23話 俺はまだ死んでねぇ。


 23話 俺はまだ死んでねぇ。


 死を覚悟した者の表情は、この上なく美しかった。

 シューリの美しさに、センは心を震わせた。

 それは事実だが、

 しかし、だからこそ、


「……俺が見たいのは……そんな、綺麗なだけの笑顔じゃねぇ」


 センは、奥歯をかみしめて、

 ニーの方に視線を戻し、


「諦めねぇ……諦めたくねぇ……」


 声と魂を震わせて、

 奥歯を、強くかみしめる。



「お前を死なせる世界なんかいらねぇ。お前のいない人生に興味はねぇ……」



 『不合理な想い』をかき集めて暴走させて、

 『不完全な言葉』を寄せ集めて奔走させて、

 『不格好なだけのワガママ』を迷走させる。




「――絶対に、死なせねぇええええええ!!」




 覚悟をオーラにガツンと込めて、

 センは、ニーに突撃する。


「ぁああああああああっっ!!」


 全身を沸騰させる。

 とにかく、全身全霊。


「――閃拳っっ!!」


 1億年かけて磨き上げてきた拳を叩き込む。

 すでに、魔力もオーラもカラカラで、

 エグゾギアも使ってはいない。


 だが、その拳は、間違いなくセンの人生史上最強の一手。

 センに出せる全てを出した、魂の一撃。


 ……だったのだけれど、


「おお、今のも、すごい一撃だったね。エグゾギアを使っていないのに、エグゾギアを使っていた時以上の圧力を感じたよ。すごい、すごい。……でも、さすがに、根本的な数値が足りなさすぎるかな。もっと出力は上がらないのかな? ほかに、切り札があるなら、出した方がいいよ、ちょっとぐらいなら待ってあげるから」


(っ……グ……うっせぇ、ぼけぇ……もう、全部、使い切ったわい!)


 そこで、センは、さらに、『自分の奥』へと没頭する。


(も、もう、『できること』は少ねぇ。……あとは、オーラの回転率と爆発率を底上げして……マナコントロールの循環率に無茶をさせるぐらい……それで、届くか?)


 自分の中で生まれた疑問符を、

 センは、自分自身の気概で吹き飛ばす。


(……で、できるかどうかどうでもいい。……とにかく、まずはやれっ!!)


 自分自身に言い聞かすと、

 センは、


「ああああああっ! まだだぁあああああ! 俺はまだ、死んでねぇえええ! 俺は、まだここにいるぅうう!!」


 気合いと根性を炸裂させる。


 多くを勉強して、未来を演算して、『可能性を高める努力』を重ねて、

 『そういう全部』を丁寧に積み重ねた、果ての果て、

 最後の最後の『土壇場』で、最も必要になってくるのは、

 『歯を食いしばって前を向けるかどうか』という一点。


 『暑苦しい根性論』は、ダサすぎて吐き気がするが、

 それが最も大事というのは『真実』なんだから、目をそらすことはできない。

 夏が暑いのはただの事実で、それを否定するのはただの馬鹿。



 ――『1億年かけて磨き上げてきたもの全て』を、

 ゴミみたいに、軽く、はじき返されて、

 それでも、『まだまだ』と叫べるセンの勇気を見て、


 それまで、この『極端すぎる戦場』に『ビビり散らかして何も言えなかったアダム』が、ボソっと、


「……す、すごい……」


 素直にそう思った。

 当人的には、もっと綺麗な言葉で装飾したかったらしいが、

 しかし、それ以外の言葉が浮かばなかったよう。


 センエースという『異常な精神』の持ち主に、

 ドン引きしつつも、惹かれていく。

 『かっこいい』と心の底から思った。

 あれこそ本物のヒーローの姿だと思った。


 けれど、

 そんな、本物のヒーローでも、

 『存在値89億』が相手だと、


「――っっ!!」


 ヘソから下を、横一文字で一刀両断されたセン。

 ニーが召喚した剣は、切れ味がハンパではなく、

 一瞬、自分が切られたことにも気づかなかった。


「あっ……うぅうううっ!!」


 ようやく知覚が追い付いて、

 全身に激痛が走った。

 どうにか、オーラで止血しているが、


「ぐ……ふぁ……」


 ヘソから下が切断されて足を失った状態。

 体を支えることができず、その場に倒れこむ。

 自分が流した血の上にべしゃりと着地。


「ぅぅうう……く、くそ……」


「ほんと、君の根性はすごいね。感服するよ。このごにおよんで、まだ『本物の殺気』を放てるなんて……いや、ほんと、すごいよ」


「まだ……だ……まだ……終わってねぇ」

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