ロランの救済措置
数日後、ようやく落ち着きを取り戻した学校では夏季休暇に向けて試験の返却が進んでいた。1年生であるミリセントの学年は、全員が試験結果をしっかりと受け取った。
もちろん、なかにはその結果に納得にいかない生徒もいる。ミリセントはそのうちの一人だった。
明らかに苛立った様子で、講義室からに入ってきたばかりのロランを呼び止め詰め寄る。
「ロラン先生!!どういうことですか!!」
「な、なにが?」
彼は理解できていないらしく、慌てたように返答する。
ミリセントは腰に手を当て、容赦なく不満をぶつけた。
「なにって、私の試験結果ですよ!なんで落第なんですか!!」
流石に元3年生ということもあり、ほとんど勉強していなくても今までで一番手応えはあった。実技試験は少し失敗してしまったが。
その言葉に、ロランは落ち着きを取り戻し一度ため息をつく。青の双眸が、すっとミリセントを正面から見据える。
「…スコーピオン。」
「はい。」
「筆記試験、100点中何点取った?」
「?20点です。2割はできてますよ?ギリギリ赤点ですけど…。」
「じゃあ、実技試験は?」
「30点ですね。守護の魔法は満点でしたよ?他は違う魔法使ったんで0点でしたけど…。」
「なるほど、じゃあ今学期課題はどれくらい出した?」
「出してないです。」
そこまで応答を繰り返し、ロランは遠い目をした。ミリセントはなぜ彼がそんな表情をするのか、皆目見当もつかなかった。
首を傾げる彼女に、ロランは頭を抱えた。
「…わからない…なぜ君はそんなに堂々としていられるんだ…。」
「50点もとってたら落第はないでしょ!!」
「200点中50点ね!」
一旦席着きなさい、と促され文句を堪え席に着く。横に座るシャルルはミリセントに何を話していたかすぐに聞きに来た。
ミリセントが不満を伝えると、シャルルはロランと同様の反応を示した。
(今までよくて30点だったからな…もしかして50点じゃまだ足りないのかな…。)
遠い昔、全ての科目で再試を受けた記憶に思いを馳せた。
ロランは教室内を見渡し、ゆっくり口を開く。
「えー…残念なことに、合格点に足りなかった生徒が数名と…成績が芳しくない生徒が数名…。」
心当たりがある生徒はすぐに沈黙する。ミリセントは頬杖をつきながらその様子を見ていた。
「筆記試験はともかく、実技試験は合格してもらいたかったからなぁ…。」
一度言葉を切り、何かを思案するように目を閉じる。
実技試験の再試は、通常の試験より難易度が格段に上がる。再試常連のミリセントとしても、それは避けたかった。
再び目を開けた彼は、柔らかい笑みを浮かべていた。
「救済措置欲しい人、はーい。」
そう言ってロランが手を上げると、教室内で控えめに手を上げる生徒がちらほら見られる。同時にざわめきも広がった。
(そういえば、ロラン先生は救済措置とってくれる先生だったんだっけ。あんま救済にならなかったような気もするけど…。)
「ミリセント、受けようよ!」
シャルルに突かれ、ミリセントも遅れて手を上げた。
ちょうど教室を見渡していたイヴァンと目があい、驚愕の視線を向けられる。が、見なかったことにした。
「うんうん、じゃあ不合格者と…加点が欲しい希望者もいれば。前に来て。」
その言葉にちらりとシャルルを見る。どうやらやる気になったようだ。ミリセントと目を見合わせ、2人で教壇へ向かう。
数名の生徒が教壇にあがり、それぞれ様子を伺うように顔を見合わせている。その中にはアリスとルークの姿もあった。視線が合うと、彼女は控えめに手を振り、ルークもミリセントたちに笑いかけた。
ミリセントはこの後彼がだす救済措置の内容、そしてそれに対する生徒の反応を知っていた。
「内容は…『僕に一度でも攻撃を当てたら合格』にしようか。ただし時間は3分間、僕が使えるのは守護の魔法だけ。」
予想通り、教室内に動揺が広まる。半分は興奮する生徒の黄色い声、もう半分は無理だと言う不満の声だ。
ミリセントは嬉々としてシャルルの袖をぶんぶんと振る。当てるだけなら魔法を連発するだけで済むではないか。
シャルルも同様に杖を握る手に力を込め意気込んでいる。
ややあって、全員の準備が整った。ロランを中心に、全員が教壇に立つ。彼は変わらず、笑顔を浮かべたままだ。
流れ弾を危惧し、希望者以外は後方の席へ移動した。不安の色を浮かべるものもいたが、多くは好奇の目で見ていた。
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