末路
次に目が覚め、最初に視界に飛び込んできたのは星が煌めく美しい夜空だった。無数に輝く星は暗い夜空を鮮やかに彩っている。
(…なんか、前もこんなん見なかったっけ。)
それが絵である事に気づき、同時にここが保健室であることに気がついた。
勢いよく跳ね起きると、全身に電流が走った様な痛みを感じ声にならない呻き声を上げる。
体を労わりながらゆっくり元の状態に戻り、首だけ動かしてあたりを見渡す。
誰かいないかと声上げるより先に、ベッドを覆うカーテンの向こうからひょこりとクランドールが顔を出した。
「1年の春に2度も大怪我する生徒なんて、珍しいわよ、スコーピオンさん。体調はどうかしら?」
「あの、あの後どうなりました!?」
「まあまあ、一旦落ち着いて。」
彼女は以前と同じ様に杖を振り、戸棚からティーセットを浮かび上がらせる。
落ち着きを取り戻したミリセントは、ふと違和感を覚え視線を落とす。
そこには静かに寝息をたてるシャルルが、ミリセントのベッドに体重を預け突っ伏していた。
「シャルル!」
「ウェンダーさん、ずっとあなたのそばに居たのよ。」
ティーセットをサイドテーブルに置きながら、クランドールは髪を耳にかけ直す。
申し訳なさと感謝の気持ちで溢れ、ミリセントは優しくシャルルの頭を撫でた。
その拍子に目が覚めたのか、もぞもぞとシャルルが顔を上げた。ずいぶん泣いたのか、両目は真っ赤になっていた。眠たげな目でミリセントを見つめ、一瞬呆けた様子だったがすぐに眠気が飛んだようだ。
「ミリセント!!!」
「わっ!!」
「今度こそ起きないかと思ったよぉぉおお…。」
怒ったように声を上げるが、すぐに涙声になる。ごめんごめんと気丈に振る舞い、シャルルを慰めようとするが彼女はミリセントに抱きついたまま動こうとしなかった。
しばらく膠着状態が続き、ようやくシャルルはミリセントから離れた。
「…体痛くない?」
ハンカチで涙を拭きながらシャルルは尋ねる。
「…うん、大丈夫。」
実際のところ全く大丈夫ではなかったのだが、シャルルを悲しませるわけにはいかない。
ミリセントの真意をわかっているのか、シャルルの顔色は曇ったままだった。
「…私が側にいられたら…ミリセントは傷つかなかったかもしれないのに…。」
その言葉はミリセントに刺さった。全く同じことを、逆の立場で考えていたから。
シャルルはウーズレーに暴行を食らった事を忘れているのだろう。それでも、ミリセントはやるせない気持ちになった。
「…先生たち、来るよね。私一旦帰るから…また明日来るね。」
「うん、ありがとう…待ってる。」
手を振り別れを告げると、シャルルはクランドールに会釈し保健室から出て行った。
泣いている姿を見られたくなかったからなのか、俯き早足だった。
「さあ、すぐに警察や先生たちがくると思うけど…それまで寝てなさい。」
「先生…私いつ治りそうですか?」
優しく笑うクランドールに問いかける。できることなら今すぐにでも部屋に戻り、シャルルを抱きしめてやりたかった。
ミリセントの言葉にクランドールは眉を顰める。
「とにかく、1週間は絶対安静よ。 3発も夜の魔法を食らったんですもの。浄化には時間がかかるのよぉ?」
「は、はい…。」
気圧され相槌を打つと、ミリセントはサイドテーブルに置かれたティーセットに手を伸ばす。前回とは違う芳しい香りが鼻腔をくすぐる。
「混乱しちゃうから、詳しい話は他の先生から聞いてちょうだいね。」
クランドールはいつものように優しく微笑むと、絶対安静と釘を刺した。
うなずく他なかったので戸惑いながら首を縦に振ると満足げに笑う。
嫌な予感がしたが、それはすぐに的中した。クランドールはミリセントを力強く抱きしめる。豊満な胸に押しつぶされそうになり掠れた悲鳴をあげた。彼女の抱きつき癖は昔からだ。
数十分休んだ後に、警察が代わる代わるミリセントの話を聞きに来た。自分が見たものを包み隠さず話、同時にどうなったかも聞いた。
あれから事態は慌ただしく進んだらしい。
夜の魔法を使用し生徒への暴行が認められたウーズレーは、懲戒処分及びステラの称号剥奪となった。余罪を含め、魔法警察が調査を進めていると人伝いに聞いた。
おそらく、その余罪の中にはシャルルを含め数名の生徒の存在があるだろう。
ウーズレーの自白により、暴行を行われた生徒達への取調べは行われなかった。忘却の魔法で忘れた出来事を、無理に思い出させ苦しめる必要はないと判断された様だ。
学園側は対応に追われ、数日間の臨時休校が取られるらしい。事情を深く知らない生徒たちは喜んでいたが、どうにもミリセントはそうなれなかった。
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