第35話 姫子、秘密を打ち明かす
「そうですか、役員会…。
光さん、話して下さってどうもありがとうございました。
ところで光さん、桜井コーポレーションでは、役員会で議案が承認されるには、どのような条件が必要になるのでしょうか?」
「役員会では、役員の過半数の同意が得られれば承認されます。
ただ特例として、会長である父が強く推薦すれば、その議案が承認される事があります。」
「それは、会長が不在の場合、社長である剛さんでも同様の扱いになるのでしょうか?」
「どうなのでしょう?
でもそれは、認められないかもしれませんね。
以前自分が勤めていた時の事しか知りませんので、明言は出来ません。
ですがその特例は、会社を興し大きくした父だからこそ認められていた権利だったからです。」
「よく分かりました。
教えて下さってどうもありがとうございました。
では今回の提携について、剛社長一人が否認しようと画策しても、議案は否認されないのではないですか?」
「確かに…。」
「同様の事は、お兄様が役員会のメンバーに選出された時にも言えたと思います。
お父様に結婚を認めてもらえなかった事、そして口添えを約束していたのに、実際は父と一緒に自分を追い詰めるような言動をした剛さん。
この二つは、間違いなく事実です。
ただその後の出来事については、実際にお二人とお話をして、確認をしてみた事はあるのでしょうか?」
姫子が穏やかな口調でたずねていた。
「…いいえ。
私は家を飛び出してから今日まで、桜井家とはずっと縁を切っていましたから…。」
光さんが少し落ち込んだ様子で話していた。
「それでは、今度お話をされてみてはどうでしょうか?
人間とは不思議なもので、ずっと話をしないでいると、その方については、最後の時の印象が強くなってしまうものなんです。
長い間途切れてしまっていた関係が、もしかしたら誤解を生じさせてしまっているのかもしれませんよね。
今回の提携が良いきっかけではありませんか。
お互いにもっと歩み寄ってみてはどうでしょうか?」
「誤解!?
長い間の絶縁関係を誤解と言うのですか?」
光さんは動揺しながら答えた。
「例えば、清子さんが光さんに連絡してきたのは、何故だと思いますか?」
姫子が突然光さんにたずねた。
「えっ、えっ、純情さん!?
それは清子さんの内緒の話ですよ。」
黒川が慌てて答えた。
「内緒の話?
私の事を心配してくれた清子さんに内緒の話があるのですか?」
光さんがたずねた。
「はい。
光さんもどうかお父様には、内緒にして下さいね。
お母様が、直接連絡が取れなかったので、清子さんにお願いしたのですよ。」
姫子はさらりと答えた。
「あ~っ。」
黒川が顔に手を当てて困っていた。
「ふふふ、お母様は光さんと連絡を取りたい、様子を知りたいとずっと思っている事が分かりましたよね。」
姫子が嬉しそうに言った。
「そんな事、言われないと分かる訳無いじゃないですか。
私は、ずっと桜井家の全員から切り離されたと思っていました。」
光さんが答えた。
「そういう事なんですよ、光さん。
だから対話をするのはとても大切なんです。
お互い直接話をしないと、あらぬ方向に誤解が生じる事もあるんです。」
姫子が言った。
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