赤子

 ボース王国の侵攻により危機に陥る魔術師の村、その村に住むトールとアンリの夫婦は避難のさなか、赤子を見つけ、その赤子を拾い、山まで目指すがそんな中、避難の最中に村長が口を開く。


「しかし、妙じゃのう」

「妙って何がですか?」

「お前さんたちが見つけた赤ん坊じゃ。なぜあのような場所におったのか」


 村長が疑問に感じていたのは何故避難する道のりに赤子がいたのかという点である。


「わが村には最近出産があったという記録はない。少なくとも村の子ではないはずじゃ」

「とりあえず今はどこの子だろうと見捨てるわけにはいかないでしょう。ボースの奴らがいなくなったらこの子の親を探せばいいだけです」

「ううん、じゃが……」


 村長は妙な胸騒ぎがしていた。トールたちが発見した赤子の存在が今の状況から考えると不自然な感じがしたのである。そんな時アンリが声を出す。


「とりあえず山には着いたわ。戦いが終わるまで山に隠れないと」

「そうだな、しかしこの子をどうするかだな。親を探すにしてもなにか手掛かりがないとな」

「そうね、この子を包んでいる布の中にもこの子や親の手掛かりはなさそうね。分かったのはこの子が女の子ってことだけね」

「そっかあ、あ、村長、魔力感知で探せませんか?」


 トールは村長が魔力感知の魔法を使用できると認識していたので赤子の親をその魔法で探せないか尋ねてみた。


「しかし、ある程度の魔法の素養のある者でないと感知することはできんぞ。まずはこの子の魔力を探ってみる。そこからじゃな」


 そう言って村長は赤子に手をかざし、赤子の魔力を探るが次の瞬間驚愕してしまう。


「な、なんじゃ!これは?」

「村長どうしたんです」

「この子の魔力……バカな、これほどの者は見たことがない」


 村長の言葉に驚いたアンリが声を発する。


「そんな、まだこんなに小さいのにそんなに強い魔力何ですか」

「うむ、かなりの素養じゃ。しかも本人の意思ではないじゃろうがすでに火、水、地、風の精霊と契約している」


 精霊との契約という言葉にトールが強い反応を示す。


「そんな!誰かがこの子の代理契約をしたっていうんですか⁉」


 精霊との代理契約とは、本来魔法を使用する者は自らの意思と力を持って精霊に認められ契約を結び強力な魔法を使用できるようになるのである。ところが力はあっても自ら精霊に意思を示すことが出来ないものは他の魔力を持ったものを媒介とし契約するのである。


「そう考える他ないじゃろう。とりあえずこの子を包んでいる布から魔力を感知してみる」


 そう言って村長は魔力を感知するが、次の瞬間今度は落胆してしまう。


「なんということじゃ、魔力を感じられん」

「えっ、どういうことですか?」

「これほどの魔力を持つ子の親なら何かしらの波長を感じても不思議ではない。それが全くなにも感じないのじゃ」

「それってまさか……」


 一瞬、言葉をためて村長が静かに言葉を発する。


「……そういうことじゃ」


 村長は直接口にしなかったものの、トールたちも赤子の親は既にこの世にいないことを悟った。それも生まれたばかりの子を残してでだ。


 アンリは赤子のことを思うと涙が溢れ、思いのたけをぶちまけた。


「うそよ……うそでしょ!こんな幼い子を残してなんで死ななきゃいけなかったの!この子はこれからどうしていけばいいの!お父さんの顔も、お母さんの顔も知らずに生きていかなきゃいけないなんて!」


 アンリの言葉を聞いてトールがある決意をする。


「アンリ、それなら俺達がこの子の親になろう」

「えっ⁉」

「俺達がこの子を見つけたのもなにかの縁かもしれない。それこそ神の導きってやつかもな」

「トール……分かったわ。私この子のお母さんになる。本当のお母さんが与えられなかった分まで愛を与えるわ」


 トールは次の瞬間村長に向き合って村長に思いを話す。


「村長、いいですよね?」

「お前さん達が決めたのならわしが言うことはない。じゃがこれほどの魔力の者はわしでも計り知れん。あらゆる点で慎重になる必要があることを肝に銘じとけ」

「はい」


 こうしてトール達は赤子を育てることとなった。


 そして現在。エイムの父もといトールから赤子であったエイムを拾った時の話を聞いてギンが言葉を発する。


「そんなことがあったんですね」

「ええ、これが私達とエイムの初めて会った時の話です」


 しばらく無言が続き、ギンが言葉を放つ。


「次はこの話を自分にした理由を教えていただけますか」


 トールはギンに何を語るのか?

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