第13話 脅し
俺の嫌な予想は的中した。
バーベキューのあと、俺たちはそれぞれの家に戻った。
先生も片付けを手伝うと言ってくれたけど、明日は仕事もあるから大丈夫と言って断った。
俺より多忙なはずの先生には週の始めから疲れを残してほしくなかったからだ。
一人でバーベキューセットを抱えてゆっくりと階段を上がっていくと、俺の部屋の前に人の気配がした。
ハイカットのスニーカーを履いた足が見えてくる。
俺は、最上段に座って笑う和哉を睨みつけた。
「おかえり」
和哉は全く悪びれもせず話しかけてくる。
「二度と来るな。
お前と話すことなんて何もない」
俺が和哉を通りすぎようとした瞬間、和哉は俺のよく知る冷徹な声で囁いた。
「あんたの母親どうにかしてよ。
義兄さんが出ていっちゃったから、やたら
俺に寄ってきてウザくて参ってんだよ」
「俺が帰ったって、どうにもならない………」
忘れらない。
和哉を好きだと言ったときの俺を軽蔑したあの母さんの冷たい目。
「義兄さんが子供でも作って家に戻ればご機嫌で気も紛れるって」
「お前………!」
「ずるいよ。
義兄さんの母親なのに逃げるなんて 」
「逃げた訳じゃない!」
俺は向き合おうとした。
拒絶したのは家族の方だ。
「嫌ならお前だって家を出ればいい」
和哉はうんざりした顔で言った。
「俺、春から大学だぜ?
学費とか自分で稼げって?
勘弁してよ」
知ったことか。
こんな奴と話していても時間の無駄だ。
俺は和哉の横をすり抜けて、鍵を開けようとした。
すると和哉はひとり言のように呟いた。
「そうそう。
さっき義母さんに電話したら、今度こっち に来るってさ」
思わず鍵を持つ手が止まった。
「何で」
「美人歯科医と仲良くやってたって言ったら
もう上機嫌でさ。
未来の嫁に会ってみたいって」
背筋がすっと凍りつく。
笑って話す和哉の事がおぞましくて身の毛がよだつ。
「義兄さんが会わないなら、あの人に相談しようかな」
勘違いした母さんが先生を見たら、一体何を口走るだろう。
どれくらいまた先生は傷つくんだろう?
「駄目だ。
会わせない 」
絶対に俺のせいで悲しませたくない。
和哉はにっこり笑った。
「じゃあ、どうする?」
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