第2話 突然の告白

 翌日、竜也が家の中でまったりしていると、妹の早紀が「あれ? 今日、静香さんが東京に行く日でしょ。見送りに行かないの?」と、言ってきた。


「ああ。お前には言わなかったけど、俺たち本当は付き合ってなかったんだ」


「どういう事?」


 竜也は、そこに至った経緯を、事細かく説明した。


「ふーん。お兄ちゃん、静香さんのこと話す時はいつも楽しそうだったから、てっきり本当に付き合ってると思ってたのに、まさか偽装カップルだったとはね」


「俺、そんなに楽しそうにしてたか?」


「うん。サッカー以外で、お兄ちゃんがあんなに楽しそうに話してるのを見るのは久し振りだったから、すごく印象に残ってるの」


「久し振りって……それじゃ、俺はサッカー以外は、まるで取り柄がないみたいじゃないか」


「お兄ちゃんの取り柄といったら、サッカーが上手いことと、女の子にモテることでしょ。それ以外になんかあったっけ?」


「他にも、優しいとか面白いとか色々あるだろ」


「残念ながら、さっき言った二つ以外は平均以下と言わざるを得ないわ。それより、あんなに楽しそうな顔して静香さんのこと話してたのは、わたしにバレないように演技してたの?」


「いや、俺はそんなことはしていない。まったく無意識にやったことだ」


「自然と、そういう笑顔になれたのは、静香さんのことが本当に好きだったからじゃないの?」


「…………」


「どうやら図星のようね。その気持ち、まだ静香さんに伝えてないんでしょ? このまま何も言わないで別れてもいいの?」


「……よくない」


「じゃあ、その気持ちを伝えた方がいいよ。今なら、まだ間に合うんじゃない?」


「ああ」


 竜也はすぐさま家を出ると、自転車に乗って駅まで全速力で向かった。

 昨日、電車の時間を聞かなかったことを後悔しながら、懸命にペダルを踏んでいると、ようやく駅が見えてきた。

 竜也は自転車をその辺に投げ捨て、新幹線のホームに向かって駆け出した。


──漫画とかドラマなら、発車する少し前に到着するパターンだけど、そうはうまくいかないだろうな。


 そんなことを考えながら、ようやくホームに到着すると、東京行きの新幹線がちょうど発車したところだった。


──まあ、そんなところだろうな。もっとも、この新幹線に静香が乗ってるとは限らないけど。


 新幹線が過ぎ去った後、しばらくその場に立ち尽くしていると、不意に背後から声を掛けられた。


「どうして竜也がここにいるの?」


 聞き慣れた声に、心を躍らせながら振り向くと、そこには不思議そうな顔をした静香がいた。


「いや、静香に伝えたいことがあって来たんだけど、よく考えたら新幹線の時間を聞いてなかったんだよな。はははっ!」


「そんなことだろうと思ったわ。でも、会えてよかった。私も竜也に伝えたいことがあったから」


「えっ、なんだ、伝えたいことって?」


「竜也が先に言ってよ」


「わかったよ。さっき妹に言われて気が付いたんだけど、俺、どうやら静香のことが本気で好きみたいなんだ」


「ということは、それまでは私のことを好きじゃなかったの? 私は、もう大分前から、竜也のことが好きだったのに」


「えっ! ……ごめん。全然気が付かなかった」


「いいのよ。それだけ、私の演技が上手だったってことだから。でも、好きなのに、その気持ちをずっと隠していなければいけなかったのは、本当に苦しかったわ」


「じゃあ、俺がもう少し早く自分の気持ちに気付いてたら、俺たちは演技なんかしなくても良かったんだな」


「そうね。でも、演技の勉強ができたから、私にとっては、この半年間は無駄じゃなかったわ」 


「俺も、最後に自分の気持ちに気付いて良かったよ。やっぱり、偽装カップルのまま別れるのは、寂しいからな」


 竜也がそう言った瞬間、静香の瞳から一筋の涙がこぼれ落ちた。


「ん? どうした、なんで泣いてるんだ?」


「別に泣いてなんかいないよ。映画でこれと似た場面があるから、その練習をしてるだけ」


 本当はそんな場面などないのだが、静香は恥ずかしさから、咄嗟に嘘をついた。


「へえー。でも今の涙は、とても演技とは思えないほど自然だったぞ。もしかして、静香って大女優になる素質があるのかもな」


 能天気な竜也にホッとしながら、静香は「私、十年後には日本を代表する女優になってみせるわ」と言い放った。


「俺も十年後には日本を代表するサッカー選手になって、世界をまたにかけて活躍してみせるよ。その時にまた再会しようぜ」


「うん。じゃあ、約束ね」


 二人は十年後の再会を約束し、指切りをして別れた。






 

 









 

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