元カノがアイドル声優デビューしていた件。元カノだと気づいていない声豚の俺は、今なら最古参になれると思い、初握手会で周回を試みる。

碧井栞

一周目 声豚、新人アイドル声優の初握手会に意気込む

 声優……


 それは声豚の希望、癒し。


 アイドル声優……


 それは声も顔も可愛い完璧な存在。


 俺は昔から人の顔よりも声が好きで、何より可愛い声が好きで好きでたまらない。


 女性声優さんは色っぽい声やクールな声、可愛い声、幼い声などを演技で使い分ける。

 俺はアニメも好きだし、もちろんそれもいい。


 ただアイドル声優は別格なのだ。

 普段の話し声も可愛い。

 

 アニメの役の声も絶対可愛い。

 ラジオのトークの声も可愛い。


 日常エピソードも可愛い。

 歌っている時の声も可愛い。


 また、普通のアイドルとは違って、アイドル声優はラジオに力を入れているのが特徴的だ。


『今週も始まりましたーUnited Flag♪  第二回の放送です。今夜も団員の皆さん、一致団結していきましょー♪』


 今俺が聴いているのは、新人アイドル声優の星宮ほしみやなぎさちゃんのインターネットラジオだ。

 新人アイドル声優の登竜門とも呼ばれている番組で、卒業生は大御所になった声優も数多くいる。


 ただ、そうはいってもまだ無名の新人アイドル声優。

 リスナーはそう多くないらしい。


 そこで、俺はふつおたを送ってみていた。


『ふつおたのコーナーでーす♪ 東京都にお住まいのタイチさん、16歳。あ、私と同い年ですね! 初回の放送聴きました! なぎさちゃんの声、本当に好きです。1st Singleも早く聴いてみたいです。お身体に気をつけて頑張ってください。ありがとうございますー! やっぱり声褒められるのが一番嬉しいですね。それでは、メールに書いてくれてた、私の1st Single『United Flag』聴いていただきましょう。どうぞ♪』


 軽快なイントロと共に曲が始まる。

 アイドル声優にありがちな可愛らしい曲ではなく、本格的なロック調の曲だ。これはライブ盛り上がるな。

 

 そんなことより俺のふつおたが読まれた!

 アイドル声優のラジオでふつおたが読まれたのは初めてだ。


 俺は完全に舞い上がっていた。


『聴いていただきました曲は、星宮なぎさで『United Flag』でした。来週からはタイトルコールの後ろで流れますよ! あと、発売日の5月5日には秋葉原で私初めてのイベントとして、リリース記念握手会を開催します! 枚数限定の初回限定版に握手券がついているので、良かったら来て下さいね! ラジオが終わった直後からアニマイトさんのホームページで予約受付開始です♪』


 なぎさちゃんの初イベントってことは、これにいけば最古参ってことだろ?

 なんならもう既に俺はなぎさちゃんに認知されてるんだぜ? 


 行くしかねぇ。


 そういえば、なぎさちゃんの顔をまだ見たことが無かったなと思い、ラジオの特設サイトへアクセスする。

 引きで撮り過ぎててわかりずらいが、うん、可愛い。


 迷いがなくなった俺はラジオ終了後、CDを十枚予約した。



 5月5日、GW最終日。


 俺は自宅の最寄りの目黒駅から三十分弱かけて秋葉原に来ていた。

 暫く歩いてアニマイトに到着する。


「13時からの星宮なぎささんの握手会参加される方はこちらにお並びください」


 初イベントだけに、多くの人が押し寄せるかと思ったが、人の数はかなり少ない。

 俺を含めて五人だ。


 俺は一番後ろに並ぶ。

 握手会の予定時間は一時間だったはずだが、時間いっぱい持つんだろうか。

 

 その後、握手会会場へと移動する。

 会場には小さなテーブルが置いてあり、俺達ファンはその前に並ばされた。


 暫くして、なぎさちゃんと見られる女の子が入ってくる。

 シングルの衣装を着ていてとても可愛らしい。


 大体一人一分程ほどかけて会話と握手をしていく。

 他のファンは握手を終えると周回はしないのか、帰ってしまって、最後に俺だけが残された。


 さて、なぎさちゃんはメールの内容覚えててくれているだろうか。


「なぎさちゃん、こんにちは! この前メール送ったタイチです。シングル聴いたけどめっちゃ良かったよ!」

「………………」

「……えっと、なぎさちゃん?」


 俺が話かけてもなぎさちゃんからは一向に返事がない。

 何か気に障ることなどしただろうか。


「…………よ。」

「…………え?」


「…………ゆなよ。」

「…………は?」

 

 なぎさちゃんの声が小さすぎて、何を言っているかわからない。


星野柚菜ほしのゆなよ! あんた元カノの顔も忘れたの!?」

「…………ええ!?!?」


 化粧と髪のセットで気づかなかったが、よく見ると俺が一年前に付き合っていた元カノだった。


「ごめん、声で気付けなくて……」

「アホ! 声、声って、この声豚が! 死ねばいいのに」


 冷や汗滴る俺の手の中には、あと九周できる握手券が残っていた。


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第一話お読み頂きありがとうございます。

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