患者の娘

むーこ

第1話 差し入れ

街の総合病院に医師として勤めるその男には自ら何も持たない道を選択した。

妻子はもたず、かといって独身生活を彩る為の趣味も持たず、仕事以外の時間は安酒を煽るか寝るか、または近所のスーパーに酒の補充に行くかして過ごしていた。


ある日、自身が主治医を務める患者の娘が「いつもお世話になってますので」と何やら紙袋を寄越してきた。病院では患者からの差し入れを受け取ってはいけないことになっていたが、娘は男の手に紙袋を無理矢理に持たせて帰ってしまった。

差し入れの中身は野菜のたっぷり挟まったサンドイッチだった。


この日以降、娘はたびたび差し入れを(半ば無理矢理だが)くれるようになった。差し入れの内容品は野菜の入ったコンソメスープ、カットフルーツなどどれも健康的な食品ばかりだ。


「そんなに不健康そうに見えるかね」


男は苦笑いしながら差し入れを胃に詰め込んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る