生立

 エイムの父より突如、エイムは自分たちの実子ではないことを告げられたギンは聞き間違いと感じ、再度尋ねなおす。


「今、なんとおっしゃいました?」

「あの子は私達の子ではないと申しました」

「なんの冗談ですか笑えないですよ」


 ギンの言葉を聞いたエイムの父は目に力を入れギンに更に告げる。


「冗談でこのようなことを申すわけがないでしょう」

「じゃあ、本当に……いや、例えそうだとしても何故自分にそんな大事な話を?」


 今度は一瞬目を伏せてからエイムの父はギンに告げる。


「その理由を話す前にあなたにはこの話をしなければならない。あの子と私達が出会った日のことについて、あれは16年前のことでした……」


 16年前、魔術師の村の近隣で小規模の戦闘が起きていた。それはブロッス帝国の前身国家のボース王国の小隊がコッポのとある町に対して襲撃していた様子であった。魔術師の村でも襲撃がないかと不安になり、近くの山に避難する準備をしていた。


 そんな時、1人の青年が1人の若い女性に声を掛けていた。


「準備はできたか?アンリ!」


 女性の名はアンリというらしく、そのアンリが青年に返事をする。


「できたわ!行きましょうトール」


 青年の名はトールというようだ。トールとアンリ。2人は近年、結婚したばかりの夫婦だ。子はまだいないが、仲睦まじく暮らしていたのである。だがボースの侵攻によりその暮らしが壊されようとしている。


「ちきしょう、なんだってボースはコッポに侵攻してきているんだ!ボースはコッポと交流していたんじゃなかったのか⁉」

「分からないわ。とにかく私達は避難しましょう」

「ちっ、俺が精霊と契約して強い魔法が使えりゃああんな奴ら……」


 トールは血気盛んな若者であるが、この状況では自らの無力さに嘆くしかなかった。そんな時、老人の声がトールの耳に響く。


「そう、生き急ぐなトール。お前さんたち若者にはこの村を支えてもらわねばならんのじゃ」

「村長!」


 トールに話かけた老人は魔術師の村の村長であった。村長は歩きながらトールにさらに話を続ける。


「わしもお前さんと同じ気持ちじゃ。だが精霊というのも気まぐれで自分の魔力と波長の合う者としか契約せんのじゃ」

「そんなことは俺だって分かってます。でも…」

「トール、人にはそれぞれ役目がある。兵士には兵士の、わしらにはわしらのな」


 そう言って歩いていく中アンリが何かを発見する。


「ん?ねえトールあれを見て!」

「ん?何だ?えっ!」


 トールとアンリが発見したのは赤子であった。


「赤ちゃん!?何で赤ちゃんがここにいるの?」

「分からん!とりあえずこの子も連れて行こう」

「そうね!」


 トールが赤子を抱き上げるがすぐに泣かれてしまい、困ってしまう。


「おぎゃぁぁ!」

「ええっ⁉」


 泣き声を聞いたアンリが自分に赤子を抱かせるようにトールに告げる。


「だめよ。そんなに乱暴にしちゃあ私が抱くわ。ああよしよし良い子だから泣かないでねえ」


 アンリの抱き方が上手かったのか赤子は泣き止み笑い出す。


「きゃっきゃ」


 トールたちと赤子の運命は如何に。

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