第34話 悪い予感

「何か気になっている事があるようですね。


 私達にも何か力になれる事があるかもしれません。

 もしよかったら話して下さいませんか?」

姫子が穏やかな表情で優しく話し掛けていた。


「以前結果的には、兄の望むように物事が進んだ事があったのです。


 そして今度は、父が倒れました…

 ですから、私がもしやと思ってしまっただけで、

 それは私の思い過ごしや勘違いなのかもしれません…。」


光さんは、言うべきかどうか迷っている様子だった。



「光さんが言った『以前』とは、光さんのご結婚の時のお話でしょうか?」

言い淀んでいる光さんに姫子が言った。



「えっ!」

光さんが驚くように姫子を見ていた。


「黒川刑事が気にしていましたよね。

 『なぜ光さんは、自分の味方をしてくれるであろう母親が留守のタイミングに、結婚の話を父親にしたのだろうか』と。」

姫子が黒川の方を見て話し掛けた。



「ええ、そうです。


 清子さんから話を聞いた時に、そう思いました。」

黒川が姫子の問いに答えた。




「そうですか。


 お二人は、私達の結婚の話をご存じだったのですか。



 結婚の話は、当時私は、まず兄に相談をしていました。

 そして、兄が口添えをしてくれると約束してくれたので、思い切って父にも話しをしました。


 ですが実際には、兄は父の話に合わせていて、私に見方はいませんでした。



 そして父は、私達が結婚して妻の苗字に変わる事を、認めてはくれませんでした。




 でもそれは、父なりの理由があったという事を、私は後から知りました。



 当時父は、私の事を役員会のメンバーに抜擢しようと奔走していたそうなんです。


 私を推薦しようとしていた矢先に、苗字が変わるという状況が、やはり父のような年代の人間にとっては耐えられなかったそうです。



 当然家を飛び出し、会社を辞めた自分が役員になることは無く、兄はそのタイミングで役員会のメンバーになりました。


 でも実は、そのメンバーには当初兄は含まれていなかったと…。


 私が会社を辞めてからも、そんな話をわざわざ教えてくれた人がいました…。




 でもこんな話、もうずっと忘れていました。


 新しい生活の中で、毎日があっという間に過ぎていて、考えるような時間も無かったからです。




 ですが、ホームの提携の話があった後に、今度は父が倒れたと聞きました。


 そして、それが母の旅行中のタイミングだったと。  



 母が長期旅行に出るのは、いつも役員会議の前で父が多忙になり、ほとんど毎日深夜の帰宅になる時期なのです。


 そして、恐らく今回の役員会議では、私のホームの事が議題の一つとして取り上げられる予定だったと思うのです。



 そしてこの議題は、兄が望まない内容だったのではないかと…。


 そんな疑念を私は抱いてしまったんです。」


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