第5話 朝、三人仲良し登校

 詩芙音しふぉんちゃんが転校してきた翌日の朝。


 いつものように目覚めてからキッチンに行き、モーニングの冷凍トーストを焼くセットをしてから急いで洗顔と歯磨きとブラシをして着替えるとちょうど良い加減に焼けたトーストの香りがしてくる。冷蔵庫からマーガリン、棚からハチミツを取り出したら幸せな朝食の準備完了だ。


 私の朝の準備が終わった頃、お母さんに怒鳴られて駆兄かけるにぃが二階から下りてきて寝ぼけまなこで私のトーストを取ろうとするのでグーでパンチして目を覚ましてやる。兄貴思いの妹でさぞ嬉しいだろう。


「ばっか!グーで殴るやつがあるか!痛ぇーなー」

「私の幸せを取らないでよ!いーから顔洗ってきなよ!」

「ったく、誰に似たやら。いーか、そんなことじゃ一生モテないからな!」

「誰がモテないって?ご安心あそばせ、お兄様。昨日はラブレターを2通も貰うほどあなたの妹はモテモテですよーだ!」

「はぁ?どれ見せてみろって!」


 私はランドセルに仕舞しまっていたラブレターを出して駆兄ぃに自慢してやる。


「ん……?

 なぁ、智優ちゆちゃん……」

「ほらビックリしただろ!?参ったか!!」

「参ったよ。そりゃ参るよ。これ女の子からのラブレターじゃん」



 いつもの時間より少し早く家を出る私。今日は詩芙音ちゃんとしおりちゃん、三人で登校予定だからだ。まずは私の家と近いところに住んでいる詩芙音ちゃんと合流して、次に栞ちゃんの家に向かう予定だ。


 今日も快晴、気持ちの良い青空が広がっている。少しすると詩芙音ちゃんが到着した。


「あ……。智優ちゃん、おはよぅ」

「詩芙音ちゃん、おはよう!今日は良い天気だね!」

「うん、ちょっとまぶしくて目が痛いくらい……

 まだ近所に慣れてなくて、ありがとうね」

「うん、いいよー。じゃあ、栞ちゃんの家に行こうか!」


 私は詩芙音ちゃんと手をつなぎ、歩き始めた。


「ねえ、『マルガレッタ』って読む?」

「あー、『君と過ごした終末』を連載してた雑誌でしょ?読む読む。智優ちゃんも読むの?」

「私はお兄ちゃんの買う少年雑誌ばっかり。あのね、栞ちゃんがそのマンガ好きみたいだから今度、女子会で語ろう!って」

「いいね〜、女子会。やろやろ」


 雑談しながら歩いていると栞ちゃんの家の前に着き合流完了。


「栞ちゃん、おはよう!」

「おはよー」

「智優ちゃん、詩芙音ちゃん、おは!」


 せまい道に広がらないように注意しながら歩く三人。そのかたわらを大型ダンプカーが地面を揺らしながら通り過ぎていく。


 舞金小学校を越えて山に入ると砕石場さいせきじょうがあり、工事関係のダンプカーが石や土の運搬うんぱんで常に行き来している。小学校に通う児童の親から危険が及ばないか市役所や工事関係者へ苦情を申し立てているが、都市開発に必要な工事を優先して大型車両の往来を止めることができない現状だった。


「ねえ、栞ちゃん。詩芙音ちゃんも『マルガレッタ』の『君と過ごした終末』、好きだって」

「本当!?やだ、女子会仲間が増えた感じ?」

「私、参加したら邪魔じゃない?」

「そんなことないよ!」


 栞ちゃんの満面の笑顔。趣味が合う同志は気も合うんだね。


「世界を壊してでも告白させたヒロイン、ヤバいよね……」

「えっ?世界が壊れ始めたのは主人公が『終末装置しゅうまつそうち』を起動させて並列世界へいれつせかいへの影響をおさえたんじゃ……」

「いや、その前のコマでヒロインが云ってるセリフが……」


 物語の解釈を譲らない二人……

 ん?何だか気まずい雰囲気になってない?


「わ、私、まだ読んでないから女子会の前に勉強しておきたいな!」

「じゃあ、家が近いから私が貸してあげるね」

「……」


 他の話題に移った後。昨日と同じく急に深刻な表情になった詩芙音ちゃんがうわさばなしのことを持ち出す。


「ねえ、栞ちゃん……

 『黄昏時たそがれどき告解室こくかいしつ』の噂ばなしって知ってる?」

「えっ?急にどうしたの、詩芙音ちゃん?」

「昨日、智優ちゃんに舞金小の噂ばなしを聞いて教えてもらったんだけど栞ちゃんも何か知ってるかなと思って」

「うーん、私が知っている話は…


【物知り栞のここだけの話コーナー】

■『黄昏時の告解室』の噂ばなし

・夕方、舞金小のどこかの教室に告解する部屋が出現する

・部屋の中央に仕切りがあり、椅子がある

・部屋に入ると遠くからオルガンの旋律が聞こえている

・部屋に入ると仕切りの向こうから声を掛けられ、逆らえずに椅子に座ってしまう

・先ず名前を聞かれ答えると、その後の質問に抵抗しても本音を話し出してしまう

・最後の言葉で告解の内容を赦されるが、『真実の答え』を云われてしまう

・『真実の答え』を聞くと影に支配されて化け物に変わってしまう


 っていう内容くらいかな。色々な人から聞いた話を繋げたんだけどね」


「えー!!栞ちゃん、詳しいね!!

 私、全然知らなかったヨ!!」

「だって智優ちゃん、面倒くさがって女子との繋がり薄いじゃん。そんなんじゃ噂ばなしなんて流れてこないよ」

「えっ?そんなこと……

 ひ、酷くない?栞ちゃん」

「えへ。でも私がカバーするから大丈夫だよ」

「あうあう。そういうことじゃなくて……」



(噂なのに告解室の内容が具体的過ぎる。

 まるで告解室を見てきたかのようだ。

 噂を現実化させるために仕掛られたのか……)

 聞こえないくらいの音でそうつぶやきながら舌打ちする詩芙音。



「朝から変な話を聞いてゴメンね……」

「もしかして詩芙音ちゃんって怪談話かいだんばなしとか好きなの?」

「???

 あー、そうそう。怪談好きなの!」

「そっかー。もしかしたら皆んなの前じゃ云えないから私たちに聞いてるかなって思って。

 安心して!私たち周りに怪談好きのこと、云ったりしないから!」

「智優ちゃん、ありがとうだよー」


 感謝の声とともに大袈裟なアクションで私に抱きつきほおずりする詩芙音ちゃん。

 うー、素で照れるんだけどなー。


……ズキン


「???」

「ん?どうしたの栞ちゃん?」

「いや、何だか今……」


 一瞬、栞ちゃんの眉間みけんにシワが寄り険しい顔になった気がしたけど怪談の話、嫌いだったのかな??



 そんな話をしているうちに校門の前に着き、校庭を抜けて玄関でくつき替える。私が下駄箱を開けると今日はラブレターは無い様子。ひと安心して教室へ向かった。


 舞金小学校は毎週水曜日の朝に全体朝礼を行っている。教室にランドセルを置くとぞろぞろと校庭に出て決められた場所に並び準備をする。校舎を背景に学年担当の先生がズラリと並び、ひそひそ話を止めない子どもたちを怒鳴りながら全体朝礼の始まりを待つ。


 8時になったところで体育会系の先生と体育委員の生徒が前に出て朝の体操を始め、それに従い先生を含めて全員が体操を始める。


 体操が終わると仙人のようなヒゲを蓄えた校長先生の面白い教訓話をして少し盛り上がるが、問題は次だ。


 髪油で光ったオールバックの教頭先生が大きな咳払せきばらいを行うといや〜な注意喚起が始まるのだった……


「再三、市に掛け合っているものの大型車両の通行は止められない状況であります。一方で小学校までの道は狭く、ところどころガードレールが無い場所があります。皆さんは道路に出ることなどないように、くれぐれも気を付けて登下校を行って下さい!」


 もう何度目か忘れるくらい繰り返し聞いた注意に眠気を誘われ欠伸あくびみ殺しながら空をながめていた。


「もう一点!皆さんの間で『学校の噂ばなし』とやらが流行っていると聞きました。あらぬ噂は学校の評判を落とすことに繋がります。もし『学校の噂』をする友だちがいたら止めるように注意してください!

 噂は現実になることがありますので絶対に広めないように!!」


(ふわ〜。教頭先生、何云ってるだろ??

 噂が現実になるの?まさか〜)


「噂が現実になるって。笑っちゃうよね、詩芙音ちゃ……」


 教頭先生の話を聞いていた詩芙音ちゃんの顔は引くくらい真面目まじめそのもの。えー、『学校の噂ばなし』ってそんなに大事な話なの?



 全体朝礼が終わり、頭の中が疑問符ぎもんふだらけのまま、教室に戻った。この後、ラブレターを巡るトラブルに巻き込まれるとは想像もせずに……

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