時間との勝負

 領主の娘であるはずのリーザが孤児院に引き取られた事に何か裏があるというルルーの推察を聞きながら移動していた。


 郵便所が見えてきてルルーはギンに対し馬車を停車するよう伝える。


「ギン、馬車を停めて」


 ルルーの言葉を聞いてギンが馬車を停めると、ルルーは馬車より降りて一同に呼びかける。


「じゃあピトリ女王陛下への文を届けてもらうようお願いしてくるから少しだけ待っていて」


 そう言ってルルーは郵便所に入っていく。しばらく待っているとルルーが出てきて、言葉を発する。


「とりあえず、届けてはもらえるわ。ただいつ魔族がもう1人を捕縛する準備ができるか分からないから時間との勝負よ」

「そうだな、まずは孤児院に一刻も早く向かわないとな」


 ギンの言葉を聞き、再びルルーは馬車に乗り込み、ギンは馬車を御し移動を再開する。


 しばらく進むと街の出入り口が見えてきて、街を出ると既にもう1台の馬車があり、その馬車からウィルが声をかける。


「おーーい!こっちだ、こっち!」


 ウィルの呼びかける声にギンが反応をする。


「ウィル!先に街から出ていたんだな」

「まあな、貸し馬車だから御者さんにも俺達の旅に付いてきてもらう事になった」


 ウィルが御者の同行があるとギン達に告げると、御者がギン達にも挨拶をする。


「よろしくお願いします」


 御者の挨拶を聞くとジエイがギン達の元に戻って来て声をかける。


「ただいま戻りました」

「ジエイさん、魔族の情報は何か分かりましたか?」

「それが以前我々がピトリを訪れて以降、魔族どころか魔物も見かけないそうです」

「魔物も見かけないんですか?」


 エイムの疑問を聞いて、ジエイは更に詳しい話をする。


「アイルは港町ゆえ行商人も多いので、その情報に間違いはないかと」


 エイムとジエイのやり取りを聞いてムルカは自分の考えを話す。


「先のリーザ殿の時もそうであったが、もう1人の捕縛も相当綿密な計画を立てて、それまで姿を決して現さないと決めているやも知れぬ」

「私もムルカ殿の考えに賛成です。今度は我らが動いている事も予測しているのでより慎重になっているでしょう」


 ムルカとジエイがやり取りをしているとギンが声をかける。


「俺達が動いた先に魔族も動く可能性はある、さっきのルルーの話のように時間との勝負だ」

「時間との勝負……」

「俺達か魔族、どちらが先にもう1人に行きつくかのな」


 現在は魔物の目撃情報すらないピトリ。しかしそれは魔族が何としてもリーザに続いてもう1りをも捕縛しようとする強い意志の表れだ。


 魔族に先を越されるわけにはいかないギン達は一路かつてリーザが過ごした孤児院を目指す。

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