第12話 初デート
近くの緑地にあるデイキャンプ場は、桜も咲いていない冬の終わりだと人もまばらだ。
俺たちは、数少ないグループのどことも遠く離れた場所にバーベキューコンロとテーブルセットを組み立てて、静かに火を囲んでいた。
「タケルくん!
焦げ始めてますよ!」
「え?
あ、うわあ!」
俺は急いで網の上から黒くなったカボチャを箸で取りあげた。
片面だけ見事に真っ黒だ。
俺は箸で焦げた部分だけはがして、スキレットの中でトロトロに溶けたチーズに浸した。
口に放り込むとあまりに熱くて、ハフハフと息を吐き出しながら一生懸命咀嚼する。
すると、次第にカボチャの甘味とチーズのしょっぱさが口の中に広がっていく。
「う~ん、旨い」
「ほんほに」
先生はフォンデュしたブロッコリーをモゴモゴと美味しそうに頬張っている。
そして食べ終わらないうちに、これも焼いていいですか、とマシュマロをいそいそと取り出した。
初めてのバーベキューにはしゃぐ先生が可愛すぎて、俺は思わずくすっと笑ってしまった。
俺が笑ったことに気づいて、先生も嬉しそうに笑った。
「やっと笑ってくれて良かったです。
ずっと塞ぎこんでいたから」
「…ごめん、上の空で」
先生が渡してくれたマシュマロを串に刺して炎にかざした。
「勘違いは、解決しそうですか」
「そもそも解決するようなものでしたがないんだよ」
マシュマロは少しずつ茶色に焦げ付きながら膨らんでいく。
「さっき少し話しただろ。和哉は俺のことなんか何とも思っちゃいない。
ただの暇潰しだったんだよ」
先生は悲しそうな顔をして何も言おうとしない。
「熱いうちに食べよう」
フーフーとマシュマロに息を吹きかけてかじりつく。
「わ、外はカリカリで中は溶けて柔らかい!
マシュマロを焼くのって楽しいですね」
先生はよほどマシュマロが気に入ったようで、早速次を焼き始めている。
「チーズにマシュマロ。
溶けるものってどれも旨いよな」
「確かに。
これも溶けますね」
いたずらっ子のような顔で先生が目の前に大袋を取り出した。
「出た、ダークチョコレート」
「焼いたら美味しいですかね」
「いや~、どうかな、ってかホントに溶けるものばっかだな」
「どうしてでしょうね。
っあ」
先生が焼きはじめたチョコレートがトングから滑り落ちた。
チョコレートは赤い炎に包まれながら溶けていき、真っ黒な炭へと変わっていった。
和哉も先生を焼き焦がして俺から奪い去ろうと思っているんだろうか。
「先生。
もしかするとまた和哉が先生の所に来るかもしれない。
けど、和哉が何を言ったとしても俺の言葉だけを信じてほしいんだ」
「勿論です」
先生は即答だった。
真っ直ぐな眼差しで俺を見ている。
俺はこの、先生の澄んだ瞳を二度と曇らせたくない。
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