27 私のこと守るって言ったのに、おにいちゃんの嘘つき―、おにいちゃんが、死んじゃった。

 「お兄ちゃん。」


 「おにいちゃあああああんんんんんん。」


 「どうしたんだああ。」


 「何でもない。呼んでみただけ。」


 「ふふふふふうふふふっふふうふうふふふふふふふふふふふうふふふふふうふふふふふふf・。」


 彼女も、もう成人である、


 もうじき、家から居なくなる。


 綺麗な大人の女性である。


 しかし、其れは妹に他ならなかった。


 「最後に、何か、みんなでしようよ。お兄ちゃん。」


 「何か、打ち上げというのか、何か話と言うのか、がしたいよ、お兄ちゃん。」


 「話ねえ。」


 「話だよ。」


 「頑張って来いよ。」


 「それだけ?。」


 「何かあったら、報告するんだぞ。出来る限りの力にはなろうじゃないか。」


 「じゃあ、がんばるんだぞお兄ちゃん。この私に恥じないような、お兄ちゃんに成るんだぞ。」


 「ああ。頑張るよ。僕はお兄ちゃんでいられるよう努力するよ。」


 頑張らなくてはお兄ちゃんではいられない。


 お兄ちゃんは、弟、妹の助けにならないといけない、その名前にはじない、兄でなくてはならない、面倒を見なければならない。


 ちゃんとしないといけないのはお兄ちゃんだ。


 そうだ。


 その通りだ。お兄ちゃん失格には成りたくない。


 お兄ちゃんであろう。


 例え其れが、全くの別の憎しみに捉われて、飲み込まれてしまっても、僕は・・・。


 そう言っていると、お兄ちゃんは死んだ。


 お兄ちゃんは疲れて死んだ。


 もう疲れて、過労で死んだのだ。


 私のこと守るって言ったのに嘘つき。


 お兄ちゃんの嘘つき。


 お兄ちゃん何て大っ嫌い。


 大大大大大大大大大大大大大っ嫌い。


 お兄ちゃんの馬鹿。


 分からずや。


 「どうして何も言わないの?。何か言い返してよ。ねえ。お兄ちゃん。」


 逃げない。僕は、もうこうなる事は分かっていた。


 逃げない。


 逃げない。


 逃げない。


 逃げない。


 「ごめんよ。」


 「バカ。」


 此れしか言えない。


 此れ以外に、当時の僕に何が言えたのだろうか、力の無かった当時の僕に何が・・・。


 有名になって、金持ちにならないと、僕は、誰にも、何も言えない。


 この状態が続きませんように。上手くいきますようにと願った。


 もう、抜け出したかった。


 惨めな状態から。この負けの負の連鎖から。


 僕は、如何にか、この状態から抜け出さないといけない。


 其れは自分でもわかる事だ。


この状態、つまり良くない状態、御金のは入っていない状態。


 失業状態。


 苦しい状態。


 親を頼らざる終えない状態。


 此れで、お兄ちゃん。


 だ何て、口が裂けても言えない。


 幾らかの金を自分で作れるようになって、其れで兄妹に何か、やってあげる、何かお兄ちゃんらしい事をしてやれて、初めてお兄ちゃんなんだ。


 僕は、いまお兄ちゃんだけれど、お兄ちゃんに成れていない、お兄ちゃんが出来ていない。お兄ちゃんじゃないのだ。


 こんな、道を踏み外した人間は、お兄ちゃんに戻るのに、きっと、凄く時間が掛かる。成功するまでずっと、僕は、闇の中だ。御先が真っ暗だ。


 売れないと終わりだ、僕に未来はない。


 売れないと死亡だ。


 悔しいが、其れが現実だ。


 此れが、社会だ。


 其れが無理なのならば、諦めて働け。


 僕は、諦めない。


 残念だが。


 僕は、苦しみを選ぶ。


 険しい道を進む。


 死を選ぶ。


 どうしてか、分からない。


 進むんだ。そうしないと、生まれてきた意味がない。


 僕は自分勝手だ。


 最低な人間だ。


 勝たないとそう見えて当然だ。


 僕は勝ちたい。


 負けはもう懲り懲りだ。


 勝ちたい。上手くいきたい。


 僕はこんな風に終わりたくない。


 間違った道を進んでいるのは分かっている、他にも、もっと速くて、正しくて、良い方法はあった。


 けれど、僕は、ひねくれものだから、他人が頼れなかった、何かを始める御金が無かった、借りるか、貰わなければ無かった、だからこうするしかなかった、御金のかからない事で、こんな事でしか、活路を見出せなかった。


 二十歳の反撃。


 二年越しの狼煙。


 其れも、上手くいくかもわからない賭け事。


 収入に成ればと願いを込めている。


 一の一手に成ればと、僕は、願っている。


 此処から始まるんだ。僕の物語は。


 親不孝と言われても、仕方がない。


 親孝行も出来ずに、終わってしまうのかも知れない。


 もう、其れくらいまで、追い込まれている。


 そんな状態が続いている。


 大学受験前のあの、事件以来ずっとこの調子だ。


 問題となるその事件は、彼の今後の人生を決して平坦では無いものにしてしまった。


 彼は多くを間違って、間違った儘進んで終った。


 もう言うまでもない、あの事件だ。


 今でも思う。そして後悔している。


 あの時、一歩踏み出していれば違ったのだろう。


 如何して、僕は、悔しがったのだろう。


 如何して僕は、負けたのだろう、どうして僕は、あの後一度も、プールへ行かなかったのだろう。


 如何して、離れてしまったのだろう。


 如何して受験だったんだろう。


 如何して、勉強を優先したのだろう。


 如何して、其れなのに、僕は勉強に身が入らなくなったのだろう。


 如何して僕は、現実逃避を始めたのだろう。


 美大にいく何て言ったんだろう。


 そんな気はさらさらなかったのに、どうして僕は、泳ぎたいと言えなかったのだろう。


 バカだ。


 ばかだ、馬鹿なんだ。


 愚かだ。愚かしくて笑えない。


 遺体。


 失敗。


 何を、目指していたんだろう。


 如何して、僕は、崩壊したのだろう。


 大きな間違いで、この様な道を進んでしまったのだろう。


 親に対する反抗か、其れもあるだろう、将来に対する不安か、其れもあるだろう、大学受験失敗への恐怖か、大学卒業後の進路の不安か、一体何が、僕を考させたのだろう、僕は不安だ。親が呑気で羨ましい。


 如何してそんなに能天気でいられるのか。


 親は能天気だ。


 学費の事だって、能天気だ。


 何も言わないし、叱らない。


 遊び惚けている、僕の親は能天気だ、きっと、どうにかなりと思っているんだ、能天気な親だ。


 厭になる。


 この親は、馬鹿だ。僕は知っている。


 バカな親だと知っている。


 如何にか、成ってくれないかと願う様に馬鹿で、救いようのない親だ。


 親ばかだ。


 そんな親を頼らないと大学にいけないのが厭だったのだろう。


 如何考えても、その親を頼る以外、大学にいけないのが癪に障ったのだろう。もう、親から逃げたかった。


 だから、もう町からも逃げたかった。


 大学は、都会の大学に行こうと決めていた。


 海外留学をしようと思っていた。


 そうして、もう、違う人間になるんだと思っていた。


 其れがどうしてこんな事になったんだ。


 家族を殺したくてしようが無い。


 家族が憎くて仕方がない。


 御金が無くて苦しい。


 家族にお金をお借りたくない。


 奨学金を使いたくない。


 親にお金を借りたくない、金を出させたくない。


 あの親を頼りたくない。


 あの能天気な親に、私は、恩も借りたくないのだ。


 決して安定した給与じゃあない。


 祖父や祖母が御金を貯めているから、如何にかなっているんだ。


 親の二人はもう、全然ダメな、社会的に駄目な仕事だ。


 詰んでいるんだこの家は、もう分かってるんだ、この家が詰んでいることくらい。


 長男の僕がしっかりしないといけないんンだ。


 もう何もないんだ。


 僕が成功して稼がないともう終わりだ。


 この家も、僕の人生も。


 この家は能天気なものだ。


 誰も、心配しないのか、この先の未来を。


 怖くて、僕は夜も眠れない。

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