第5話 剛社長の話
自宅の玄関先に通された黒川は、そこで中年男性に出迎えられた。
「父の何を聞きたいのですか?」
彼は少々不機嫌そうな表情を浮かべながら、黒川に話しかけて来た。
「ご協力どうもありがとうございます、剛社長。」
黒川は、事前に入手した写真で社長の顔を確認していたが、念のため本人確認を改めておこなった。
そして黒川の確認の呼びかけに、剛は軽く頷いて同意していた。
「それでは早速ですが、質問を始めさせていただきます。
会長が現在意識不明で病院に入院中との話ですが、そもそも会長は、いつそのような状態になられたのでしょうか?」
「つい先日の話ですよ。
その日の朝、父が毎日朝食を取る時刻の6時になっても起きて来なかったんです。
だから、
ああ、すみません。清子というのは
「清子さん。それは最初にインターホンに出られた女性の事でしょうか?」
黒川が確認した。
「そうです。」
社長が短く答えた。
「どうもありがとうございます。では、その方が第一発見者という事ですね。」
「まぁ、そうですね。
とは言っても、すぐに私の事を呼びましたので、実際は私が全て対応しました。
救急車を手配したのも私です。
こういう時は、専門家に少しでも早く任せるのが一番ですからね。」
「そうですか。社長が迅速な対応をされたのですね。ありがとうございました。
では、会長がどうしてそんな状況になったのか、何か心当たりはありませんか?」
「心当たりですか?
どうですかね…。
父は最近随分疲れていたからね。
そうだな、誤って投薬の量を多く飲んでしまったのかもしれないな…。」
剛社長は少し考えた後に、素っ気なく答えた。
「まぁ今は、ちゃんと入院して治療中なのだから、僕は何も心配はしていないんだ。
だから母だって、旅行をそのまま続けている位なんだ。」
「奥様は、ご旅行中なのですか?」
黒川がその話に少々驚いて答えた。
「ええ。
父の事は、突然の事だったからね。
母は既に先週から船でヨーロッパをクルージング中なんですよ。
倒れた事を知らせたりしたら、あの人なら余計な心配をして、せっかくの旅行を中断させてしまうだろうと思って、まだ母には連絡もしていません。
分かりますか?
父はそんな病状なんですよ。
だからあなた方が一体何を心配されて、突然こちらにやって来たのか、私には全く分からないんですよ。
さぁこれで、もう充分に父の容態については説明しましたよね。」
剛社長は、そう話しをしながらも、どこかまだ考え込むような仕草をしていた。
そこで黒川は、もう少し話を続けた。
「何かまだ気になる事でもあるのでしょうか?
どんな些細な事でも構いません。
もし宜しければ、教えていただけませんでしょうか?」
「うん…。
実は桜井コーポレーションの今期の業績があまり思わしくないんだよ。
その事を父は、最近かなり悩んでいたようなんだ。」
剛社長がそう答えてきた。
「そうだったのですか。
会長には深い悩み事があったという事ですね。」
「ああ。
これは、あまり他人に話すような事では無かったかもしれないがね…。」
「いいえ。教えていただき、どうもありがとうございました。」
黒川が答えた。
「まぁこれが捜査の参考情報にでもなってくれればいいのだがね…。」
剛社長が笑顔で答えた。
「それでは次に、お手伝いの清子さんからもお話を伺いたいのですが、宜しいでしょうか?」
黒川がたずねた。
「いいえ。それはもう必要ないでしょう。
これ以上、特にお話する事は無いと思いますからね。」
剛社長が答えた。
「まぁ、そこを何とか。
最初に会長を発見した方ですから、ぜひ本人から話を伺いたいんですよ。」
黒川が低姿勢ながらも頑として譲らずに願いを続けた。
「…分かりました。
それでは、彼女を呼んできます。」
剛社長はそう言うと、一旦部屋の中に入って行った。
まもなく、玄関先に剛社長と清子さんが出て来た。
彼女は恐縮した様子で黒川の方を見ていた。
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