第28話:塩作り

帝国暦1121年・神暦1021年・王国暦121年11月30日・ロディー視点

ロディー15歳


「創りだした作物の使わない部分を集めてくれ。

 灰にして塩作りの材料にする」


 俺がそう言うと、多くの者が驚いていた。

 大森林の民や肉食獣は、生肉を食べたり血を飲む事で塩分をとっていた。

 草食獣は湧水近くのミネラルが集まる場所の土を食べたりして塩分をとっていた。

 ドワーフややエルフなどの高価な製品を作れる者は、交易で塩を買っていた。

 だから、誰も草木を焼いた灰から塩を作る方法を知らなかった。


「このような方法で塩を作り出す事ができるのですか?!

 初めて知りました!」


 数千年を生きてきたエンシェントドワーフとは思えない言葉だが、長年生きてきた分、その力でいくらでも人から塩を買えるようになって忘れ去られたのだろう。

 緑竜ジュダックと聳孤ハワードに至っては、軽く飛ぶだけで何時でも海水を飲めるので、知る必要もない知識なのだろう。


「普通に水をまいて作物を作り続けると、塩分が地中から湧き出て来て害が起こる。

 そうなると塩に強い作物しか作れなくなる。

 畑の土に含まれる塩の量には常に気を付けなければいけない。

 同時に、このやり方で塩を作るのは効率が悪い。

 次の方法を試すから、やり方を覚えてくれ」


 俺は前世の知識で灰塩を知っていた。

 大量の産業廃棄物になるバナナの可食部以外から塩を造る計画も知っていた。

 色々な成分を加えたオリジナルの塩が売られているのも知っていた。

 だったら、今の俺の能力で、オリジナル塩が実る食物を創り出せばいい!


 代表的なオリジナル塩、塩胡椒になる胡椒の木を創り出す。

 地中の塩分を胡椒となる果実部分に集める塩胡椒の木を創造した。

 同じようにオリーブの実に塩を集める塩オリーブの木。

 球根部分に塩を集める塩ニンニク多年草。

 根茎部分がカレーの材料になるウコンに塩を集めるようにした塩ウコン草。


 俺は領民の意見を聞きながら試作を続けた。

 俺がいなくなっても塩を確保できるように、六圃輪栽式農法で使える作物を創り出そうとして、塩チョウジ、塩バジル、塩カルダモンなどを創り出した。

 もちろん将来カレーを創り出す事も考慮して、塩を集めないスパイスも育てる。

 結果、領内の香辛料熱が劇的に高くなった。


「このカレーというモノは恐ろしくエールに合う。

 特に氷魔術でキンキンに冷やしたエールとは凄く合う。

 カレーこそがエールに1番合う料理だ!」


「いや、いや、それは違うぞ、ジェイミー殿。

 キンキンに冷やしたエールと1番合うのは焼肉だ!

 香辛料と醤油から作ったタレに付け込んだ肉こそがエール最高の友だ!」


「いや、いや、いや、タレ焼肉に1番合うのは火酒だぞ、ジュダック殿。

 焼き肉の油を洗い流すだけでなく、咽を焼くほど強烈な酒精の火酒。

 火酒こそが焼き肉を1番美味しく食べさせる酒だ!」


 領内の各所で酒と料理のマリアージュについて激論が戦わされた。

 俺を怒らせるのが怖いので、腕力に訴えられる事はないが、激しい舌戦による醜い争いがそこかしらで見られた。


「酒も料理もその人の歴史や好みがある。

 人様の人生や好みに口出しするような奴に酒を飲む資格はない。

 少なくとも俺の酒は飲ませない!」


 俺の言葉で醜い言い争いは終戦となった。

 誰もが俺の酒を飲めなくなる事だけは避けたかったのだ。

 ドワーフ族が造る酒も、この世界では他の酒とは比較にならない銘酒なのだが、それでも俺の酒の足元にも及ばない。


 まして俺の酒が出回らなくなったら、造る先から飲んでしまう事になる。

 そうなると2年熟成された古酒すら幻の銘酒になってしまう。

 俺が造る30年エイジング清酒など、天上の神酒となる事だろう。

 神酒を失うくらいなら、自分の主義主張やプライドなどかなぐり捨てて、他人の意見に同調するくらい酒好きの領民たちだ。


 この1カ月の間にアズナブル商会は3度も交易団を派遣してきた。

 1度目は前回の失態を取り戻そうとしたサンマロ4代目会長と、今も1番権力を持っている65歳の3代目会頭エルランが一緒にやってきた。

 俺もエルランには多少の思い入れがあったが、心を鬼にして厳しくした。

 俺は会わずに、緑竜ジュダックと聳孤ハワードに任せた。


 エンシェントドラゴンと四霊獣に睨まれては駆け引きなどできなかったようだ。

 しかも2人の横には、俺の弱点だと思っていた塩が山積みされている。

 ひたすら前回の思い上がりを謝るしかなかったと後で聞いた。

 結局彼らは最初に約束していた定価を大幅に引き下げる事になった。

 それでも結構な利益が上げられるはずだから、胸は痛まない。


 それに、アズナブル商会には温情も掛けてやっている。

 交易品1つ当たりの利益は引き下げたが、交易品と交易量は増やしてやった。

 最終的に手に入る利益は前回と同じだ。

 少し今までより忙しくなるが、商人ならば忙しい方がいいだろう。


 新たな交易品の1つがメイプルシロップだった。

 蜂蜜は集めるのに蜜蜂の力が必要になるが、メイプルシロップなら人力だけ。

 そしてサトウカエデは俺の力でいくらでも創り出す事ができる。

 一旦大木を生みだしたら、前世のサトウカエデでも300年以上の寿命がある。

 俺が創り出したサトウカエデなら、1000年以上の寿命があるだろう。


 それに、今の主力商品である黒砂糖よりも遥かに楽に集められる。

 だから黒砂糖の量は依然と同じにして、増やした甘味はメイプルシロップだ。

 メイプルシロップだけにしなかったのは、黒砂糖が軍需品だからだ。

 兵士に持たせる携帯食としては、少量で多くのカロリーを摂取できる。

 なにより兵士の士気を高められる大のご馳走だからだ。


 ワインを原料にしたドワーフワイン

 ワインの搾りかすを原料にしたエルフワイン

 リンゴを原料にしたドワーフシードル

 梨を原料にしたドワーフペリー

 米を原料にしたドワーフ清酒

 米を原料にしたドワーフ濁酒

 大麦を原料にしたドワーフエール

 同じく大麦を原料にしたドワーフ麦焼酎

 サツマイモを原料としたドワーフ芋焼酎

 ライ麦を原料にしたドワーフクワス

 砂糖黍を原料としたドワーフ黒糖焼酎

 サトウキビの搾りかすを原料としたエルフ黒糖焼酎(エルフラム)


 などの種類がアズナブル商会に試飲分として提供され、エルラン会頭が平身低頭頼み込んだ事で販売される事になった酒類。

 俺たちとしても、試作中の失敗作が高値で売れるだけでなく、恩まで着せられるのだから、とても有利な交易になる。

 以前から交易品だった砂糖とバナナ、日持ちのする果物と薬草も売った。

 

 問題となったのはアズナブル商会が何を代価にするかだ。

 正直これ以上の命を背負いたくない。

 今でも俺の胆力から言えば負担なくらいの命を預かっている。

 今は、ドワーフたちはもちろん世界樹も緑竜も聳孤も俺に従っている。

 だが、俺が死んだ後も約束を守ってくれるとは限らないのだ。


 だから3回目の交易で寡婦58人孤児82人を受け入れたのを最後に、小作人を代価とする事は止めさせた。

 4回目と5回目の交易では家畜だけを代価とした。

 その代わり少々高値になる事も認めた。

 3回の交易で受け入れた家畜は以下の総数となった。


軍用馬:10頭

輓馬 :28頭

牛  :59頭

山羊 :127頭

羊  :286頭

豚  :293頭

鶏  :1400羽


 急に軍用馬が現れたのは、愛馬の嫁が必要だったからだ。

 牛が増えたのは、来る時に輓馬の代わりに馬車を牽かせたからだ。

 羊が増えたのは、肉用家畜として集めやすかったからだ。

 豚も同じで、肉用家畜として集めやすかったからだ。

 鶏は、俺が走鳥の卵よりも鶏の卵の方が美味しいと思っていたからだ。


 色々な新品種を考えた事でステータスが飛躍的に上がった。

 1の城の城壁と空堀を増改築した事でもステータスが上がった。

 長期保存に適さない作物を全て醸造発酵させた事もステータスを上げた。

 領民たちを指導した事もステータス上昇につながった。

 もちろん魔力を循環増加させて蓄えた事もステータス上昇につながる。


 全ては1年前から、いや、生まれてきた時からの目的のためだ。

 この世界で俺らしく自由に生きていく。

 大切な人を護るための力を手に入れる。

 祖父母や両親、王家の事などどうでもいい。

 俺を慕ってくれる弟妹を護る!


 あと1カ月すれは、俺も昨年受けた神与の儀式が行われる。

 10人に1人しか武術系スキルは与えられない。

 長弟のルキウスが武術系スキルを神与されれば安泰だ。

 あいつなら、死ぬと分かっていて戦場に弟妹を送ったりはしない。

 次期当主として祖父母や両親を説得して、俺の所に送ってくれる。


 問題はルキウスが武術系スキルを神与されなかった時だ。

 その時に、俺と同じように大森林に追放されれば助けられる。

 だが戦場に送られるような事になれば、戦死させられるかもしれない。

 いや、あの祖父母と両親ことだ、王太女アレッサンドラに武術系スキルが神与され、殺せと言われたら必ず殺してしまうだろう。


 だから俺はとっておきの方法を使う事にした。

 命懸けの切り札をここで使う事にした。

 慎重で臆病な俺だが、愛する弟妹たちの命を護るためなら命を賭ける事ができる。

 ここで命を賭けずしてどこで命を賭けるというのだ!


『ロディー騎士領』

領主:ロディー

家臣:エンシェントドワーフ・38人(ジェイミー、ナイル・ショーンなど)

  :ハイドワーフ    ・74人

  :エルダードワーフ  ・116人

  :ドワーフ      ・519人

家臣:人間        ・1人(アルフィン)

小作:人間男       ・24人

  :人間女       ・24人

  :人間子供      ・35人

  :人間寡婦      ・172人

  :人間孤児      ・214人

馬 :軍馬        ・11頭

  :輓馬        ・48頭

  :牛         ・117頭

  :山羊        ・202頭

  :羊         ・210頭

  :豚         ・468頭

  :鶏         ・2600羽

  :走鳥        ・625羽

『ロディー』

種族:ホモサピエンス

神与スキル:農民  ・レベル10085

     :自作農民・レベル10741

     :開拓農民・レベル105896

     :地主農民・レベル11268

     :武装農民・レベル10085

 付属スキル:耕種農業レベル10085

        耕作  レベル5748

        種蒔き レベル3325

        品種改良レベル3325

        農薬生産レベル3985

        農薬散布レベル3985

        選定  レベル5479

        収穫  レベル 896

        剣鉈術 レベル10085

        戦斧術 レベル10085

      :工芸農業レベル212

        木工  レベル212

        紡績  レベル212

        織物  レベル322

      :自作  レベル10741

        燻製  レベル68

        酒造  レベル10741

        発酵  レベル10741

        陶芸  レベル225

        料理  レベル3428

      :開拓  レベル105896

        伐採  レベル5327

        建築  レベル1293

        石工  レベル  21

        魔力生産レベル105896

        魔力増幅レベル105896

      :地主農民レベル11268

        領民指導レベル11268

      :武装農民レベル10085

        剣術  レベル10085

        槍術  レベル96

        戦斧術 レベル10085

        弓術  レベル195

        石弓術 レベル9

        拳術  レベル9

        脚術  レベル9

        柔術  レベル9

        戦術  レベル9

        馬術  レベル768

        調教術 レベル768

 一般スキル:生産術レベル2942

        木工 レベル1293

        絵画 レベル9

        習字 レベル9

        算術 レベル9

        料理 レベル3428

        刺繍 レベル9

        裁縫 レベル32

        大工 レベル1293

        石工 レベル21


「基本能力」

HP:3328497

魔力:3012619

命力:2390011

筋力:2552132

体力:2419248

知性:2381694

精神:2217335

速力:2016853

器用:1480760

運 :1480760

魅力:1480760

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る