第8話 病院へ向かう道すがら

 剛社長は、『自分はもう会社に戻るから』と黒川を桜井家から出るように促した。


 黒川は、清子さんが病院に行くのに合わせて、自分も一緒に病院に伺いたいと考えていたのだが、仕方なく桜井家から一旦出なければならなかった。




 黒川は、そのまま桜井家の近くで、少し身を潜めるようにして様子を伺っていた。



 しばらくすると、剛社長を乗せた車が桜井家から出発して行った。


 その後、また少し時間が経ってから清子さんが桜井家から出て来た。




 黒川が清子さんの方に近づいて行くと、彼女は軽く会釈をして歩いて行こうとした。



「すみません、清子さん。


 会長の病院までご一緒しても宜しいでしょうか?」

 黒川は、清子さんを呼び止めるように言った。



「あっ、はい。」

 清子さんが緊張したように答えた。



「ははは…、そんなに怖がらないで下さい。確かに顔がこんなですがね…。」

 黒川は優しい口調で話し掛けていた。



「いいえ、そんな…。刑事さんが怖いと思っている訳では…、すみません。


 先程、会長が起きて来なかった朝についての話を、剛さんが既にしたと聞いていましたのに、結局私まで話してしまって、余計なお時間を剛さんに取らせてしまいましたものですから…。」

 清子さんが謝る為に少し頭を下げてから言った。



「すみませんでした。もしかして剛社長から勝手に話をしたと怒られてしまいましたか?」

 黒川が謝りながら聞いた。


 清子さんは、困り顔で頷いた。


「自分のせいで、すみませんでした。」

 黒川が慌てて頭を下げながら謝った。


「そんな、大丈夫ですよ。どうか頭を上げて下さい。


 剛さんは、昔からすぐ怒りやすい所もある方なんです。」

 清子さんが言った。




 「昔から…。


  清子さんは、いつ頃から桜井家にいらっしゃるのですか?」


 「そうですね、もう三十年近くなります。」


 「そうだったんですか。それじゃあもう、桜井家には、なくてはならない存在ですね。」



 「とんでもないです。私は単なるお手伝いですから。


  そう言う存在は、やはり会長です。」




 「そうですか。


  それでは今回の会長の事は、とても心配ですね。」




 「…はい。」





 「…そう言えば、先程お話を伺っていた時に、何か大事件の話を言いかけていませんでしたか?」

 黒川は、剛社長が少し慌てて中断させていた話題の事を思い出しながら聞いていた。





 「…ええ。


  それは、以前奥様のご旅行中に次男のひかるさんが、家を出て行くことになってしまった事を思い出してしまったんです。」


 「それは、確かに大事件ですね。」

  黒川が驚きながら聞いた。




  清子さんが悲しそうな顔をしながら話してくれた。


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