しおらしいこと言いやがってよ、可愛いヤツさ」

 朱鷺は大きく頷く。

「あんたの親父さん優しい人だってね」

「アイツが言ったのか?」

「ああ」

「アイツが……そんなことを……」

 譲は唇に笑みを湛えながら、優しい眼差しでグラスを拭き始めた。「ガキの頃からよく叱られてな。お春にも本気で怒るんだぜ。そのたんびに、オレかばってやったよ」

 そこまで言うと、譲はグラスを置いて懐かしげに窓の外へ視線を移した。

「親父さんに対して、どうしても素直になれなかったそうだ」

「そうか。でもな親父のヤツ、お春にだけは甘い顔見せやがるんだぜ。このオレが嫉妬するぐれえな。父親って皆、娘には甘えのさ。オレなんて、今でも殴られるんだぜ。20歳すぎの大人だぜ」

「そらあ、災難だ!」

 二人は笑い声を上げる。

「アイツ、分かってたんだ……」

 譲はまたグラスを手に取ると、しみじみと見つめた。そこにお春の顔でも投影しているのだろうと朱鷺は悟った。

「取り越し苦労だったみてえだな。お春は、ただの反抗期ってことか……」

「反抗期か、そりゃいいや。あんた、これからもお春のダチでいてくんな、頼むよ」

「分かってるって」

「ありがとう……」

「さてと、失礼するか」

 朱鷺は丸椅子を回転させてヒョイッと飛び降りた。

「なんか飲んで行けよ、おごるぜ」

「あんがとよ、また今度な。急ぐんでな……」

「そうか、残念だな。あんたとは気が合いそうなのに」

 譲の声には名残を惜しむ響きがあった。朱鷺の耳に心地よく振動した。

「じゃあ」

 店のドアを開けながら、朱鷺は譲に顔を向け手を振って別れを告げる。譲は笑顔でそれに応えてくれた。

 店を出て駐車場に面した県道を右折し、きた道を逆にバイクを走らせた。しばらく行くと、鷲生英雄の一団が対向車線をこちらに向かってきた。朱鷺はブレーキをかける。先頭の鷲生もこちらに気づいて、減速しながら朱鷺の横に停まった。

「また会ったな」

 鷲生はいつものいでたちで、窮屈そうに折り畳んだ長い脚をもてあますようにアスファルトにつけると、サングラスを外した。

「あんた相変わらずだな」

「またやるか?」

「今日は気乗りしねえよ」

 朱鷺は肩を落とした。

「どうした? らしくねえな……」

「お春のことだけど……」

「お春のダチか?」

「これからどうなるんだろう……」

「どういうことだ?」

「雉牟田藤九郎のことさ」

「ヤツがどうかしたか?」

「ムショから出てきたら、またお春につきまとうんじゃねえか……そう思ったら、お春がかわいそうでよ……」

「ムショ? 誰が入るんだ?」

「雉牟田藤九郎さ」

「ハッハッハッ……」

「なにがおかしいんだ?」

「心配か、ヤツのこと?」

「あたりめえだ! お巡りから拳銃奪った悪党だ!」

 朱鷺は声を荒げて鷲生をメット越しに睨んだ。

「いいこと教えてやろうか。ヤツはもうシャバを闊歩してるぜ」

「ナニ! どういうこった!」

「なんでかなあ? そこんとこは、お春に聞いてみな」

 鷲生は、いかにもわざとらしくとぼけた顔で大袈裟に首を傾げた。「出してやったのは、オレだけどな」

「あんたが! なしてそんなことできる?」

「さあ、なんでかなあ……知りてえか?」

「当たりめえだ!」

「そうか、じゃあ……」

 鷲生はフライトジャケットの内ポケットに指を忍ばせると、黒いものを摘まんで朱鷺にかざして見せた。何か文字が書いてある。朱鷺は目を凝らして一文字ずつ読み上げてみる。

「警、察、手、帳……?」

「そういうことだ」

 朱鷺は目を引ん剥いて手帳と鷲生の顔を交互に見比べる。

「あんた、悪徳警官か?」

「悪徳だ? そりゃいい。みんな、オレが悪徳警官だとさ!」

「ごもっとも」

 一行は鷲生を冷やかし、声高に笑った。

「お前ら、覚えとけよ!」

 鷲生も笑いながら皆を一喝した。そして朱鷺に顔を向ける。「なあ、そこんとこも、お春に聞いてみな」

「この人達皆、警官かい?」

「いいや、オレだけだ。これでもな、一課のデカなんだぜ」

「デカ! へぇー」

 朱鷺は感嘆の声を上げた。

「驚いたようだな」

「はあ、たまげた!」

「こいつらが道を踏み外さねえように、オレが睨み利かしてんのさ、ってえのは口実で、皆、マシンが好きなのさ」

 鷲生は馬を愛でるようにナナハンのガソリンタンクを撫でた。

「鷲生さんよ。あんた出世するよ」

「オレがか? それはねえな。デカ辞めるつもりだ。あと数年だけ続けてな」

「デカ辞めてどうすんだ?」

「さあな」

「あんた、世界放浪の旅に出るつもりだろう? 世界中を、そいつで」

 朱鷺は顎をしゃくって鷲生のナナハンを指し示す。

「なんだと! 世界放浪の旅? コイツでか?」

 鷲生はガソリンタンクをポンっと一度叩く。

「そうだ。見聞を広げて帰国するのさ」

「へえ、いいアイデアだ! あんた、いいこと教えてくれたな。そうか……よし、決まりだ。デカ辞めたら、さっそく出発するとしよう。ありがとよ!」

「ちょ、ちょっと待ちな。前々から決めてたことだろう?」

「いいや、そんなこと思いもつかなかったぜ、あんたに言われるまで」

「そうなのか?」

「そうだよ」

 鷲生は旅に出て一年余りのち、とある国で戦渦に巻き込まれ、瀕死の重傷を負うことになる。一時危篤状態に陥った鷲生を日本国民はもとより全世界の人々が祈りを込めてテレビの前に釘づけになった。鷲生は戦火の中たった一人で、空爆で破壊された建物の瓦礫の中から数十人の生命を救い出すことに成功する。そして最後の一人を抱きかかえ安全な場所へ無事避難させた直後、一発の銃弾が鷲生の胸部を撃ち抜いた。倒れ込んだ鷲生を、今度は、たった今救出された数人の手によってスナイパーの魔手から救われた。その一部始終が全世界に配信されたのだ。全世界の人々がこの英雄えいゆうの回復を固唾を呑んで願った。ひと月がすぎた頃、鷲生は奇跡的に意識を取り戻し、回復の一途を辿った。帰国後、慈善活動家となり、平成の大合併の折、市に昇格した鷹鳥市初代市長を努め上げたのだ。

 朱鷺は自分の口が災いの元凶だったと後悔した。が、命は取り留めたことだし、あの事件のお陰で出世できたのだから……と、まあ結果よければ全てよしにしようと決めた。

「あんた、帰国したあと、必ず出世するんだ。銅像が建つんだぞ」

「見込まれたもんだ」

 鷲生は笑って取り合わない。

「そうだよ。あんた、いつも見込まれるんだ。自分の意思とは関係なしさ」

「興味ねえな」

「興味なかろうと、望んでなかろうとも、あんたは望まれるんだ。そんな男よ。大した男なのさ」

「ハハハー! 買い被りなさんな」

 鷲生は高笑いでかわす。

「今に分かるさ」

「そうか、その時は、お前らにもいい思いさせてやるからな」

「おう!」

 皆一斉に声を揃える。

「ま、そういうことにしといてやるさ。お春のことは心配いらねえぜ。オレ達がついてる。なあ、みんな!」

「おう!」

 もう一度声はハモった。

「たまに、コイツでぶっ飛ばせば気も晴れるってもんよ」

 鷲生はサングラスをかけたあと、わざわざずり下げて朱鷺にウインクした。「じゃあな、また会おうや。気をつけて行きな。安全運転だぞ!」

「よく言うよ」

「ハッハッハッー! あばよ!」

 鷲生はエンジンを吹かした。一団は鷲生に従ってスピードを上げて喫茶店『龍』の角を左折して峠へ向かう道を辿って消えた。

「はあーっ! あらあ天性の詐欺師だ。オラ、70年間騙されたわ」

 鷲生達が消えた軌跡を目で辿りながら深く感心した。思わず声を上げて笑っていた。「さてと、帰るとすっか。お春にいつか聞いてみっか」

 ──藤九郎は既にシャバに出てる?

 藤九郎のことも、お春のことも依然と気がかりではあった。が、鷲生の言葉に嘘はないと確信した。

 朱鷺は、お春の幸せを祈りながら街へとアクセルを全開に吹かした。


   *


 朱鷺は街に戻ってきた。

 巣籠もり線を鳥の巣山方面へ向け、みどり公園近くの花屋の角を左折しようと車体を左に傾けた時、突然誰かが飛び出してきた。急ブレーキをかけ、寸でのところで歩行者をかわし、人身事故は免れた。

 歩行者は驚いて尻餅をつき、後ろへ一回転すると、慌ててほふく前進で歩道まで辿り着く。ケツを振り振りその場から一目散に逃亡するかのような無様な行動が、何とも滑稽だった。丁度、カベチョロと瓜二つだ。朱鷺は歩行者を蔑んだ。 

 横断歩道の白線の上に真っ赤なバラの花びらが散乱していた。歩行者はバラの花束を抱えて目先を塞がれ、赤信号を見落としたのだろう。

 朱鷺はバイクを路肩に停めると、文句を言いに男の元へ歩み寄る。男は左の足首を両手で握ってのた打ち回っている。

「バカヤロー! どこに目つけてんだ!」

 開口一番、怒鳴りつけてやった。と、男は顔をこちらに向けた。朱鷺は目を凝らした。その顔をしばし観察する。

「イッテーし!」

「ん! おめえは……誰だ?」

「このババア、なんてことしやがる!」

 紛れもない、コウスケがしかめっ面で目の前にいた。

 ──なんてこった!

 ──せっかくバイク取り上げたっていうのに……

 思わず頭を抱える。

「まったく、おめえはなんて……このトンマ! ウスノロ!」

 我を忘れて捲し立てる。

「その言い種はなんだ! 人をひいておいて……人殺し!」

 ──ハテ?

 ──なーんか間違っているのか? 

 コウスケの今の言葉が引っかかる。朱鷺はコウスケの前にしゃがみ込んでしばし考えてみる。

 あの日、デートをすっぽかされた。待ち合わせ時間をすぎてもなかなか現れない。それで、メジロ石油を覗いてコウスケの同僚に尋ねると、既に職場を出たあとだった。あっちこっち捜し回り、ようやく花屋の前の歩道で座り込んでいる姿を目撃した。慌てて駆け寄ると、悲痛な呻き声を上げながら顔を歪めていた。路肩にコウスケのバイクが停めてあった。婆さんをけようとし、転倒して足と腰を痛めた、と言った。だから、てっきりコウスケがバイクで婆さんをひくところだった、と思い込んでしまったのだ。

 朱鷺は我に返りコウスケを睨みつける。静かに立ち上がると屈み込み、その阿呆面に自らの顔を近づけた。うつろな目を阿呆の視線に重ねる。突然、ニタッと笑う。コウスケは顔を遠ざけ後ろ手に手をつく。愛想笑いで誤魔化そうとするが、頬が引きつっただけだった。朱鷺は拳固を思い切りコウスケの頭めがけ振り下ろそうとして寸でのところで思いとどまった。と、コウスケは頭を抱えながら路上にうずくまった。

「おめえが悪いんだぞ」

 朱鷺は穏やかな口調で阿呆を諭すと、ヤツはキョトンとして目を瞬かせる。

「な、なんで……オ、オレが……悪い?」

「なんだと……」

 朱鷺は大きく深呼吸を繰り返した。「おめえが紛らわしいことぬかすから、こうなるんだ! この大ドジヤロー!」

「な、なんでオレが怒鳴られるんだ……? オレは被害者だぞ! イッテーし……」

「おめえが信号無視したんでねえか! 泣き言ぬかすな!」

「えっ! 赤信号……だった……の? 気づかなかった……」

「おめえが、みーんな悪いんだ!」

「そんな……」

 コウスケはその場に仰向けに寝そべった。「ああ、イッテーしよお……死ぬー!」

「ただの捻挫で死ぬか? どれ、試してやる。こうだ!」

 朱鷺はコウスケの捻挫した足首をつかむと、こねくり回した。「死ねー!」

「ウンギャーッ! やめろー……死ぬー……やめてー!」

「オラ楽しみにしてたんだ! それを奪いやがって!」

「ど、どういうこと……?」

「こういうこった!」

 朱鷺は一層力を込めてこねくり回す。「楽しいなあ、楽しいか? 楽しいと言え、コノヤロー!」

「ウウゥーッ! ま、ま……まいっ……たっ……」

「いんや、まだまだ。死ねー! このハゲ!」

「オ、オレ……ハゲて……ねえし……」

「そのうちくるんだ。間違いねえ、心配はいらん」

「オ、オレにはこねえ……か、隔世遺伝だ。息子にくるんだ……か、かわいそう……だけどよ」

「運命は変えられねえ! 分かったか、コノヤロー!」

 朱鷺はコウスケの足首をこねくり回しながら、首を捻った。自ら放った言葉が気にかかる。

 ──運命? 

 ──変えられねえ?



†††「九太郎参上!」††† 


判定:ステージ2クリア! 


   朱鷺、次第にまともな人間になってゆく……かも?

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