森での足止め

アビィ達は荒野を越えて、森へと入ろうとしていた。この森は船を停泊している波止場に戻るには近く、生息している魔物もある程度事前に討伐していた為、安全性も確保されている。ところがアビィ達にとって思わぬ事態が起きていた。


 前方の馬車が停車していたことに疑問を抱いたアビィが部下に馬車を停めるよう命じた。


「前方の馬車が停まっているな、この馬車も停めよ」

「はっ!」


 部下が馬車を停めるとその時前方から別の部下がアビィへの報告に駆け寄る。


「アビィ様、道が塞がっております」

「何⁉どういうことだ!」

「はっ!我々がこちらに来た際は魔物がおりましたが、道自体は通れました。ですが今は木が倒れており、馬車では乗り越えられませぬ」

「他の道では遠回りになってしまうな」


 他の道を使用すると遠回りになり、追撃されやすくなる恐れがあり、馬車を乗り捨て人間だけで木を越えながら移動するにしてもそれはそれで自分達の足が遅くなり、追い付かれる可能性が高まることは否めない。


「仕方ない、この木をどかすぞ」

「はっ!」

「木そのものを破壊する必要はない。馬車が通れるほどの道を作れば問題はない。他の木に影響が及ばぬよう慎重にこの木を削れ」


 アビィがとった方法は木を魔法で削り、道を作る方法であった。ただし、強大な魔法は他の木にも影響を及ぼし、また自分達で道を塞いでしまう恐れがある為、小さな魔法で少しづつ削る方法であった。


「お前は後方の魔導騎士団に森の外で敵を迎え撃つよう伝えてこい」

「はっ!」


 更にアビィは部下に後方の魔導騎士団に敵の迎撃をするよう伝えるよう命じ、部下は後方へと向かっていく。


 魔導騎士団も森へと入っていくが、突如魔導師団の1人が現れる。


「プラナ卿、アビィ様より言伝です」

「何か?」

「現在、木が倒れており、その排除に時間を取られます。敵の襲来に備え森の外で迎撃態勢を整えよとのことにございます」


 魔術師の発言にとうとう我慢の限界を迎えた騎士の1人が抗議をする。


「いい加減にせよ!我らは貴君らの小間使いではないぞ!敵を迎撃せよと申すならそちらからも戦力を出すのが筋であろう!」

「我らは現在木の排除を……」

「ならば、別の道を使う方法もあったはず。大体我らと貴君らは協力体制のはず、先程のプラナ様の進言を受け入れておれば……」


 怒る騎士に対し、プラナが制止をする。


「もう良い!分かった、我らが敵を迎え撃つ」

「ではそのようにお伝えします」


 そう言って魔術師はアビィの元へと戻っていく。


「プラナ様!おそらく敵が木を倒してこのような事態になったと思われます。奴らはプラナ様の進言を受け入れなかったばかりか、その後始末を我らに押し付けているのですよ」

「……私に力がないからだ、カイス様は私を信頼してお前達の指揮をお任せになったというのに……」

「プラナ様……、ならば奴らの首をあのいけ好かない女魔導士の前に並べて鼻を明かしてやりましょう」

「すまぬ……、気をつかわせたようだな」


 力と立場の弱さに苦しむプラナだが、ギン達を迎え撃つ覚悟を決めた。

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