旅立ちの決意

ギン達がスップにあるミッツ教団の教会に戻ると、同行したウィルがギン達と共に帝国との戦いに加わりたいと志願し、それを聞いたムルカが同意すると、突如ウィルの父であるボガードより、船を貸し出したいという提案があり、ムルカが驚き、尋ね返す。


「ボガード殿、船を貸し出したいとはどういうことですかな?」

「どうもこうもねえよ、俺のせがれをあんたらに預けるわけだ、こちらから船を貸すのはそれ程おかしいことか?」

「しかし、船は貴殿らにとっては必要な物のはず、それを我らが借りてよいものなのか」

「なにもただで貸そうってんじゃねえんだ。今回の報酬に船賃を上乗せって形をとってくれればそれでいい」


 ムルカに船賃の上乗せという形で報酬を受け取りたいという話を持ち掛け、更にボガードはギンにも声をかける。


「傭兵のあんちゃん、実際にこいつと仕事をしてどう思った?」


 ギンはボガードより問われ、その考えをボガードに話す。


「はい、彼の精霊の声を聞く能力、そして彼の操船技術に疑う余地はありません。彼らがいなければ俺達の作戦は成功しなかったかもしれません」


 ボガードに伝えると、体を向き直しムルカにもあることを尋ねる。


「ムルカ殿、プレツ軍から船は出せるんですか?」

「うむ、現状では防衛用の船が手一杯であろうな」

「でしたら、彼らより船を借りましょう。今後は海路の旅も必要になると思いますし、ウィルの能力は俺達の船旅にも役立つと思います」


 ギンの言葉を聞いて、ムルカはしばらく考えボガードに返答をする。


「貴殿がそこまで申すならば……、ボガード殿、貴殿より船をお借りしましょう」

「よっしゃ!頼んだぜ」


 ボガードが話し終えると、ミニルがボガードにあることを告げる。


「ねえ、父さん、ちょっといい?」

「何だ?ミニル」

「私も兄さんと一緒にこの人達について行こうと思うの」

「どうしたんだ、突然⁉」


 ボガードの問いに、ミニルが返答をする。


「さっき、兄さんが言ってたじゃない、私達の仕事を守るためにも帝国に好きにさせてはいけないって、やっぱり私もニリを観光の街に戻すために帝国とは戦わなくちゃいけないと思うの」

「だけど、お前は戦う能力はないだろう」

「でも私には、風の精霊の力が使えて、自分や他の人を守ることはできるわ。それに風の声なら陸でも聞くことができるし、兄さんが海の旅を支えるなら、私は陸の旅を支えるわ」


 ミニルの強い決意にボガードは反論することができず、黙ってしまい、更に言葉を続ける。


「あと兄さんだけじゃ、この人達に失礼があるかもしれないし、私がついて行くのがいいと思うの」

「おい、待てよミニル。俺がどんな失礼をするってんだ⁉」

「だって、兄さん結構口が軽いから、どんなことをこの人達に言うか分からないもん」

「あのな、お前なあ……」


 ウィルも反論の言葉に困り、言葉が続かないのであった。

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