演算魔法少女☆ロジカル・シフォン 新作グリモワール始めました

いくま

第1章 演算魔法少女、誕生!

第1話 影の襲来、初の死闘!

 逢魔おうまが刻、翔北しょうほく市立 舞金まいがね小学校の校舎の中、4階廊下の6-2教室前で2m近い異形の影と対峙する美しい少女がいる。


 全身を明るいオレンジ色の濃淡にいろどられ幾つもの白いレースが背中から胸元のブローチに走り結ばれる。華奢きゃしゃなボディラインに密着した衣装を身にまとい、透けたロングスカートが優雅に揺れて魔女の持つ面影の雰囲気をかもしている。背中から生えた大きな光翼こうよくを揺らす少女は大人びた顔立ちに苦悶くもんの表情を浮かべて異形の影との間合いを図っている。


 それこそが二人の少女が一つに融合した存在、演算魔法少女☆ロジカル・シフォンだ!


 影が迫るごとに間合いを保とうと後ずさりを続ける。絶対に自然界には存在しない異常な姿と耳障りな雑音のうめき声から否応無くプレッシャーを感じる。それは捕食者が圧倒的な力を振るって小動物の命を奪おうと迫ってくる圧迫感に似たものだった。


 少女にとって初めての戦闘がもたらす緊張は小学6年生の身に重くのしかかり、恐怖と焦りが一層身体を強張らせていた。


 が、ががががががっ!!


「うわっ!」


 暗い影が揺れたかと思うと腕らしきものが鋭く尖った反物たんものの形に変わり少女に襲い掛かる。少女はのけ反り上体を反らしてすんでのところで影の攻撃を交わす! かすった前髪が舞い上がり、ふわりふわりと落ちていく。空振りした影の攻撃は廊下の窓ガラスに直撃したが割れずに鋭利な刃物で切り裂かれたようにスッパリと切断されていて攻撃が当たったら一溜ひとたまりもないことは一目瞭然いちもくりょうぜんだった。


詩芙音しふぉんちゃん、聞こえている! あれは何!? 私はどうすれば良いの!!?」


 私はロジカル・シフォンの内側に秘める友だち、詩芙音ちゃんに問い掛ける!


<一片に色々、云わないの! 良い、智優ちゆちゃん! は何をすれば良いか知っているから智優ちゃんが感じるように動けば良いんだよ。分かった?>

「そんな雑な説明じゃ分からないよ〜、詩芙音〜」

<いいから、私がアイツの『』を解析して正体を見極め、弱点を見つけるまで持ちこたえてよ!>


 影から伸びる反物の連続攻撃を避けるのに手一杯になりながら私の意識に直接語りかける詩芙音ちゃんに文句を云った。でも私の文句は無視されてダンマリであんまり……



「今の説明で何をすべきか分からなかったらこの先、永久に戦い方なんて分からんぞ、ボンヤリ子!」


 少し離れた場所で様子をうかがっていた口の悪い黒猫、ロムが念波テレパシーで私に話し掛け罵倒ばとうする。


「もー、うるさいんだよバカ猫! 今は精神論でどーにかなる時代じゃないんだよ! 私は新世代なんだよ!?」

「説明して分からないモノがどうにもならないのは旧世代でも新世代でも同じだ、バカモノ!」


「あー、超ウザイ! おとーさんと話してるみたい! もう半年くらい話してないけどネ!!」


「今は詩芙音の本質たる『』と結合して感覚が鋭くなっているから敵の動きをじっくり見るんだ。そして敵に動き出される前にこちらから動くんだよ!

 攻撃はイメージだ! 全身が武器だと思って身体を動かしてみろ! イメージした武器が具象化するから」

「はあ?…… 何云ってるか分からないわ。

 とにかく後で覚えてなさいよ、バカ猫!」

「くっくっくっ! 後があったらの話だな。良いから集中しろ!」


 横目でロムを見ると後ろ足であごいていた。本当に詩芙音ちゃんの使い魔なのかしら??性格も口も悪いったらありゃしないわ!


 うーん、詩芙音ちゃんの身体は何をすれば良いか知っている?じゃあ、私は何をすれば良いの?? あー、もー、分からないことだらけ。攻撃を避けているだけじゃ何も改善しないから……



――ぴぽっ、ぴーーーーーー

  無機質な電子音の合図


 シフォンの周りの時間が止まり感覚が研ぎ澄まされていく。急に電脳の空間に放り出されて浮かび流される。


――00 1A 57 FA 46 C4 5E D7 8B 5C 13 65……

  辺りは数字と英字の海


 私は鋭い短剣を持っているところをイメージする。細く長く波打つ刀身と一体のつか。柄には十字架に双頭の蛇が絡みつく装飾。銀色の刀身が放つ冷たい光は流れる水を瞬時に凍らせるようだ。


――0010 1100 1100 1110 1010 0001 0110……

  またたきすると海はゼロとイチが波寄せる



 ひゅん!!

 鋭い音が私を現実に引き戻す。


 2回バク転をしながら3回目で軽く宙に浮き上がり身体の天地が逆転したタイミングで影から伸びた手が耳の近くをかすめた。瞬間、私は手の指を揃えて手刀で想像の短剣を作ると影の手を切り落とした。まるでカッターで紙を切る時のようにスッと影の手に食い込み、そのまま影から突き抜けていた。


 ボトリ……

 切り落とされた影の手が落ちる音が聞こえる。


 影の本体から勢いよく黒い液体が吹き出し、落ちた影の腕は大きく跳ねた後、痙攣けいれんを続け、やがてもやのように消えていった。


「やった! 勝ったのかな??」

<よく見て、智優ちゃん! 影の本体は健在で切り落とした手は生え変わっているよ!>


 手を切り落とした刹那せつな、切り口から次の手が生えてきてすっかり元通りに戻っていた。


「くっ! 折角、反撃したのにダメージを与えられていないみたいだ!」

<智優ちゃん、影は影の元になった人間と影を切り離さないと倒せないはずだよ! もう少しだけ『』解析の時間を稼いで!>


 ぁ゛あ゛あ゛ーーーー!

 ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛ーーー!!


 不気味な叫び声を上げて腕を切り落とされたことへ怒りをあらわにしている影の本体。


 そして影の本体が割けて見えた内部には……

 なんと私の幼馴染み、神埼かんざきしおりちゃんの姿が!!


【智゛優ちゃん、コ゛メン゛ナ゛サイ゛……

 私、こんなことがしたかったんじゃない。

 今までと同じようにでいたかっただけなのに

 誰゛か私゛を止め゛てーーーーー!!!】


 再び影の中に飲み込まれた栞の悲痛な叫び声はロジカル・シフォンの耳には届かなかった……

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