第20話:時間攻め

帝国暦1121年・神暦1021年・王国暦121年6月20日・ロディー視点

ロディー15歳


 俺が挑発してもガブリエルはグッと我慢していた。

 自分たちがやった事が他種族にどれほど批判されるか、理解していたのだろう。

 時間をかけてうやむやにしようとしていたのかもしれない。

 あるいは敵対する他種族を裏工作で味方に付けようとしていたのかもしれない。

 だがそんな策は、全て味方であるはずの愚かなエルフに潰されてしまった。


「下賤で薄汚い人間やドワーフが我らエルフ族に宣戦布告するだと?!

 思い上がりもはなはだしい!

 エルフ族以外は獣同然、我々のお情けで生かせてもらえているのだ。

 ルイーズの馬鹿を撃退したくらいで思い上がるな!

 ガタガタ文句を言うのなら今度こそ滅ぼしてしまうぞ!?」


  背後から放たれたあまりに傲慢な言葉に、ガブリエルが一瞬唖然とし、直ぐに止めようとしたが、俺とジェイミーが動けないように殺気を放った。

 俺たちの2人の殺気を無視して背中を向けられるほどガブリエルは強くない。

 ガブリエルも強大な力を持つエンシェントエルフではあるが、同格のエンシェントドワーフと俺を同時に敵に回すほどは強くない。


「今のエルフ族の言葉、しっかりと聞かせてもらった」

「とてもではないが、聞き逃せる言葉ではない」

「獣と変わらないと言うのは、我らドライアド族の事まで言っているのだな?!」

「どうやら愚かなエルフは妖精族と獣人族、獣と魔獣の違いも分からないらしい」


 あらかじめ隣室で待ってもらっていた、ゴブリン族、コボルト族、ドライアド族などが文句を言いながら入ってきた。

 それをみたガブリエルは罠にはめられたと俺とジェイミーを睨んでいる。

 俺の言葉に反論した愚かなエルフたちは、入ってきた妖精族たちを睨んでいる。


「各種族の代表の方々にはご足労願って申し訳ありませんでした。

 ですがここまでしないと、下賤で愚かで傲慢なエルフは自分たちの罪を認めず、被害者が更に苦しめられる事になります。

 それは私たち人族やドワーフ族だけの事ではありません。

 私たちを奴隷にした後は他の種族も奴隷にしようとするでしょう。

 一緒に戦ってくれとは申しません。

 私たちがエルフ族を滅ぼすのを認めていただきたいだけなのです」


「誰が下賤で愚かで傲慢だ!

 下賤で愚かで、傲慢で卑怯なのは人間とドワーフであろう?!

 お前たちも同じだ、下等で醜い偽者が!」


 ガブリエルの背後に立っているエルフ族たちは、自分たちが優良種で、他の種族は全て劣等種だとだと思っているのだろう。

 これだけの種族が集まった場で、実力もわきまえずに喧嘩を売ってきた。

 他人の実力を見抜く力がないだけでなく、自分の実力すらわかっていない。

 だが、これで俺の目論見通り、エルフ族を滅ぼす事ができる。


「では皆様方、今回のもめ事がエルフ族による一方的な攻撃であった事。

 当然の権利として反撃と賠償の請求、強制徴収を認めていただきますね?」


「いや……」


 ガブリエルは俺の言葉と種族代表たちの言葉を遮ろうとしたが、無駄な事だった。


「認める」

「当然の事だな」

「自業自得と言うモノだろう」

「エルフ族には今言った大言壮語を証明してもらおうではないか」


 ここに集まってくれている種族はエルフ族が大嫌いな者だけだ。

 エルフ族もドワーフ族も嫌いな種族は来ていない。

 そんな種族でも今回は最低でも中立を守ってくれる。

 俺はそんな圧倒的に有利な状況を作った上で、エルフ族に暴走させたのだ。


「やれるものなやらってみるがいい。

 我ら誇り高く高貴なエルフ族とお前たちの違いを思い知らせてやる!」


 名前も知らない愚かなエルフ族は激昂して喧嘩を買ってくれた。

 ここまでもめた状況では、ガブリエルが有利な交渉をする事は不可能だ。

 少しでもエルフ族に不利な条件を提示したら、後ろのエルフに攻撃される。

 ガブリエルの実力なら返り討ちにできるだろうが、里に帰った後で他のエルフ族を説得する事は不可能だろう。


「では、今日この場をもって我らとエルフ族の戦いが始まったという事でいいですね、ガブリエル殿」


「……もはや和平の道はないのか、騎士殿」


「エルフ族がその傲慢な性格を矯正して、頭を下げて詫び、賠償金を支払ってくれるのなら戦いは回避できますが、無理でしょう」


「誇り高く高貴なエルフが、獣よりも汚らわしい人間やドワーフに頭を下げて賠償金を支払うだと?!

 エルフ族が滅ぼうともそのような屈辱を受け入れられぬ!

 そもそもエルフ族には何の非もないのだ。

 小汚い人間やドワーフに謝る理由も必要ない!」


 また馬鹿なエルフ族がこちらの思い通りに踊ってくれた。

 俺の横に並んでいるジェイミーも、後ろで護ってくれているドワーフたちも、怒りに震えているのが伝わってくる。

 他種族の代表たちも不愉快なのだろう、顔を歪めてエルフ族を睨んでいる。


「……分かった、戦いは避けようがない。

 だが、この場で開戦というが、私たちの無事は保証してくれるのだろうな?

 まさか私たちをこの場で皆殺しにする気ではないだろうな?」


 ガブリエルは、愚かな仲間が買ってしまった絶対不利な状況を打開しようとする。

 確かに言葉通りなら、この場で交渉役を皆殺しにしてもかまわない。

 先に宣戦布告なしに寝込みを襲ったのはエルフ族だ。

 他種族の代表たちが、俺やドワーフ族に卑怯な行いはなかったと証言してくれる。

 だが、エルフ族にはもっと悪評を背負ってもらう。


「俺たちをエルフ族のような卑怯下劣な種族と一緒にしないでくれ。

 使者として詫びに来たと言いながら、何1つ自分たちの非を認めないどころか、逆にこちらを悪者にしようとする。

 更に交渉の場で喧嘩を売り、我らを殺すと脅した。

 本来ならこの場で殺しても何の問題もない」


 俺はそう言って他種族の代表たちに視線を送った。


「人間やドワーフ族だけでなく、我らの名誉まで穢した」

「その通りだ、この場で殺されても当然だな」

「ドライアドの代表としてこの場で殺して当然だったと証言しましょう」

「本当なら俺がぶち殺してやるところだ」


「やれるものならやってみろ。

 誇り高く高貴なエルフがお前らごときに殺されるモノか!」


 罠にはめるために怒らせたとはいえ、そろそろ我慢の限界だ。

 これ以上小汚い言葉を聞いていたら耳が腐ってしまう。

 それ以前にドワーフ族たちが暴発してしまう。


「では、足元の明るいうちにお帰り頂きましょう。

 私たちは、交渉の場で喧嘩を売るような傲慢で常識も礼儀もないエルフぞぅとは違うのですよ。

 卑怯な不意打ちと夜襲が大好きな誇り高きエルフ族様」


「「「「「ぷっ、ウッワッハハハハ」」」」」


 そんな心算はなかったのだが、ドワーフ族や他種族代表の笑いのツボに入ったようで、交渉の場は大爆笑になった。

 それも、心からエルフ族を嘲笑う大爆笑だ。

 その後エルフ族が聞くに堪えない悪口雑言をくり返したが、もう思い出せない。

 

「いい加減にしろ!

 お前たちの所為で、大森林中の種族を敵に回した戦争が始まるのだぞ!

 自分たちが口にした事の責任をとる心算なら、急いで戦争の準備をしろ!」


 ガブリエルが本気の殺意を同族に放ってその場を収めた。

 怒りと絶望のあまり、里に帰ってからの事を考えられなくなったのだろう。

 もう少し前にそこまでの怒りと絶望を感じていたら、一緒に来たエルフ族を皆殺しにしてでも和平交渉をまとめようとしただろう。

 保身のあまり覚悟が定まらなかっただろうな。


「では、傲慢なエルフも帰った事ですし、ご足労して頂いた代表の方々を歓待する酒宴を開かせていただきます」


 俺は各種族代表とその護衛、警備当番にあたっていたドワーフ族に酒を飲ませた。

 このまま放っておいたら、ドワーフ族が怒りのあまり直ぐにエルフ族の里を襲ってしまうと思ったからだ。

 別にエルフ族を皆殺しにしたくない訳ではない。

 単に少しでも有利な状況で戦いたいだけだ。


「20日もエルフの里を襲わないと言うのか?!」


 酒宴で浴びるように酒を飲んでいるジェイミーを捕まえて今後の事を話した。


「今直ぐ襲ったら、エルフ族も種族一丸となって必死で抵抗するだろう。

 だが20日も間を空けたら、目端のきく者は逃げ出す。

 その中に和平交渉で喧嘩を売った者がいたら、エルフ族は内部分裂する。

 場合によったらエルフ同士で殺し合ってくれるかもしれない」


「……そのような行為は好きではないのだがな」


「俺だって好きではないぞ、ジェイミー。

 だが全部エルフ族の自業自得だ。

 それに、中には戦いたくない者もいるかもしれない。

 あのエルフ族の性格では期待薄だが、他種族を尊重する者がいるかもしれない。

 何より戦う気がない女子供を殺すのは嫌だ」


「ふむ、20日間を空けて、逃げたい者が逃げられるようにするのか?」


「ああ、エルフ族らしい傲慢な所はあるが、ガブリエルは彼我の戦力差が分かっていて、できるだけ戦いを避けようとしていた。

 女子供を連れて逃げてくれるかもしれない」


「ふむ、女子供を殺したくないという意見には同意したいが、我らドワーフ族とエルフ族の仲の悪さは特別だ。

 女子供であろうと容赦せずに殺せという者もいる。

 まして今回あれほど罵倒されたのだ。

 私が止めても止まるかどうか……」


「それは俺も理解している。

 だから、20日間、開戦の景気づけに酒宴を開く。

 開戦は戦勝祈願の酒宴の後と言ったら、ドワーフ族は聞いてくれるか?」


「騎士殿はドワーフ族の事をよく分かってくれている。

 酒宴、特に戦勝祈願の酒宴が終わる前に戦いをしかけるドワーフ族はいない」

 

 俺の思惑通りドワーフ族は大酒宴に興じてくれた。

 だが天敵エルフ族の夜襲を忘れたわけではない。

 警備当番にあたった者はキッチリとエルフ族の襲撃に備えてくれた。

 俺はその20日間に武術スキルを磨いた。

 剣鉈術や戦斧術だけでなく、弓術や槍術も磨いた。


「ジェイミー、低レベルでもかまわない。

 俺に各種魔術を教えてくれ」


「残念だがドワーフ族に魔術の素養がある者は殆どいない」


「構わない。

 低レベルのファイターボールやソイルボールでもいい。

 俺に魔術を教えてくれ」


 俺は魔術も学んだ。

 戦うためのスキルを得るために20日を使った。

 自信がなければ酒宴を延期するつもりだったが、予定の強さには達した。

 だから、ここ、エルフ族の里を囲む場所に来ている。

 完全武装のドワーフ族を率いて。


『ロディー騎士領』

領主:ロディー

家臣:エンシェントドワーフ・37人(ジェイミー、ナイル・ショーンなど)

  :ハイドワーフ    ・69人

  :エルダードワーフ  ・98人

  :ドワーフ      ・435人

家臣:人間        ・1人(アルフィン)

小作:人間        ・83人


『ロディー』

種族:ホモサピエンス

神与スキル:農民  ・レベル6593

     :自作農民・レベル4351

     :開拓農民・レベル14523

     :地主農民・レベル3214

     :武装農民・レベル5219

 付属スキル:耕種農業レベル6593

        耕作  レベル1697

        種蒔き レベル1685

        品種改良レベル1685

        農薬生産レベル899

        農薬散布レベル899

        選定  レベル4322

        収穫  レベル 896

        剣鉈術 レベル6593

        戦斧術 レベル6593

      :工芸農業レベル212

        木工  レベル212

        紡績  レベル212

        織物  レベル212

      :開拓  レベル14253

        伐採  レベル5327

        建築  レベル1293

        石工  レベル  21

        魔力生産レベル14253

        魔力増幅レベル14253

      :自作  レベル4351

        燻製  レベル68

        酒造  レベル4351

        発酵  レベル4351

        陶芸  レベル225

        料理  レベル938

      :地主農民レベル3214

        領民指導レベル3214

      :武装農民レベル3821

        剣術  レベル5219

        槍術  レベル96

        戦斧術 レベル5219

        弓術  レベル97

        石弓術 レベル9

        拳術  レベル9

        脚術  レベル9

        柔術  レベル9

        戦術  レベル9

        馬術  レベル516

        調教術 レベル516

 一般スキル:生産術レベル1055

        木工 レベル1293

        絵画 レベル9

        習字 レベル9

        算術 レベル9

        料理 レベル938

        刺繍 レベル9

        裁縫 レベル9

        大工 レベル1293

        石工 レベル21


「基本能力」

HP:9663397

魔力:9488172

命力:5917928

筋力:526337 

体力:493775

知性:474122 

精神:431843

速力:339000

器用:339000

運 :339000

魅力:339000

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