女王の願い

 ピトリ国の女王に謁見したムルカとルルーは同盟交渉の為にプレツ王の文をピトリ女王に渡し、その文を読み終えた女王が返答をする。


「あなた方のお気持ちは分かりました、ですが反帝国同盟をあなた方と結ぶのはお断りさせて頂きます」


 女王の返答はプレツとの反帝国同盟を結ぶことを断る返答であった。


 しかし、特使として同盟交渉に来ている以上簡単に引き下がるわけにはいかないルルーは、少し踏み込んで尋ねてみる。


「お言葉ではございますが、現在ブロッス帝国は各地に侵攻を繰り返しており、武力併合された国がいくつもございます。貴国にも既にブロッス帝国の部隊が侵入しております」

「存じております」

「え?」

「存じておりますと申しました。そして帝国はわたくし達に敵意がないことも」


 意外な言葉にルルーは戸惑うが、尋ね直す。


「帝国があなた方に敵意はない?それはつまり既に帝国と手を結んだから我らとの盟は結べないという事にございましょうか?」

「厳密には違います。我らは帝国に魔族の情報を提供しているに過ぎません。そして帝国がその魔族を討伐しているのです」

 

 帝国とピトリの意外な関係に驚くが、女王は更に言葉を続ける。


「我が国のウイブ教団が魔族の台頭を知り、近い国であるブロッスに我らが情報を提供し、彼らの判断で魔族討伐の部隊を派遣しているのです」

「彼らより見返りを求められなかったのですか?領地や金品などを?」

「ございません。戦争を起こすという行為までは肯定できませんが、あの方達は自身にできるやり方でこの世界を守ろうとしているとわたくしは思い、まだしばらくは彼らを信じたいと思っております」

「まだ?それにはどういう意味があるのですか?」


 先程までの穏やかな表情から一転し、強い目力で訴える。


「彼らが我欲や支配欲に溺れるようなことがあれば、あなた方や各国と協力し帝国を討ちます」

「支配欲ですか……」

「無論、あなた方が武力併合を快く思わない気持ちも理解できるのであなた方には戦いを止めるよう申し上げることはわたくしにはできません」

「そうですか、女王陛下のお考えは理解しましたので我らから申し上げることもございません」


 再び穏やかな表情でルルーに告げる。


「では、下がってよろしいです」

「はっ!では失礼いたします」


 そう言って、ムルカ、ルルーは玉座の間をあとにする。


 ムルカ、ルルーが玉座の間をあとにすると側近が女王に声をかける。


「陛下、よろしいのですか?」

「人間同士が争っている場合ではないのですが、今は止められません。わたくしにはただ見届けられません。だけど、もしあの方々と帝国も手を取り合えれば……」


 ピトリ女王の願いは帝国もプレツを中心とする国々と手を取り合う事だが、彼らの終わりの見えない戦いを見届ける他ないことを憂うしかなかった。

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