第7話 黒川と青野 1

 「黒川さん、何なんですか一体。


  剛社長ってそんな感じの人だったんですか。


  なんだかあまり人の上に立つ人物としての風格を感じられないですねぇ。」

  お酒が入って、青野がいつもよりも少し口調が悪くなっていた。



 「そうかもしれないな。


  ただ気を付けるんだぞ。

  人物像と言うのは、多方面に聞くことによって、より立体的になるものなんだ。


  本人の話を聞いただけで、もしもちょっと思う所があったとしても、案外周辺の人物から聞くと意外な一面が見つかってきたりするものなんだ。


 例えば口下手な奴とか、口が悪くても、実はそれは表向きだけで、単に照れ隠しにそう話す損な性格なだけだったとか、色々な可能性がある事を忘れないようにしないと、人物像が間違った方向に行ってしまう事もある。」

黒川がしみじみと話した。


「はい、黒川さん。」

 青野が素直に答えた。



「ああ。偏った一つの情報だけでは、真の人物像にたどり着く事はまず出来ない。」



「そうでしたね。

 それじゃあ、黒川さんは更に聞き込みを続けたんですか?」



「もちろんだ。


 社長の事を聞く事は伏せさせてもらったが、会長の事をもう少し詳しく知っておきたいからと、病院や会社の人からも話を聞けるようしてもらえないかと、社長に半ば強引に頼み込んだんだ。」


「さすが粘りの黒川ですね。」

 青野が感心していた。


「いやいや。こんな事は、まだ捜査の基本中の基本だろ。」

 黒川が素っ気なく答えた。



「まぁ最後には、『西塔さいとう先生には、警察が話を聞きたい事があるらしい』と連絡しておくとだけ社長は言ってくれたよ。


 ただし会社に来る事は、忙しい時期だし事件でも無いのに、警察なんかが社内をウロウロするのは、場違いすぎると断固として断られてしまったがね。」

黒川は、そこまで一気に話して、自分の喉が少し枯れて来ているのを感じた。


そこで先程追加で頼んだウーロン茶を一口飲んでから話を続けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る