じっくり短編ショートショート
じっくり
【ショートショート】L字ガードレールの角(かど)に立つ、警備員のおじいちゃん
平日の、少し曇った、お昼時。
水が切れたので、買いにスーパーへ。
……あっ、また、立っていらっしゃる。
一人の警備員が、視界に入った。
スーパーの手前には車の修理センターがあり、いつもそこには、警備員が立って車の出し入れの際に誘導を行っている。
そこに、新しい警備員が配属されたようだ。
しかし、その警備員、車の修理センターの出入り口に立っていない。
修理センターのちょっと先にある、L字型のガードレールの、ちょうど
その表情は、真剣そのもの。
……うん、まずね、そこに立っていても意味ないよね?
ぜったいそこに立っていても、意味はないだろう。修理センターの出入口に立っていなければならないはずだ。
……ほら!いま車出ようとしてるよ!運転してる人、右左めっちゃ確認してるよ行ってあげて!
しかし、そんな状況が目に入っていないのか、警備員はピクリともしない。
それも、そのはず。
この警備員、よく見ると……いや、よく見なくても、明らかにおじいちゃんなのだ。
特に今日は首が落ちてきていて、ガードレールの円柱を杖代わりにして、高齢者の風格を存分に発揮している。
……あぁ!今度は入ろうとしてる車と出ようする車でブッキング起きてるよ!そんなに出入り口が広くないから行ってあげないとマズそうだよ!
しかし警備員のおじいちゃん、白い手袋を落としてしまって、それを拾っている。車のほうは一切見ていない。
さらに、通りがかりの別のおじいちゃんが。
たぶん、「大丈夫ですか?」みたいな感じで、声をかけてくれたようだ。
紙コップにお茶かお水を入れてきてくれたようで、警備員のおじいちゃんに渡している。
……いやなにこれ!?
目の前が、ファンタジー世界のようだった。
ブッキングしている車2台抜けに、紙コップで水を飲む警備員のおじいちゃん。
しかし、ブッキングしてしまった車2台は、出る側がバックしたことで、なんとか事なきをえた。
運転手同士、うなずき合っている。
そして警備員のおじいちゃんは、また真剣な表情で、修理センターの出入り口を、ガードレールの角から真剣な表情で見守っているのだった。
私はスーパーでお水を購入し、警備員のおじいちゃんを横目に、修理センターを通り過ぎて、自分の家へ。
……いや?……あれ?
玄関前、ドアノブに手を伸ばしたとき、気づいた。
まず、基本的にあの車の修理センターに警備員が立っているのは、朝と夜。
また休日、祝日はずっと立っているが、平日の昼間には、見たことがない。
……えっと、つまり、少なくても修理センターの警備員では、ない……?
となると、あのおじいちゃんは、一体、なにを守っていたのだろうか。
あのL字ガードレールには、なにか、あるのだろうか。
「……まあ、いいか」
――カチャッ。
気になったが、かといってあの警備員のおじいちゃんに話しかけるわけにもいかないなぁと思い至った私は、自らの思考の扉を閉め、玄関の扉を開けた。
(終わり)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます