異世界美少女に転生した俺がイケメンたちに迫られすぎて正直ツラい
ちだはくさい
第1話 世界最速のさようなら異世界
単刀直入に言おう。
これは、「異世界転生」というやつだ。
都会の人混みと汚れた空気はもはや思い出せない。
圧倒的大自然。遠くに見える小さな街。ビルや電線なんてものは見えない。
揺れる馬車の中で、俺は大きな背伸びをした。
背伸びを終えて吐いた息を戻すように、大きく深呼吸する。
――馬クサッ。
異世界は現代からしたら相当臭い。
現代じゃ見られない光景に先ほどから心を躍らせているが、さっきから臭いが気になって仕方がない。
「さっきはありがとな、旅人さん」
御者のおじさんがこちらを振り向かずに言う。
「あ? あぁ、いや、俺は当然のことをしたまでっす」
「それでも助けられたのには変わりねえよ」
この馬車とはつい先ほど、俺が転生直後に出会った。
行く当てもなく道沿いを歩いていたところ、山賊に囲まれた馬車に出くわし、助けた流れで近くの街まで乗せてもらえることになったのだ。
「あんた、ほっそい身体してひ弱そうなのに意外と強いんだなぁ」
「俺は全然。この剣のおかげっす」
そう言って俺は豪華な装飾の施された片手剣を掲げてみせた。
身なりは革製の服で覆い現地人っぽいが、肉体は日本の当時のまま。身長170cm体重60kg。もちろん山賊相手に戦える身体ではない。
そんな俺でも余裕で勝てたのは、ひとえにこの剣のおかげだ。
異世界転生する前に女神を名乗る者から「転生特典」としてもらった剣。転生チート無双用のアイテムだと言っていた。所有者に適したチートアイテムになるとか。
実際に屈強な山賊5人相手でも、10メートル離れた位置から剣一振りで全員全裸にして追い返したくらいだ。風圧だけでその威力とは、まさしくチートアイテムだ。
「そんな強いのに謙遜するなんて、あんたきっと大物になるよ。せいぜい長生きしてくれよな」
「恐縮っす」
「ここから峠に入るから、揺れがひどくなるぞ。舌噛まないように気をつけてな」
道幅も狭く、馬車が崖際スレスレを走っていく様を眺めながら、俺はこれからの異世界生活について夢を膨らませる。
これでも日本にいたときはアニメや漫画が好きだった。異世界転生、ましてやチート武器持ちといえば、待っている未来は富と名声と美少女に囲まれる異世界無双ウッハウハ生活だろう。エルフ、獣人といった日本じゃあり得ない美少女たちが俺を待っている。
そんな妄想に心躍らせていると、突然馬車がふわりと浮くような感覚を覚えた。
「あー……、なぁ、旅人さん」
御者に目をやると、御者はこちらへ振り向き、自らの額をこつんと拳で小突いた。
「わり、脱輪しちゃった。てへぺろ☆」
「は?」
瞬間、身体が宙に浮く。いや、馬車が落下しているのだ。
「いやぁ、すまん。舌噛んで痛くて馬に変な指示出しちゃってさ」
「なんでオマエが舌噛んでんだよふざけんな!」
「ほっぺにできた口内炎が気になっててさ、ずっと舌でいじってたんだよね」
「口内炎をいじるな! 治るの遅くなるから! ビタミン取って睡眠しっかり取れ!」
「帰ったらそうするよ」
「帰れるかどうかも怪しいんだよ! 壊滅的だよ! てかもうちょっと焦ろよ!」
「いやぁ、焦っても良いことないよ」
「誰のせいでこうなってんだよ!!」
チートアイテムでどうにかならないか、とも思ったが、結局はただの剣。戦うことには敵なしでも、重力には勝てない。
――あぁ、さらば、俺の輝かしい異世界ライフ。
転生RTA最速記録、更新っすわ。
そして、視界は暗転した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます