地位の崩壊

 トッポックス領主の屋敷で政務を行っている代官を捕らえ、更に兵を屋敷から追い払うことに成功したヨナ達に対し捕らえられた代官が言い放つ。


「貴様ら、わしにこのようなことをしてただですむと思うな。今にグラッスの兵が貴様らを殺しにやって来るぞ」


 代官の脅迫じみた言い回しであったが、それを逆手に取り、ウィルが代官に言い返す。


「へえ、それならこっちとしては好都合だ。あんたらのブロッス帝国への侵攻を止められるからな」

「何だと⁉貴様らブロッス帝国に味方するというのか?」


 ブロッス帝国の味方だと言われたことにミニルが反論をする。


「別に私達は帝国の味方じゃないわ。ただ、もう帝国は休戦を望んでいるのに戦争を続けようとするあなた達が間違っていると思ったから止めなくちゃいけないと思っただけよ」

「どうやらお前達はそのヨナという娘の言い分しか聞いておらんようだから話すが、そもそも先に戦争をけしかけたのは帝国なんだぞ!奴らのせいで我が国は被害を被ったのだ。それを勝手な都合で休戦などとぬかしおって……」

「だけど、プレツやスールは休戦に応じたのよ、それをあなた達だけ戦争するのはそれこそ勝手な都合なんじゃないの」

「弱っている敵を叩かねば、またこのグラッスなどすぐに攻められる!これは我らの威信をかけた……」


 代官の言葉が言い切る前にヨナは代官の胸倉を掴み、啖呵をきる。


「いい加減にしなよあんた!あんたらがしようとしている戦いはただ国を疲弊させるだけだ!何でそれが分かんないんだ!」

「お前……は、離せ……自分が何をしているのか分かっているのか?」

「威信をかけた戦い……笑わせないでよ……あんた達は帝国の領主が示した見返りに食いついただけだろ」

「だ、黙れ!大体お前もこの国の出身なら帝国を許しておけるはずはないだろう、それを何故我らに逆らってまで止めるのだ?」


 代官の問いに、ヨナは自分の考えを話す。


「あたしだって、帝国のしたことを全て許しているわけじゃない。死んでしまったけど、皇帝のギガスなんて大嫌いだ!」

「ふっ、ならば……」

「でも、あいつは本当にこの世界の平和を実現する為に戦っていた。それだけは認めざるを得ないよ」


 更にヨナは強い言葉で代官に言い放った。


「それに帝国は今、変わろうとしている。それなのに仕返しなんてバカげてるよ」


 ヨナの言葉に代官はもはや気力が尽き、反論もできなかった。


 そんな代官にジエイは尋ねていた。


「帝国が正しい正しくないは別問題だが、トッポックス領主を追い払ってまで、この領地を接収した理由を教えてもらおうか」

「わしはただ、代官として任せられただけで、そんなことまでは知らん」

「そうか、ならばどこへなりと行くがよい」


 ジエイがただ代官を追い出すことに疑問を感じたウィルがジエイに尋ねる。


「いいのか?このままこいつを見逃して」

「はい、領地も兵もなければこの者は何もできないでしょうし、王宮にも戻れないでしょう」


 失意の中代官は屋敷を出ていく。悪政を行った者の末路だ。そしてその後彼を見た者はいなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る