天使で、悪魔な、俺のギャル!
はるみさ
第1話
「くそ……っ! またあいつ勝手に……」
俺はバタンっとイラつきをぶつけるように冷蔵庫を閉めた。
これで何度目かわからない。あいつは、俺がわざわざ遠回りして買ってくる洋菓子店のちょっと良いプリンを勝手に食べる。これが二回目だ。今日こそは見つからないようにと一番上の段の奥に隠しておいたのに。
大きく溜息をついたその時、玄関の方から音がした。
俺をイラつかせる張本人の帰宅だ。今日こそは嫌味の一つでも言ってやろうかと、俺は玄関に向かった。
「
それ以上言葉を紡ぐことはできなかった。
なぜなら、弟の雄大の隣には……神々しいほどのギャルがいた。
小麦色の肌に、緩く巻かれた胸下まである金髪。
綺麗にカールしたまつ毛の下には大きい瞳がキラキラと輝く。
ぽってりと赤みがかった唇はプルプルとしてどこか魅惑的で。
白いシャツの胸元からは柔らかそうな双丘が顔を覗かせ、腰回りまで大きめのカーディガンで覆われてるものの、そのスタイルの良さは隠せていなかった。
(な……なんて完璧な……)
理想的なギャルとの遭遇に言葉を失う俺。
訝しげに俺を見る雄大。そして、彼女は……
「あれ? もしかして……雄大のおにーさん?」
そう言って、不思議そうに俺と雄大を見比べた。
きっと今までと同じように兄弟なのに全然似てないとか馬鹿にされるんだろうと目線を落としかけた瞬間ーー
「雄大と違って優しそうなおにーさんだねっ!
あたし、
彼女は首を傾げて、ニコッと笑った。しっかり俺の目を見て。
(か、かわいい……! それに雄大の彼女でまともに挨拶してくれた子なんて初めて……)
そんな俺の感動に雄大が水を差す。
「莉緒。こんな豚に挨拶なんてしなくていーの! それより、早く俺の部屋行こ?」
雄大は俺の存在など無視をするように彼女の腰をグッと引き寄せた。これからこのギャルとお楽しみタイムなのだろう。本当にいい迷惑だ。
この子は俺好みのギャルではあるし、ちゃんと挨拶もしてくれたが、雄大の彼女になんて興味はない。俺が背中を向けようとしたところで、パシっと彼女が雄大の手を叩き払った。
「人のこと、豚とか言うな! 大体、今日は教科書を返してもらいに来ただけで、部屋になんて入るつもりない。調子乗んな。早く取ってきて」
「んだよ、わざわざ家まで連れて来たのによ……」
雄大はブツブツ言いながら、階段を登っていく。
玄関は俺とギャルの二人だけだ。
このまま彼女を放置してリビングに戻れば良いのに、なんだか動けない。なぜならば、彼女がなんだか楽しそうにこちらをじっと見ているのだ。
(ここは彼氏の兄として、声をかけるべきか? でも、俺が声をかけたところで、鼻で笑われるか、嫌な顔をされるかーー……)
結局、先に言葉を発したのは彼女だった。
「プリン……」
「え?」
「プリン、好き?」
思わず顔を上げて、彼女の顔を見る。
目が合うと、彼女はふんわりと笑った。
「可愛い……天使……」
「えぅ?!」
彼女は、急に顔をボッと赤くした。
あまりにも可愛くて、心の声が漏れてしまったが、そんな反応をされるとは思わなかった。
(なんだよ、その驚き方……
えぅ?! ってなんだよ、可愛すぎるだろ!)
こんなに可愛いギャルが雄大の彼女なんてムカつく。
彼女は顔をパタパタと仰ぎながら、ふぅーと大きく息を吐いた。
「急に可愛いとか言うのやめて。びっくりするじゃん。
……さっき『俺のプリン』って雄大に向かって叫んでいたから、プリンが好きなのかと思って聞いただけ」
「ご、ごめん! 変なこと言って……
さっきは雄大が勝手に俺のプリンを食べちゃったから文句言おうとしてて。あの、ごめんね。えーと……君がいるとは思わなかったから」
「莉緒」
「は?」
先ほども名前は聞いたが、彼女は唇を突き出して拗ねたように自分の名前を呟いた。
(まさか……俺に名前を呼べって言ってる? いや、そんなまさか。彼氏の兄だから気に入られようとしてるのか? それとも、呼ぶように仕向けて、呼んだら『きもい』とか言われるパターン……)
「莉緒だよ。私の名前」
しかし、彼女は期待したように上目遣いで、俺を見つめる。少し潤んだその瞳に身体がソワッとする。
仕方なく俺は、その子の名前を呼んだ。
「莉緒……ちゃん?」
途端にその顔が明るくなり、フフッと声を出して笑う。
「覚えてくれて、嬉しい」
彼女の笑顔の破壊力に呆然としていると、雄大が二階から降りてきた。
手には確かに教科書がある。
「莉緒、おまたせ。
ごめんな、他のに埋もれてて、時間かかった」
「まぁ、許してあげる。おにーさんとお話しできたから」
ニコニコする彼女と対照的に雄大は顔を顰めて俺をチラ見した。
「は? この豚と?」
「だから、豚って言うな。素敵なおにーさんじゃん」
頬を軽く膨らませ、俺を豚と呼んだ雄大に文句をつける。
雄大は彼女の肩に手を回し、扉の方を向かせた。
「こいつのことはまじ気にしなくていいから。ほら、行こ?」
彼女は雄大の手を再び叩き落として、顔をこちらに向けた。
「おにーさん、また今度!」
「あ、はい……」
こうして俺は、才原莉緒と出会ったのだった。
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