【一章完結】出来損ない魔法使いの悪あがき〜死んだら時間が戻っていたので、有り余る魔力と記憶を頼りに今度こそハッピーエンドを目指そうと思います〜

朝辻鯨

歪な日常

プロローグ

 手足の感覚がなくなっていく。視界が徐々に暗くなっていく。


 ミリセント・スコーピオンの平穏な日常は、突如として終わりを迎えた。

意識を失っていたのか、気付けば瓦礫に埋もれ身動きが取れなくなっていた。

今しがた起きた爆発により、建物の一部が倒壊したのだろう。


 仰向けに倒れたまま、少しも体は動かなかった。本能が、自分に迫る死を認識せざるを得なかった。


「ネー…ヴェ…」


 すぐそばに転がる自分の使い魔だったものに声をかける。真っ白な毛玉はピクリとも動かない。撫でてやりたかったが、鉛のように重い腕は少しも言うことを聞かない。


 視界に映るのはかつての級友たち。皆石畳の上に倒れ込んだまま、一様に動かない。

そして少し離れたところにただ1人。悠然と歩く男の姿が見えた。


 エヴァ。最悪として恐れられた魔法使いを、こんな間近で見る時が来るなんて。黒いローブを風に靡かせ、遠くからでもわかるほどの笑みを浮かべている。悪魔という言葉がぴったりだ。


 絶望としか形容できない暗雲が視界を覆い尽くす。残された時間はほんの数十秒だろう。

広がる冬の寒空は星一つなく、黒一色に染め上げられていた。



 ああ神さま、星を統べるアストラ。私の大切なものを、世界を奪ったこの運命を、どうか変えてください___



「諦め…たく…ない…」


 満足に呼吸もできない肺から、絞り出すような声を出した。

 瞬間、視界の端に禍々しい黒い影が映る。

私が死んでいないことに気付きとどめを指しにきたのだろうか。



クソ野郎。


 最期に吐き出そうとしたその言葉は形になることはなく、力無く瞳を閉じるしかできなかった。

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