『鑑定士の皿』
石燕の筆(影絵草子)
第1話
自らも古物店を営む鑑定士の八木沢はある皿の鑑定をしていた。
しかしその皿の鑑定結果はよく出来た偽物だった。
偽物と伝えるのは簡単だが、相手がやくざの組長となれば話はべつだ。
真面目をモットーにしている八木沢としては嘘をつくことはできない。
どうしたものかと思って頭をひねって知り合いの古物商に話し、本物と取り替えることにした。
「これは本物ですよ」
そう言って鑑定結果を伝えて八木沢は帰ってゆく。
先方は満足したようだが、八木沢先生にお礼の品を送ろうと八木沢の店をたずねた。
すると八木沢はそんな依頼は受けてはいないという。
八木沢の顔を知らなかった組長は、思えば八木沢とは一、二回会う程度だった。組長の皿は本物で偽物と取り替えられたんだろうと偽物の皿を見ながら八木沢は言った。
『捕捉』
つまり八木沢という偽物の鑑定士を名乗る男に組長はいっぱい食わされたというオチである。
鑑定士も、偽物だったわけである。
やはり人も物もよく見極めることが要求されるという話。
『鑑定士の皿』 石燕の筆(影絵草子) @masingan
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