第10話 弟

先生とコイツを鉢合わせさせたくない。


俺はどうすれば先生を守れるか頭の中で考えを思い巡らせた。


「へぇ、美人だね。義兄さんの彼氏?」

「あ」

「歯医者だよ」

先生の声を遮って俺はきつい口調で言い捨てた。

背後で先生が固まった気配を感じた。

けど先生が和哉に絡まれないように、話に少しでも早くキリをつけたかった。


俺はただ、先生が誤解して傷ついていないことを願っていた。


「ああ、先生か。

タケルの弟の和哉です」

「歯科医の長谷川です」


先生は俺の様子から何かを感じとってくれたようで、普段の落ち着いた歯医者の顔で返答した。

皮肉なことだけど、先生が今までの経験から人付き合いに用心深いことに助けられた。


和哉はふっとため息をつくと、肩をすくめて笑った。

「義兄さん。

感動の再会なのに義兄さんがピリピリしてるから、歯医者さんにまで警戒されてるじゃん」

「用件は何だ」

俺が家を出てから何年もたつのに、今さらなんだって言うんだ。

「あまりに俺を避けるから、何か勘違いしてるのかと思ってさ」

「勘違い?」


「俺は義兄さんを嫌いなわけじゃないよ。

家に帰っておいでよ。

皆待ってるから」

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